幽霊作家ああああの来歴
@yuusha-aaaa
第1話
打ち合わせの予定は午前十時からだったはずだ。
勘違いだったかもしれないと思い手帳を確認したがどうやら勘違いではないらしい。いつも打ち合わせに呼ばれる執務室は施錠されており、担当者の姿は見えない、不在のようだ。
人気のない廊下に置かれた冷たいベンチで時間を潰すのも、名も無き
どちらにせよこの打ち合わせ以外に予定もない。取り立てて困ることもないのだから怒りも湧いてこない。
湧いたとしてもどうせ怒りをぶつけることもできない。
相手はたった一人の依頼主で僕はたくさんいる業者のうちの一人だ。
しばらく待っても依頼主様は一向に姿を見せない、来る気配もない。どうやら五分や十分の遅刻では済みそうにない。
おそらく約束自体を忘れてしまっている可能性大だ、昼過ぎにはやってくるだろうか。
流石にそれまで待つのも癪なので置き手紙でもしてこの場を立ち去っても良いのだがどうしても踏み切れない理由があった。
今日会うはずの相手。
担当者ではない、もう一人。僕がこれから書くことになるであろう自伝、あるいは暴露本かもしれないが、その語り手。
勇者ああああ。
いや、もう勇者ではないのかもしれないが、元勇者?とにかくその人だ。
三十年近く前に魔王を討伐してこの世界を滅亡の淵から救った伝説の英雄。
それ自体は僕が生まれる前のことで遠い出来事だがそれでもその後の勇者は世界で最も偉大な英雄だった。その事績は間違いなく歴史書に記されるだろう。誰しもがそう思っていた。
何年も前、数々のスキャンダルがゴシップ記事として世に出るまでは。
彼の事績は歴史書に記される前にゴシップ誌に記された。
吹き荒れたバッシングの嵐は魔王討伐という事績を傷つけることはできなかったがその名誉によって築かれた彼の立場を壊した。
そして彼の周囲にいた人々のほとんどが去っていった。
食い詰めた彼と、そこに目をつけた僕の依頼主、で呼ばれたのが僕。
スキャンダルで全ての名声が破壊され尽くした今となっても、彼が語る当時の裏話には需要があるに違いない。
それに僕と彼の間にはちょっとした縁がある。
それは因縁と言って差し支えないと思う。
幽霊作家ああああの来歴 @yuusha-aaaa
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