エロゲの彼女がリアルの彼女

古都

第1話 俺の宝は死んでしまった

 俺はリア充だ。私立の進学校に通う高校2年生。運動もできて、勉強もできる。楽器も。絵に描いたような優等生。しかもイケメン。俺の周りには女子が集まる。学校のマドンナ級の美少女がたくさん。最近の困りごとは、告白してきた女の子9人の誰に決めるかだ。どの子もかわいくて、優しくいい子だ。俺にはもったいないくらいに。だが、俺の心は一つに決まっている。俺のメインヒロイン、ナナミたんに!


※※※


大和やまとくん。それで、どう、かな?…』


 ナナミたんが俺と二人で出かけた帰り、クリスマス飾りがキレイに輝くツリーの前で告白してきたところだ。


A∶『こちらこそよろしくお願いします!』

B∶『すいません。他に好きな人がいるんです』

C∶『えっ?なんだって?』


 俺はもちろんAで答える。


『これで、私は大和くんの彼女になれたのかな?あ、あのね、彼女になったから、名前で、呼んでもいい、かな?』


A∶『え〜どうしようかなぁ〜』

B∶『ど、どうぞ!』

C∶『いいわけねーだろ。頭湧いてんのかコラ!』


 Cは論外だが、AとBで迷う。男のAはなんかキモい気がするからBだな。


あらたくん。…なんだか照れるね。……ど、どうする?このあと、ウチ来る?』


A∶『い、いいのか?』

B∶『ま、マジすか?…今、手持ちないから、アレ、コンビニで買って行くか?』

C∶『七海って処女?』


 Cだけストレートすぎるだろ。これはきっと誘われているから、ゴムが必要だな。Bだ。


『私、家にピルあるし、今日は大丈夫な日だから、生でもいいよ?』


 準備がいいな。


『じゃあ、そのまま行こう』


 

 ここで、俺の意識は唐突に途切れた。


※※※


 気づくと、部屋が明るくなっていた。そうか、もう朝だ。確か、昨日はナナミたんとデートして……


 目の前には電源の落ちたPCが置いてある。タイトルから察している人も多くいるだろうが、ナナミたんは実在しない。一昨日発売した新作エロゲー、『恋とHは表裏一体2』(通称∶コイエチツー)に登場するメインヒロインだ。本作は前作の完成度の高さもあり、発売前から大きく反響を呼び、期待値は世界中のエロゲーマーたちの中で最高に達していた。


 発売日は前日の夕方から店の前に長蛇の列ができるほどであり、俺もその中の一人だった。


 『コイエチツー』の特徴は、そのストーリーの長さにある。どのルートでクリアしようとしても最短で240時間(丸10日)かかる。そのため、発売から3日だった本日でもクリアしたエロゲーマーは一人もいない。俺も三徹したが、まだ序章までしか終わっていない。


 よし。早速続きを始めるとするか。


『エラーコード∶2245157……』


 は!?電源を付けると、PCに初めて見るエラーコードが表示され、操作不能になった。オイオイオイ!まさか、俺の三日間のデータが全てとんだのか?…


『データが全て初期化されました。』


 ………すべて…ハアああああ?ちょっと意味分かんないんだけど。ゲームデータだけじゃなく、全て?ってことは、今まで大量に購入した電子版エロ同人誌やAVも全て?


 ポタッ…ポタッ…


 なんだ?まさか、俺は泣いているのか?ハハハハハ。笑うことしかできない…


 早朝から不気味な笑い声が家周辺に響き渡った。



 こうして俺の宝や、長年ともに過ごしたPCが死んでいったのだった。かけがえのない大切な人と引き換えに…









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