祈り

小夜樹

祈り



 眠そうな朝日が射し込むアパートの一室、男と女が喋っている。

「これ、おいしーね。」

「でしょ?気に入ると思ったんだよ。」


 ポツリと女が言葉を落とす。

「何か不思議だよね。」

「なにが?」

「このアイス1つにしたってさ、ざっくり考えても、この製品を計画した人達がいて、原料を作った人達がいて、出来上がったのを運ぶ人たちがいて。」

「うん。」

「で、最後に君がそれを買ってきてくれたんだよね。数え切れないくらいの人の結晶みたいのがこのアイスな訳だけど、たかだか数百円で私のお腹の中に収まっちゃうんだもんね。」


 男は少し考えて言った。

「でも、それで終わりじゃないでしょ?」

「え?どういうこと?」

「その祈りの中に君も居るってことだよ。君は朝からアイス食べてる悪い女だけど、そんな君を見て俺は頑張れるからね。」

「ふーん…祈りって?」

 男はさっきより少し長く考えて言った。

「行動の積み重ねっていうか…それぞれの人生から出る波みたいなものじゃないかな。」

「えー何それ。波?」

「そう、世界中の人々の波が互いに干渉し合うんだ。」

 女は、真面目な顔になって考え込んだ。男が少し慌てて言う。

「ま、まぁ俺が思ったのはさ、やっぱり人一人一人が意図せずとも支え合ってんだなって。生きてたら波が絶対誰かに干渉するし、それが憧れや尊敬なのか、迷惑や負担なのかはその時次第でさ。まぁでも俺はどうせならデカい波立てながら生きたいなって。」

「ふーん、変なの。でもそういうところ好きだよ。」


 女はんーっと伸びをして言う。

「変に頭使ったからお腹空いた〜。ね、どっか食べに行こ。」


 男は無意識のうちに、心の中で祈る。

 どうかこの笑顔の絶えることがありませんように。







 ____________________

 あとがきっぽい何か

最近思ってたことを書こうとしましたが、中々言語化が難しいですね…

短編集みたいにたまに追加するかもしれません。多分そのうちします。次はせめてもう少し読み応えのある量書きます。


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