第41話 勝敗は胸中に?
ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん。
なんかもう、ぽよんぽよんだ。ぽよんぽよんなのだ。
隣でスライディングをしながらボールを取る夏希さんも、膝をうまく使いながら相手からのサーブを受けるときも、ちょこんと飛びながらトスを上げるときも。
ずっとずっとずっとぽよんぽよん…………。
とにかくすごいのだ。やはり夏希さんの双丘は伊達ではない。冴木先輩が抜けたことによって開いたアタッカーの大きな穴はなかなか取り戻せず、点差は徐々に大きくなっていた。だが、奈那子さんと真奈美さんの活躍のおかげもあり、何とか大差を付けられることは避けることが出来ていた。
それでも、やはり第二セットは広報部にとられ、迎えた最終セット。相手は残り一点で勝利、いわゆるマッチポイント。
相手サーブから始まり、高く上がったボールが俺と夏希さんのちょうど真ん中あたりに向かってきた。
「日田っ! 私が行くっ!」
ボールを見つめたまま、そう言った夏希さん。俺はその言葉通り、取りにいかず自分の守備位置に立っていた。
しかし。ボールはまっすぐに弧を描いて砂浜に着地点を作ることなく、飛んでもない勢いで俺の方へと曲がってくるでは無いか。
俺は咄嗟に夏希さんの方を見るが、夏希さんは必死にボールを追っていてそれどころではなさそうだ。
時間がない。そう思った俺は一歩下がってこのボールの行方を見守ろうと思ったが、夏希さんがこのままでは届かないと察したのか、砂を蹴り上げてボールに飛び込んだ。
空中で夏希さんの伸ばした手がボールに触れて、ぽんっ、と軽やかに浮き上がる。と、同時に夏希さんが不安定な状態で落下を始まる。
下が砂浜とは言え、このまま落下してしまえば先ほどの飯島先輩のように手首をねんざしたり、下手をすれば骨折なんてこともある。
俺は咄嗟に夏希さんの下にスライディングする形で滑りこみ、夏希さんの体を抱え込む。
大きな砂埃が立って五秒。ボールは相手陣地でつながれていて、そろそろアタックがきそうだ。早く立って体制を立て直さなければ。
と、思い手を動かしたその瞬間。
ムニッ。
この世のものかと疑いをかけてしまうほどに柔らかく、熱を持った物体が左手に触れている、というよりかは押し込まれていることに気が付いた。
相手陣地にあったボールから、自分の手元へと視線を移動させる。まず視界に映ったのは夏希さんのつむじ。そして、ゆっくりとつむじが動き、夏希さんは俺の方へと顔を向ける。
その顔は運動後だからなのか、それともこの状況だからなのか、紅潮させ切っていた。
あわあわと唇が震えながら、「あ、新太君……その、手が……」と言って、夏希さんの胸元へと視線を誘導させられる。
そして誘導された場所を見ると、白色のハイネックビキニの脇部分から、俺の手が夏希さんの胸に侵入しているではないか。
というか、本当に俺の手なのか?
そう思った俺は、左手を動かす。もちろんムニムニッ、と確かに柔らかな感触と、コリっとどこかに引っかかるような新たな感触が俺の手に伝わった。
と、同時に。それらがトリガーだったかのように、ビクリッ、と夏希さんの体が大きく震えた。
「……え?」
「…………『え?』じゃ、ないでしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
えらく上気した顔で、そう叫んだ夏希さん。その圧に押されていた俺は耳に刺さるように入ってきた真奈美さんの声に気づき、顔をそちらに向けた、が時すでに遅し。
相手陣地から返されたボールが夏希さんの側頭部を射抜いた。
「どごぁっっ!?!?」
見事なまでに頭を打ちぬかれた夏希さんはゆっくりと砂浜に倒れ込んだ。
※
「だ、大丈夫ですか!?」
夏希さんの双丘から解放された、されてしまった左手を労りながら、右手で夏希さんを揺らす。どうして肩を揺らしているのに胸まで一緒に揺れてしまうのだろうという哲学的思考は一旦置いておき、あいたたた、と声を漏らす夏希さんの介助をした。
「大丈夫ですか……?」
「あっ、う、うん……どちらかと言えば、さっきの方が……その……やばかった……」
「あっ……それは本当に申し訳なかったです……」
やはり頬の赤さを保ったままの夏希さんは顔を逸らしながら、自力で立ち上がった。
立ち上がった周りに、真奈美さんはもちろん奈那子さんや他の社員さんが近づいてきた。
先ほどまで夏希さんだったのに、今は多少頬の赤さは取れていないけれどしっかりと社長モードだ。
いくらか言葉を交わしたのち、先ほど入った点数はノーカウントとして、もう一度試合が再開した。
が、だからと言って戦況が芳しくなるわけでもなく。そのまま広報部に点を取られ、俺たちは最終セットを逃したのだった。
ホームレスに全財産を渡した五年後、就職氷河期真っ只中になぜか冷徹な美人女社長に拾われました。 和橋 @WabashiAsei
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