第40話 思わぬ伏兵と加速しだすデレ
ビーチバレー。1923年。アメリカで発祥したスポーツで、世界大戦後、その手軽さから世界各国に広まった。という、嘘はここまでにして。
準備体操も終わり、そろそろ三十分経とうかと言うくらいの時に、再び夏希さんの声が砂浜に轟いた。
「はーい。そろそろ体が温まった頃だと思うから、対戦する部署を発表するわ」
と、言いながら、手に持っていた大きなプラカードを手を伸ばして高い所に上げる。そのプラカードには、【営業部vs開発部】【広報部vs企画部】と、いう対戦表が記されていた。
と、ここで浮き出た疑問。人が余った場合はどうするのだろうか。ちょうど隣に居た真奈美さんに質問をする。
「あぁ、それは代わり代わりに出場するの。そこまで本気でビーチバレーをやりたい人は少ないからね」
ふふっ、と上品に笑いながらそう言う。答えに納得した俺は特に疑問を抱くことなく第一試合の会場、と言ったらいいのか、ネットが二つ立っている内の一つに集まる。
二つのネット間には3メートルほど距離があり、近くでみると砂に埋まっているコートのラインらしきものも見つけられた。
そこまで広くはないコート。四人制らしい。
一つめのコートに営業部があつまり迎えた第一試合。
何故か圧勝した。俺もそこそこくらいは動ける自身はあったのだが、それよりも。
「なんでそんなにうまいんですか真奈美さんと冴木先輩……」
この二人の力がすごすぎる。真奈美さんは圧倒的なサポート力と、寸分違わぬトスを上げ、砂場だということが気にならないほど活躍していた。
それに冴木先輩は真奈美さんからのトスを100発100中相手のコートに叩きこんでいた。砂浜のコートが熱気の籠る体育館に錯覚して見えたのは俺だけではないはずだ。
実際コートに居た飯島先輩もあんぐりと口を開けていたし。
「まぁ、私は中高でバレー部だったからね」
「私もー」
と、冴木先輩が言った言葉に賛同する真奈美さん。二人とも肩を回し、まだまだ余裕な様子を見せている。
それにしてもあの二人がバレー部。なんだか男女ともにモテてそうだな、なんてことを思った。
そして、そんな事をしていると第二試合。相手は広報部。点数の差を見ると、3対21。ちなみに他2セットも同じような内容だった。
真奈美さんと冴木先輩は相手に不足なし、といった様子だったが、俺は自ら無理だと判断し、コートを出て奈那子さんに代わってもらうことにした。
そして俺と奈那子さんが交代し、すぐさま始まる第二試合。
敵チームは声掛けを行いながら連携を取り合う。営業部も負けじと冴木先輩と真奈美さんで攻撃を繰り返すが、どんどんと点差を広げられる。
「うわー。相手強いなぁ……ここまでかな? まちちゃん」
「そうですねー。私たちも頑張ったんですけど……仕方ないですよ」
さすが二人も諦めムードになり、奈那子さんがサーバーになった瞬間。事件は起きた。
バスンッ。
という音と共に、相手コートの砂に高速でやってきたバレーボールがめり込んだ。
奈那子さん見ると、「ふしゅー……」と、息を吐きながら修羅の目をしている。コートに入っているほか三人が目を合わせる中、奈那子さんは口を開いた。
「私、高校時代。幻のシックス女って言われてたので」
「お、おぉ。なんかよくわからないけど力強い!!」
再び熱そうな息を吐きながら癖なのか、ボールをバウンドさせる奈那子さん。しかし、下は砂なので明後日の方向へ飛んで行く。
ちゃんと奈那子さんなんだなぁ、なんてことを考えながら感心していると、ボールを取ってきた奈那子さんが再びサーブを始める。
広報部の面々はサーブを弾いてしまったり、そもそも触れららなかったり。多種多様な奈那子さんのサーブによって翻弄されていた。
偶にこちらに返ってくるボールもよろよろな浮き球で、それらを真奈美さんが上げ、冴木先輩が打ち込むというコンボが確立されていた。
飯島先輩はすることがなくぼーっとしていたが。
試合は進み、第一セットの終盤。うちが2点リードを得た状況でやはり奈那子さんサーブ。バスンッという音と共に相手コートに高速で飛んでゆくボール。
今回も決まったかと思ったが、リベロが高くボールをあげ、何とかつながった。
そして、セッターが上にあげ、ガタイの良い広報部の女性がアタックを決める。
重いアタックは冴木先輩の真横を通り抜け、後ろに居た飯島先輩の方へと飛んでいく。ぼうっとしていた飯島先輩は何とか体制を崩しながらボールを浮かせる。
そのボールは何とかつながり冴木先輩が相手打ち込み俺たちの得点になった。
だが、それでも立ち上がらない飯島先輩。異変を感じ取った俺と冴木先輩は飯島先輩に駆け寄ると顔をしかめながら右足首を押さえていた。
「あいたたた……すいません、ひねっちゃったみたいです……」
瞳の端に涙を少しだけ浮かべながら言った飯島先輩。なんとか一人で立ち上がろうとしていたが、冴木先輩がそっと飯島先輩の体を持つ。
「私が手当するから日田、入って」
飯島先輩の足の状況を見ながらそう言った冴木先輩。飯島先輩がそれに反論していたが、冴木先輩と目が合うと一気に静かになった。
「わかりました……」
「足りない人の分は申し訳ないけど社長に頼んで。それじゃあすいません部長。この通りなので」
「えぇ。わかった。社長には私から言っておくから。手当、よろしくね」
「はい」
飯島先輩の肩をもった冴木先輩は飯島先輩をいたわりながら進んでいった。
そして真奈美さんも試合を長く停めないようにすぐさま社長の元へ行って交渉をしていた。
社長は何度か頭を横に振っていたが、しぶしぶと言った様子でこちらへ来ていた。
広報部へと諸々の経緯を説明し、そして社長の準備体操が終わったところで試合が再開した。
その直前、守備位置に行こうとする夏希さんとすれ違った時に小さな声で言われた、「がんばろうね」という言葉がなぜか胸の中でずっと響いていた。
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