幕間
夢
夢を見るのは嫌いだ。
昔の夢を見ていた。三年前、冒険者になると決めたあの日。
血の匂い。むせ返るような焦げるような匂いと炎の熱さ。恐怖。濡れた下半身の温かさ。それは次第に冷たくなる。
金属。身体を通っていく。遅れてくる、火傷かと錯覚するような熱い痛み。叫び。土と石と木の枝の感触。
血の温かさ。そして失われていく体温。肉が盛り上がるような、傷が再生していく不快感。
そして、倒れる冒険者。次第に顔が白くなっていく。身体から温もりが失せる。
装備をつけた人間の身体は重かった。防具、背負い袋、武器。様々な荷物を背負って、あれだけの動きができるのだ。無論慣れもあるだろうが、冒険者の鍛え方に驚く。
街までの五千歩程度の距離。腰には冒険者の長剣を差し、背負い袋を背負わせた冒険者に肩を貸すように、いや半ば引き摺るように、歯を食いしばり歩き続ける。
ああ、夢だ。
ルークスは、歩いている自分の姿を後ろから眺めながら思った。
何度も見た夢だった。
結末は知っている。ただ、その結末が同じこともあれば、違うこともある。歩いているのが自分ではないこともあれば、一人ではなく二人のこともある。馬車に乗っていることもある。そういう時は決まってルークスも自分の剣を腰に差している。剣を差した二人は街の門を潜り、酒場で一杯やるのだ。
そんな時間は一度も存在しなかった。そしてこれからも来ることはない。これは、あり得ない過去への郷愁のような、ただ妄執でしかなかった。ルークスもそれを理解していた。
夢を見るのは嫌いだ。
それでも夢を見ている時は、信じているのだ。まだ変えることができるかもしれないと信じているのだ。
変わって欲しい。
夢だとわかっていながら、願わずにはいられない。
何度願ったのかわからない。
ただ一つだけ確かなのは、現実は何一つ変わってくれないということだけだった。
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