第2話 5000兆円

「はい、おねーちゃん。5000兆円!」

 そう言って、歳の離れた幼い妹はよく、紙切れで手作りのお金を作っていた。

 それを、首にかけられるようヒモのついた小さな財布に入れて、自分もお買い物するんだなどと言って。スーパーでは張り切っておやつを選び、いざレジで本物のお金をこちらが手渡すと、少し不満げな顔で口を尖らせていた。


「おねーちゃん、あたしのお金がいいよぉ」

「大きくなったら、お姉ちゃんいくらでも奢ってもらうから。今はお姉ちゃんに任せなさい」

 なんて言って。


 いつも大きな目をきょろきょろさせて。朝ご飯を食べ終えると、「三つ編みにして」とブラシを持ってきては、私の膝にちょこんと座った。細く柔らかい髪に触れると、くすぐったそうにクスクス笑って。それが毎日の日課で。


 それも、五年前までの話だが。


 事故だった。両親が妹を乗せて、車を運転していた際の、事故。

 私はその日、大学の友人と出かけていて、その知らせを警察から受けた。いや、病院からだったか? 実を言うと、よく覚えていない。

 まるで動画をパッパと飛ばし見てるような、不確かな記憶。


 病院。ベッド。医者からの説明。大破した車。「ご両親に変わった様子はありませんでしたか? いえ、現場にブレーキ痕がなく……」


 気がつけば、両親の葬儀は終わり、可愛い妹はたくさんのチューブと共にベッドの上だった。

 今もずっと、眠り続けている。

 五年間ずっと。


 ずっと。


 ずっと、私は。

 暗闇の中を、歩き続けていたんだ。


「はい、おねーちゃん。5000兆円!」

 大丈夫だよ。

 今お姉ちゃんが、ほんとの5000兆円を手に入れるから。

 だからあんたは、大丈夫だよ。

 大丈夫だよ。

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