第2話 キャンプ
瑞奈と鍋パーティーの思い出を語り合った翌週。
私たちは森の入り口にある、ログハウス風のロッジを借りて一泊二日のキャンプを楽しんでいた。
私たちは管理釣り場で川魚釣りをしていた。
「うーん……、なかなかかからないねぇ」
「まあまあ」
瑞奈は苦笑いする。
私は少しポイントを変えてみる。
昔からなぜか【短気は損気】などと言う。
だが、おもしろいことに釣りは短気ほど上達するという。
なぜか、というと釣れないことに腹を立て、釣りあげるために試行錯誤をするからだという。
「お! 何かかかった!」
「え?」
ゆっくりと上げてみると、そこには丸々としたイワナがかかっていた。
「イワナだ!」
「幸先良いね!」
私たちは数時間で釣果三匹だったけど、楽しんだ。
炊事場で一匹ずつ腹部を裂いて、下拵えをした魚を塩焼きにする。
「美味しそうに焼き色がついてきたね」
「そろそろかな」
「もうちょっと焼いとこうか」
私は少しお腹が弱いから念には念を、と少し加熱する。
「そうだね」
「そろそろ良いか」
「うん!」
瑞奈がイワナを回収する。
「いただきます!」
「いただきます! わぁ!美味しい」
「うん、本当に美味しい!」
いい塩梅に焼け、一匹は半分に分けて仲良く食べる。
とてもシンプルだけれども、美味しい昼ご飯になった。
「美味しかったね」
「うんうん! ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
私たちはキレイに頭と骨だけになったイワナに手を合わせる。
少し散歩道を散歩して腹ごなしする。
「そういえば、陽香は何か作るって言ってたよね?」
「うん。ちょっとした物は準備して、クーラーボックスに入れておいたんだ。車に入れてあるよ」
「そっか」
ロッジも、食事は申請すれば用意してもらえるし、キッチンは備え付けてあるから使うこともできる。
散歩道は、様々な発見があった。
ひっそりと咲く花があること
大きな木があること
街灯が少ないこと
何より、空気が澄んでいる
これならば、きっと夜二人でやろうと思っていた天体観測も楽しいだろう。
「そうだ!」
「うわぁ! びっくりした」
「えへへ、ごめんって」
瑞奈は笑って言った。
「ロッジに戻って、少しお茶にしない? おやつは持ってきたよ」
「賛成」
私たちは少しロッジに戻り、お茶にすることにした。
二人分のコーヒーを淹れ、瑞奈が持ってきたガレットサブレと、私が持ってきたバウムクーヘンでつかの間のお茶会をした。
外の空気を感じながら、ガーデンチェアに座って飲むコーヒーはひと際おいしく感じた。
「なんだか、優雅な気分だね」
「うんうん……。陽香一人だったら、ここで本読んでそうだよね」
「あ、やっぱり?」
「うん。陽香、本大好きだしさ」
「そうだろうなぁ。瑞奈だったら、のびのびと楽しんでそうだよね」
「否定しないよ」
私たちは顔を見合わせて笑い合った。
それだけ、充実して楽しい時間だと私は思った。
片付けをして、少し川辺を散策する。
「本当、水の色がキレイ」
「ね!」
「そうだ! 写真撮ろうよ!」
「うん!」
私たちはお互いに写真を撮った。
瑞奈は鞄をがさがさと探る。
「じゃーん! 自撮り棒!」
「持ってきたんだ?」
瑞奈のスマートフォンに自撮り棒をつけ、二人で写真を撮る。
「良い思い出になるなぁ」
私は送ってもらった写真を保存しながらほのぼのと言った。
「まだまだ!楽しもうよ」
「もちろん!」
ロッジに戻って、私はクーラーボックスに入れていたある物を出してくる。
「保冷材一杯入ってたんだね」
「うん。保冷剤がないと困る代物だったからね」
「ところで、それ何?」
タッパーの中で赤紫色の液体に浸っているとある物を見た瑞奈はびっくりしていた。
「ん? これ? これはね、赤ワインとローレルで漬け込んだ牛肉」
「そうだったんだ……。というか、漬け込んできたの?」
「うん。その方がローレルで臭みが消えるから、昨日の夜漬け込んできた」
「なるほど」
「今日はこれを使って、ハヤシライス作ろうと思うんだ」
「おぉー!」
「たまねぎと、マッシュルームのパウチ、ホールトマトとブーケガルニと市販のルーは持ってきたよ。バターも少しカットして奥に入れてあるし。あとはレトルトの白米も」
「さすがだね」
「で、コンビニ寄って買ってきたサラダもクーラーボックスの奥に詰めてあるし」
「冒険準備はさすがとしか言えないわ」
「えへへ」
私は照れ笑いする。
二人で分担して、夕飯を作る。
たまねぎを薄切りにして、牛肉の赤ワインを切ってローレルを取り出す。
瑞奈は鍋に火をかけ、バターを溶かしていた。
「お肉入れて大丈夫だよ」
「うん、じゃあ入れるね」
瑞奈が牛肉を炒める。
ザル一杯に玉ねぎを入れて渡し、ホールトマト缶を開けて置き、ティーパックに入ったブーケガルニを置く。
瑞奈はそれを見て、たまねぎを入れて、ホールトマト缶を投入し、空き缶を渡してくる。
私はその空き缶に水を入れて渡すと、瑞奈は鍋に水を入れる。
煮込む段階になった時、私はブーケガルニを入れた。
ブーケガルニを入れれば、ハーブの香りが加わるから私は好きだった。
「あとは待つだけだね」
瑞奈は笑って言う。
「うん、楽しみだね」
「それにしても、陽香」
「何?」
「赤ワインに付け込んで持ってくるって発想が凄かったわ」
「アハハ」
私は笑ってごまかした。
具材が煮えてから、ハヤシライスのルーを溶かし、マッシュルームを入れる。
「いつもより良いにおいがする!」
「ブーケガルニを入れたからかね?」
「そうかも」
弱火で煮込みながら、ゆっくりかき混ぜる。
「美味しそう!」
「二人で頑張ったからなおさらそう思うよね」
「うんうん!」
火を止める直前に、私はブーケガルニを引き上げる。
「少し味見する?」
「うん!」
私は瑞奈に小皿に取り分けたルーを渡す。
「わ! 美味しい!」
「良かった」
私は嬉しくなった。
レトルトご飯を温めて、サラダを盛り付ける。
「そろそろルーも良いよ」
「じゃあ、ご飯をお皿に盛るね」
私は火を消してから盛り付ける。
二人で作ったハヤシライスと、サラダを持って外に出る。
「うわぁ! 満天の星空」
「凄くキレイ!」
「贅沢な気分だよね」
私たちは昼間お茶をしたテーブルに着く。
周りも家族でわいわいと楽しそうだ。
満天の星空を見上げて、親友と食べたハヤシライスとサラダ。
私はサプライズでこっそりと持ってきたスパークリングワインを親友に注いで渡した。
とても贅沢なひと時を、私たちは味わった。
「最高だね!」
「うん! 来てよかった」
「またいつか来ようよ!」
「うん! 約束だよ!」
私たちはお皿が空になっても、私たちは満天の星空に見惚れていた。
友と食する 金森 怜香 @asutai1119
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