友と食する

金森 怜香

第1話 思い出の鍋パーティー

それは25歳になってしばらくした日の事。

私……陽香はるかは友人の瑞奈みずなとキャンプに出掛けることにした。

「おしゃれなロッジとかで泊まれると良いね」

「自然満喫できるところも良いよね、楽しみだわ」


瑞奈と私はウキウキ気分でスケジュールを組んでいく。

無理のない程度で、それでもたっぷりと楽しめるように……。


「たまには、一緒にご飯作ったりもしたいよね」

「ふふ、そうだね。数年前の鍋パーティーみたいに」

「あれも楽しかったね!」


そう、私と瑞奈、そして……私とはケンカの末に疎遠になってしまったもう一人の女の子。

その三人で、以前鍋パーティーをしたのだ。


*・*・*・


話は数年前にさかのぼる。

「みんな成人したことだし、お酒持って鍋パしよー?」

「良いよー!」

「うん、賛成」

誕生日が来るのが一番遅いのは瑞奈だった。

その瑞奈が私ともう一人の女の子に声をかけてくれた。

私たちも二つ返事だ。


「場所は、うちを使おうよ。二人は泊っていけば安全だし」

「そうだね。じゃあ、私何かつまめるもの少し作るよ」

「陽香に任せておけば間違いないもんね!」

当時の私は三人の仲では一番料理をしていた。


「そういえば、鍋の素とかどうしようね?」

「当日見て決めよー?」

「それが良いかも」

私は当日、つまめる用のおかず作成の為、少し遅れて合流することになった。


「瑞奈、鏡子きょうこ、お待たせ!」

「陽香ありがとねー。何作ってきたの?」

「筑前煮」

「わぁ! 私、陽香の作ってくれた煮物が大好きだから嬉しいわ!」

なぜだか、瑞紀は私が作った煮物を気に入ってくれている。

「え……、またニンジン入ってる」

「筑前煮にニンジンはつきもの。あと、ナムル作って来たけど……、こっちもニンジンは入ってるよ」

「私、ニンジン嫌い……」

鏡子はニンジンが嫌いなのは私もよく知っている。

私は瑞奈と顔を見合わせて苦笑いした。


「じゃあ、鍋の買い物行こっか!」

「賛成」

「にんじんはなしでね!」

私たちは苦笑いで返した。


スーパーで鍋の素と鍋の材料を物色する。

「へぇ、チーズカレー鍋ってあるんだね!」

「陽香のとこ、カレー鍋とかしないの?」

鏡子は意外そうに聞いてくる。

「うちはもっぱら寄せ鍋か塩味の鳥鍋とかさっぱり系ばっかり。母親がチーズ嫌いだし」

「そうなの?」

「そう。だから、ちょっと興味あるかも……」

「じゃあ、チーズカレー鍋にしよっか! 鏡子も良い?」

「うん」

鏡子も頷き、鍋の素はチーズカレーに決まった。


「具はどうしよっか?」

鏡子はちょっと困り顔で言う。

恐らく、ニンジンを入れると言われるのが嫌なのだろう。

「じゃがいもとたまねぎと、お肉とねぎ、椎茸くらいかな?それと追いチーズしちゃう?」

さっと答えたのは、瑞奈だった。

「良いねぇ! あ、お肉はどれにしよう?」

鏡子はちらっと見て言ってくる。

「でもさ、正直陽香お肉嫌いじゃん?」

「うん、正直ね……。でも、食べられるんだから食べるわよ。鶏肉だとさっぱりしてて良いかも。あ、でも筑前煮で使ってるなぁ」

「豚肉にする?」

「そうしよっか!」

「うん、良いよ」

私たちはとりあえず材料、そして各々飲みたい物を買った。

私が先に払い、後で割り勘して二人からもらった。


瑞奈の家に戻り、材料を置く。

「エプロンとか持っていたら持ってきなよ。私もエプロン取ってこないと」

「じゃあ、私もエプロン持ってくるよ。ついでに袖捲らないと」

「え?私持ってきてない……」

鏡子は瑞奈にそう言った。

「じゃあ、貸してあげるよ」

鏡子は瑞奈のエプロンを借りていた。


私はソムリエエプロンを身に着け、ブラウスの袖を捲る。

「一人プロの料理人みたいな人がいる」

鏡子はからかってきた。

「さて、最初はどうする?」

私は今日このからかいをスルーした。

「ジャガイモを切ろうと思うけど、誰がやる?」

「あ、じゃあ私やるよ。包丁貸してくれるかな?」

私は瑞奈から包丁を借り、ジャガイモの皮を剥いていく。

グリグリとジャガイモの芽を先に取り除く。

シュルシュル……、シュルシュル……

シュルシュル……、シュルシュル……

私は包丁でジャガイモの皮を剥き終わる。

が、他の作業は進んでいない。

「ん?どうしたん?」

「陽香、凄いね! 私、ジャガイモはピーラー使っちゃうよ。瑞奈は?」

「私も。さすが、この中では一番料理してる子だよね」

「褒めても何も出ないぞー。つか照れるからやめい!」

私は照れ笑いしながら言った。


「さてと、ジャガイモは大きめの方が良いかな?」

「うん、大きめに切るんだって」

「りょーかい!」

私はそう言って、ジャガイモを8等分に切った。

「少し水にさらして灰汁を取っておこうか」

「さすが! 料理慣れてるね」


「じゃあ、次は椎茸……私が切るわ」

「うん、瑞奈お願いね」

「はいはい」

「あ、そうだ。椎茸切ったら、水の段階で一緒に煮ちゃおうよ」

私は思い切って提案する。

「え?だってレシピには煮立ってからって……」

鏡子は戸惑っていた。

「出汁が出るからだよ。その方が美味しくなると思うし」

「そうなんだね……」

鏡子は渋々という感じだ。


「たまねぎ、私が切っていい?」

「うん、だけどたまねぎは後の方が良いかも。先にネギ切ろう。鏡子、頼んで良い?」

「え? でも私、ネギ切ったことない……」

鏡子は明らかに嫌がっていた。

「……教えるからやってほしいな」

「二人が作ってくれた方が明らかに早いじゃん」

「三人で作るって話だったでしょ?」

私は困りながらも穏やかに言った。

というよりも、言ったつもりだ。

「それはそうだけど……」

「だから何かしらやらないとだめだよ」

瑞奈ははっきりと注意した。


鏡子はイヤイヤながらも、まな板が空いてからネギを切り出した。

「そうそう、上手い上手い……。そうやって斜めにザクザク切っていって」

「本当にこれで良いの?」

「うん、大丈夫! 大丈夫!」

瑞奈がそう言っておだてて切らせていく。

私は横で、計量カップを使って水の量を測っては鍋に入れ、椎茸を流しいれた。

「どうする?そろそろ弱火で煮始めちゃってもいい?」

「うん、お願いね」

瑞奈はネギの山をザルに乗せながら言った。


「じゃあ、たまねぎ切るね」

「お願いね。じゃあ、私たちは鍋見ておくから」

「うん、お願い」


私はたまねぎのカットに取り掛かった。

2玉あるし、これはくし切りで良いだろう。

私はそう思ってたまねぎをカットしていく。

「……ッ、沁みる……!」

「あー、陽香涙目じゃん!」

「たまねぎが……、沁みた……!」

「あるあるだよね」

「うちはママがやってくれるから……」

鏡子は苦笑いして言った。

私は包丁を置いて、ざるにたまねぎを入れる。

「はい、できたよ」

「え? 早い!」

「頑張って急いで切った……。そうじゃないと泣きそうだったし」

「そうだったんだ……」

鏡子は驚いていた。


鍋はくつくつと煮立ち始めていた。

先に野菜を、次に肉を投入して煮込む。

「そういえば、陽香が持ってきた煮物とナムル、温めようか」

「そうだね、じゃあ私取ってくるよ」

「うん、お願い」

私は部屋を出て、煮物とナムルの入ったタッパーを取ってくる。


先に煮物を温めてから、ナムルを温めた。

鍋もそろそろいい塩梅。

私と鏡子は、先に瑞奈の部屋に煮物とナムルを持って行く。

それから、お盆を借りて三人分のお皿、お箸を持って行く。

「はぁ、疲れた……」

そう言って座り込んだのは鏡子だった。

私は気にせず瑞奈の手伝いに向かった。

「私がお鍋持って行くから、陽香はお酒持ってきてくれる?」

「うん、任せて」

先に瑞奈に行ってもらい、私はビニール袋に入ったお酒を持って行った。

そして、二人がかごに入れていたお酒をそれぞれに渡す。

「さあ、いただこうか」

瑞奈がそう言って食事を促した。

「いただきます!」

私たちはそう言って、食事を始めた。


「やっぱりみんなで作ったお鍋は美味しいなぁ」

鏡子は幸せそうに言った。

「そうだね。それに、陽香の煮物もやっぱり美味しいなぁ」

「あ、ニンジン先に食べてよ! 私、それ以外のところは欲しいから」

「ちゃんと一つくらいは食べてよ。私だって喜んでほしくて作ったんだからさ」

「……わかったわよ」


私の作る筑前煮は、少し変わっている。

鶏肉はせせりで、レンコン、たけのこ、結び白滝、もみじ麩、にんじん、干し椎茸、さやえんどうで作っている。

煮詰める出汁は干しシイタケの戻し汁。

しょうゆも出汁しょうゆを使っていて、甘味付けにはハチミツを用いるのが私流レシピだ。

母に習ったのではなく、料理本で基礎を学んで味は試行錯誤の末こうなったのである。


ナムルはさほど変わった物などない。

もやし、ニンジン、小松菜を茹でて絞って、ごま油と鳥ガラで和えてから、いりごまを振りかけただけである。


楽しい鍋パーティーは、あっという間に過ぎて行った。

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