第八章 196×年、再会、仙台にて
第1話 レポートの評価
二週間後、レポートが返却された。
清彦はこわごわとそれを受け取った。教授の眼鏡の奥の瞳が意味深に光った気がした。
評価を見て、驚いた。
そこには赤いペンで「秀」と書かれていた。
この授業で秀をもらったのは今回が初めてだ。さらにそこには、講評も走り書きされていた。
「大変面白く読ませてもらいました。農場の観光化というアイディアは極めて独創的です。特に、農場内に工場を作り、乳製品の生産から加工販売までを一律で行うというのは画期的だと思います。また、ロッジを建てて、訪れた人々をもてなす、というのにも心が惹かれました。実現するにあたって、敷地や設備など、主に経費の面での問題が多いとは思いますが、それを差し引いても非常に興味深いレポートでした」
清彦は心が震えた。自分の考えた計画は、決して荒唐無稽なものではなかったのだ。
少なくとも、大学教授という専門家の最たる人物に評価してもらうことができた。
清彦は、背中に羽根が生えたような気分だった。
まだ具体的に何かに取り掛かったわけでもないのに、このまま何でもできそうな気がした。
「何だべ、そんなニヤニヤして。気持ちの悪い奴だ」
気付けば、雄一がけげんな目で清彦を見つめていた。
「いいよいいよ、何とでも言ってくれ。今日の俺は寛大だからな。何せ、秀をもらったから」
清彦はそう言ってフフンと笑った。
「秀だと! 清彦、お前そんな見え透いた嘘は吐くもんじゃねぇど」
雄一は清彦のレポート用紙をぶん取ろうとしたが、清彦はひらりとかわし、逆に机の上に無防備に放置されていた雄一のレポートを取り上げた。
「えぇと、どれどれ。加藤雄一君の評価は……可! よかったなぁ、不可じゃなくて。それよりお前、下の行全然埋まってないだろ。もっと書けよ」
「わい! この野郎、読むでねぇ!」
顔を真っ赤にしながら取り返そうとブンブン両腕を振る雄一の様子は、小熊が暴れているみたいで滑稽だった。
二人のやり取りを見ていた学生の間から、クスクスと笑い声が漏れた。
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