春休み

@_naranuhoka_

春休み


雛が「明日の終業式さぼろうよ」と言い出したので、とりあえずは眉をしかめて「えー」と言ってみた。言っただけだ。

「式じゃん。式休むのはやばくない?」

「でも授業ないし、逆に、どうでもよくない? 『春休みのしおり』とかもらって、それでおしまいじゃん」

でも高二の最後の日だ。クラスメイトが惜しいとか全く思わないんだろうか。雛はふんと鼻を鳴らした。

「女ばっか38人、何が淋しいのよ」

「そうだね」

じゃあわたしも休む、と言った。雛はとても嬉しそうに鼻をくしゃっとさせ、「じゃあ駅に8時ね」

「早いなぁ、せっかくサボるのにどっちにしろ6時半起きしなきゃだ」

「だって、親にバレるじゃん、遅く起きたら。マックで時間つぶそ」

それもそうなのだった。雛は「じゃあ、明日ねえ」と言いながら廊下を走っていった。てらてらと不思議な色に光るリノリウムの床は、春の匂いでほんのりと甘ったるかった。

いつも通り母親がアイロンをかけた制服を着て、駅のマックに入る。「こっちこっち」と場所取りをすでに済ませた雛が、同じ格好でマックシェイクを啜っていた。

「春奈も買ってきなよ」

「うん」

コーラとチーズバーガーを頼む。席に持っていくと、「うわ、飯テロだ」と雛が本気で嫌そうに顔をしかめた。雛はすでにアップルパイとマックシェイクを食べ終えたところだった。

「じゃあ二口あげる。席代ね」

「やった」

両頬のえくぼをくぼませて雛が笑う。真ん中のすきっ歯があられもなく覗けた。ラッキートゥース、と言うらしい。「あたしは治したいんだけど、ママがそんなのいいでしょ、幸運のしるしなんだからって矯正やらしてくれないの。ケチだから」といつも口を尖らせている。

アイラインを引いても潰れない広い二重幅、くるんと丸まった長いまつげ、つんと上向きに尖った小さな鼻、さくらんぼのように可憐なくちびる。雛はお人形のように整った顔をしていて、唯一、歯の隙間だけがコンプレックスだと言う。

「これさえ治せば完璧だと思わない!? 佐々木希だって武井咲だって歯並び治してから売れたんだよぉ」

そんなことを臆面もなくつぶやく。わたしは雛のそういうところが好きだ。

わたしたちは中高一貫の女子校に在籍していて、それぞれ違う意味ではみ出しものだった。雛は容姿が優れすぎて、それ自体は女子校では武器になりうるのに、雛はそれを卑下したり隠そうとはしなかった。異端であるほど美人であることに気づいていないふりをせず、「あたしって可愛いから」と言いまくっていたら雛はいつのまにか学年のなかで浮いていた。もし雛が対して可愛くない、70点くらいの容姿だったら「冗談」とか「面白い女子」としてかえって人気が出たかもしれないのだけれど、  雛はそういった発言が冗談にならないほど、恐ろしく綺麗な顔をしていた。スカートを短くして、髪を綺麗にポニーテールに結った雛がつまらなさそうにスクバを揺らしながら廊下を歩いているところを中学からよく見かけた。美人には孤独がよく似合う、ひそかにそう思った。

一方のわたしは、単純な理由で浮いている。お金持ちの女の子が多いなかで、わたしの両親はごく小さな蕎麦屋を営んでいる。それが知られてわたしは学校で「麺棒」と呼ばれるようになった。わたしがひどく痩せっぽっちだったことも含めての揶揄だった。雛がいう「ママってケチなんだよ」「あーお小遣い足りない」と言う発言とは全くレベルが違う。わたしはみんながコチャコチャいじっているスマホが毎月6千円から1万円近くかかるものだと知った時卒倒しそうになったし、雑誌や本はもっぱら図書館、通学鞄は中学一年生のときから使っている黒い無地のリュック。お小遣いは、月に1万円もらっていると言う雛には「うちは5千円」と言ったけれど、本当は2千円だった。それが恥ずかしいと言うよりも、一か月を2千円で十分まかなえている自分が恥ずかしかった。わたしの生活は、みんなよりずっと彩りに欠けるのだろうか。

雛と仲良くなったのは必然とも言えた。高校一年で初めて同じクラスになったとき、「やっと」と思った。それは彼女も同じらしかった。

「春奈ちゃん、あたしと徒党組もう」

初日に朝礼が始まる前にわたしの席に来て宣言された。間近で見ると、改めて整った顔立ちの女の子だった。中学の頃はもっちりと柔らかそうな頬が彼女を魅力的に見せていたけれど、背が伸びて少し痩せた雛はどこか少年っぽさもあり、頬骨のラインに意味もなくどきどきした。

「徒党て、なにそれ」

「いいから、一年あたしと契約しよう。体育のペアとか、遠足のグループ分けとか、学校の中で生きてる限り面倒くさいことが目白押しじゃん。違う?」

容姿に恵まれている人は頭が悪い、と言う偏見を持っていたわたしはかすかにそんな自分を恥じた。話してみれば雛ほどクールで頭の切れる同世代の女の子はいなかった。

「いいよ」と簡単に答えた。「じゃ、また」とスカートをひるがえして席に戻る雛の、膝の裏の白さが眩しかった。

それ以来、わたしたちはずっと一緒にいる。もし来年高校三年のクラスが別れても、一緒にお昼を食べたりするだろう。

「ねえ、今日何する?」

なんかんだ優等生のわたしは、風邪でも忌引きでもないのに学校を休むのは初めてだった。雛はときどき生理痛で休んでいた。本当に「生理痛」ではない時もあったみたいだけれど、それをいちいち突っ込むほど野暮じゃない。

「鎌倉」

「え? いいけど脈絡なさすぎ」

すると、春奈はひらりとSuicaを振ってみせた。

「定期拾ったの。それが鎌倉行きだから、鎌倉」

わたしは普通にあきれた。

「犯罪じゃん。ばっかじゃないの」

「いいの。こんな大切なもの落とす方が悪いよー」

ふひ、と雛はアニメの悪い子供みたいに笑ってみせた。「はいはい」とわたしは深く追及するのをやめた。

「どうせ混んでいるから」と雛に引き止められるままだらだらマックで時間を潰したあと、ようやく駅に向かった。もう明日から春休みとは言え、何食わぬ顔をして  制服で街にまぎれるのは痛快とほんのりとある恐怖で足取りがふわふわした。

横須賀線はひどく空いていた。「1時間かかるって」と雛が乗り換えのアプリを見ながら言った。

「遠いねえ」

「そりゃあたしたち、船橋から出て来てんだもん」

ふわあ、と雛があくびを漏らす。目の前のサラリーマンが雛にちらりと視線を投げかけているのがわかった。せわしなく目が動いている。気づかれないようにしているのだろうけれど、美人を盗み見ている男ってなんて品がないんだろう。

「明日から何するよ、春休み」

「普通に予備校行くかな。短いし、課題多いし。わたし推薦狙いだから小論文の課題も出てるんだよね」

「楽しみのない春休みね」

「雛はどっか行くの? 去年ドバイ行ったとか行ってなかったっけ」

「あー」

雛は低く呻いた。「行かないんじゃないかな。パパ超絶忙しそうだもん。ママもサロンの友達とどっか行くんじゃないかな」

「へー」

大学教授をしている雛のお父さんの趣味はよく海外でも学会に呼ばれるそうなので、雛や雛のママもよく旅行がてらついて行くのだと言う。「上海行って来た」と冬に雛がくれたのは、お揃いのチャイナドレスだった。とりあえず一緒にプリクラを撮って「あげます」と言う置き手紙を置いてその場に置いて来た。2人には大きすぎて、引きずるような丈だったのだ。

「ねえ、鎌倉って何あるの?」

「えー、あたしもよくわかんないや。大仏とかじゃん?」

「ダッサ」

ケラケラ笑っていたら横のおばさんににらまれた。雛が「この時間、やっぱり年寄りしか電車乗ってないね。あの世行きだったら超やばいんだけど」などと言いだしたので、肘のあたりを叩いた。愉快だった。

「春奈、どうしよう。彼氏が別れたいって言ってる」

弱々しい声で雛が電話をかけてきたのは、先週の土曜日の午後だった。内出血のような重々しい雲が空を覆っていたので、わたしはめずらしく予備校に行かずに家で自習をしていた。

「どうしたの? 電話する?」

「ううんごめん、彼氏から電話かかってくるかもしれないから、メールでお願い。来年受験生になるから雛も勉強したほうが良いよだって。どうしよう、もう最悪だよー」

涙を流した顔文字が3つ並んでいた。女子校であるからして普段話す異性は先生と父親くらい、という子が多く、わりかし恋におくてな女の子が多いなか、雛は中高で四人の男の子と付き合ったという。そういうことを隠さないところを含めて、色恋に事欠かさないような女子高生であることが、雛が学校で浮いている原因の一つだった。

「受験なんか関係ないじゃん、雛は内部受験だし。そう言いなよ」

「ううん、あたし外部の共学に行きたいの。そしたら、『男と遊びたいの?ビッチだな』って」

思わず鼻で笑ってしまった。

「そんな心の狭い男捨てなよ、最低。雛が共学に行って男の子に言い寄られるのがやなだけじゃん」

「でも別れるのはイヤなの。いまの彼氏のことはほんとに好きなの。どうしたら説得できるかな」

結局、メールしているうちに雛の彼氏からラインに不在着信があり、「電話してくる」で音沙汰がなくなった。夜になって、「なんとか持ちこたえたよ」とダブルピースの絵文字が届いた。ダブルピースの絵文字だけを返した。

あれからどうなったのか、学校で訊いたりはしていない。

「今ごろみんな体育館かなあ」

「だねー。ダル〜って思いながら校長の話聞いてるんじゃない?」

「じゃ、行かなくて良かったね」

「ね!」

雛が極上の笑みで笑う。雛が全力で笑うと、比喩ではなく本当に花がほころぶみたいだ。

(あの子よく雛とつるんでるよ、顔面偏差値の高低差ひどすぎ)

(雛もわかってて麺棒を選んだんじゃないの。引き立て役)

雛と一緒にいるようになって、女子か、と突っ込みたくなるほどテンプレな陰口ならいやほど叩かれてきた。確かにわたしはちっとも雛とは釣り合っていない。色白顔の瓜実顔に針で引っ掻いたような細い一重、唇はぽってりと分厚い。手足は棒っ切れみたいに細く、可愛らしい女の子ではない。

まだ友達というより「徒党」感が強かった頃、こらえきれずに雛に鬱憤をぶつけてしまったことがある。雛に誘われて、池袋まで出て遊びに行ったのだった。雛より際立って美しい子はいなくても、思わず目を伏せてしまうほど綺麗な子や派手に化粧を施したギャルはわんさかいた。そんななか雛に手を惹かれてゲーセンだのPARCOだのカラオケだのに連れて行かれ、雛が声をかけられることはたびたびあっても、わたしに視線が向けられることはなかった。さすがにいたたまれなくなって、カラオケの個室で言った。

「雛、恥ずかしくないの?」

「何が?」

「わたし、雛みたいに可愛くないからさ」

口にした途端、わっと顔に熱があつまった。勝手に卑屈になってひねくれているのは自分だというのはわかっていても、こんなことを言わせる雛の美しさが憎らしくなった。

雛はきょとんとした。

「え?あたしより可愛い子なんてそうそういなくない?」

「いやあのそういう意味じゃなくて!雛に及ばなくても、わたしがもっと美人だったら、って、そういう」

何も「そんなことない!」とか「春奈も可愛いよ、何言ってるの」だの女子特有の慰めを引き出したかったわけじゃない。断じて。ただ、雛にわたしの屈折をぶつけたかった、ただのエゴだった。けれどあまりに想定外の返事が来て、頭に熱がこもるのがわかった。わーっと早口になってもごもごしていたら、雛は「えー」と困ったように笑った。

「まあ確かにあたしレ ベルと比べちゃうと劣るけどさ、春奈ってちゃんと顔立ち整ってるよ。パーツパーツは地味で目立たないけど、位置のバランスはいい感じだし。日本画みたいだなって中学のときから思ってた」

女医が患者をチェックするみたいな冷静な口調で言われ、思わず「ぶははっ」と喉を仰け反らして笑ってしまった

「何それ予想外の反応すぎるよ!冷静すぎ!」

「え? 何? なんなの」

雛はきょとんとしていた。自分たちの温度差にまた笑えて、じんわり涙がにじんだ。

雛は多分、最初から、誰のことも容姿で分けたりしていない。そう思った。誰よりも容姿のことで振り分けられたり勝手な期待を持たれたりしただろうに、なんて素敵な子なんだろう。そして、「顔がうんと綺麗な人」としてしか雛のことを見ることができていなかったことを心から恥じた。

この子と友達になれてよかった。そう思えて心から嬉しかった。

電車が駅名をいくつ過ぎた頃だろう。雛が「あのさ」と小さな声で言った。

「あたしって綺麗じゃん」

雛のこういう口ぶりにはなれているのだけれど、静かな口調とそぐわない内容だったので思わず噴き出した。

「何。真面目に聞こうとして損した」

「違くて! なんか、それって、『足が速い』とか『数学が得意』くらいのことだと思うのね、あたしは」

「うん」

騒音のなか、ポソポソと言葉を並べる雛の声は聞き取りにくい。顔を近づけて、耳をそばだてて言葉を待つ。

「足が速い子は陸上部に入ったり、数学好きな人は理系に進んでバリバリ研究とかするじゃん。そんで、綺麗なあたしはそういうふうに、ふるまうわけよ」

「うん」

自分で言うんじゃないよ、といつものように突っ込んでも良かったのだけれど、雛の声はいまにもちぎれてしまうんじゃないかと思うくらい、かぼそかった。

「でも、それをおかしいとか、ナルシストとか自意識過剰ってぐちぐち言う人も、いるじゃん。あたし、女子校なんか受験なんかしなきゃ良かったよ」

「あー、そうかもね」

電車が停車し、たくさんの人が降りていく。視界がひらけて、車窓の向こう側が見えた。すぐにたくさんの人が乗り込んできて、見えなくなってしまう。

「顔が綺麗じゃなきゃよかったなんて絶対それは、思わない。それは違うから。……でも」

怖くて雛の方を向けない。黙って手を握る。赤ちゃんみたいに汗ばんであっつかった。逃げようとするのを掴んで自分の手と強く結ぶ。

「あたしはただのあたしなのになってよく思うよ」

電車が走りだす。雛と仲良くなる前のわたしは、とても綺麗な雛がそんなふうに悩んだり傷ついたりしているなんて少しも信じていなかっただろうな、と思った。

鎌倉に着く頃には、終業式は終わっているだろうか。

ふいに青いものが景色の向こうに見え始めた。「あ、海」と言うと、「まじでっ」と雛が跳ね起きた。よだれがくちびるの端を濡らしている。

「えー……普通に綺麗」

「海見ながらごはん食べたいよね」

「それいい、コンビニでおにぎりと飲み物買って食べよ」

色鉛筆で薄く塗ったような水色が見え隠れしている。一気に非日常感が強くなって、胸が弾んだ。

「お腹すいた。マジ眠い」

「あと15分くらいだと思うよ」

「本当に? 長かったー、尻痛いよぉ」

首をポキポキ鳴らしながら雛が首を回す。

「そういや定期ってどこで拾ったの」

 へ、雛が動きを止める。

「どこって……家」

「はあ?」

それ以上は言わず、雛はまた目を閉じ、わたしの肩にすうととても自然に頭を載せた。眠っていないのは肩から伝わる気配でわかっていたけれど、重みと熱が心地良かったから黙って載せていた。柔らかい細い髪が電車の震度に合わせてさらさらと揺れていた。

鎌倉駅を降りると、観光客で賑わっていた。

「ねえ、ノリで降りちゃったけど海までどれくらいかなあ」

「15分くらいだってさ」

派手な旗を立てているしらす丼の店をしり目にコンビニに入っておにぎりとリプトンを買った。

朝はそうでもなかったのに、陽射しが強くて思わず目を細める。ヒートテックなんて着てこなければ良かった。「あちー」と雛が手で庇を作っている。

「海、サーファーばっかだろうねえ」

「だろうね。ナンパされたらうざいなあ」

「制服だしね。人いなさそうなとこ探そう」

陽射しの強さのせいと電車の眠気のせいで口をきくのも億劫だった。ぺったんペったんとローファーを引きずるようにして道路を歩く。サーフボードを担いだ男たちが次々にわたしたちを追い抜いていく。

「海きれー」

「ね。晴れててよかった」

「なんか、海来ると時間の経ち方変わるよね。時計見なくなるからかなぁ」

「ゆっくりになるのに、帰る頃には『えっもうこんな時間!?』ってなるやつね」

「う〜ん、超気持ちい」

会話が間遠になる。空が視界のぶんだけ広くて、水でたっぷりと薄めような透き通った青だ。

「あのさー」

「ん?」

風で髪が煽られ、結んでいない雛の長い髪がほつれながら舞い上がる。

「定期拾ったって言ったじゃん。あれ、彼氏のなの」

「えっ?」

「別れたの。彼氏の家を出るとき、最後に玄関にあったSuica、かっぱらっちゃった」

けろりとした口調を心がけているけれど、雛の目はほんのりと揺れていた。

「最後に、やなことしてやろうと思ってさ」

ばばばばばば、とバイクが後ろから追いかけてきてわたしたちを抜き去る。ぶわん、と前髪が持ち上がったのを手のひらで押さえた。

「でも、鎌倉ってこんな綺麗なところなんだね。なんか、思ってたのと違う」

「そうだね。わたしもちゃんと来たのは初めて」

「あーあ。毎日こーんな綺麗な海見ながら通ってたのか。かっこいいわけだよな。はーあ」

雛が目元をそっとぬぐう。バレエの所作のような、鳥が羽を広げるような、さりげなくて美しいしぐさで、思わず見とれた。

涙の跡でひとすじ、濡れて光っている。

「ちゃんと好きだったんだけどさ。あたしがナルシストっぽいところがなんかずっと嫌だったんだって」

「なにそれ! 雛が美人なのは誰が見たってそうじゃん」

「そうなんだけど、『あざとくて、計算高いのがいやだ』だって。はーあ。こんな綺麗なのに『そんなことないですう』とかってぶりっこする方が性格悪いっつうの。そんなのばかばかしくて絶対できないよー」

「そうだよ。そんな男つまんないよ」

「あ〜。うん、そうなの。そうなんだよ」

でも、と雛がわたしを振り向く。水があふれてこぼれるように、雛の長い髪が肩からさらさらと落ちた。

「好きだったの」

うん、とわたしは雛の手を握る。汗をかいて、しっかりと熱い。

「大丈夫だよ。雛」

「うん」

「おにぎり食べよ。どっかベンチに座って、海見ながら食べよ」

「うん。食べる」

小さな子供のように雛が心細そうな顔をしてわたしに寄り添う。美しい雛に簡単に男が見惚れて近づいてこないよう、わたしは背をピンと正して、彼女の隣を歩く。


2019.5

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