第94話:鬼徳神の手
低く足元を刈る人形の腕を、
話すことで邪魔をしているのでは。案じたところで、聞かぬ選択などない。
「心当たり?」
それでも躊躇する気持ちが、窺う口調にさせた。
ただ、励ましてくれる声もあった。
首の後ろ。
「俺を連れた奴が居る。十階層で分かれた後、まっすぐここまで」
遊山の旅でなし、そんな偶然はあり得なかった。何かの意図を持ち、狙って
即ち
「それは。でもそんなこと、誰が」
連れた奴がという言い方で、すぐに思い浮かべたのは
けれども
その
魔物が? と首をひねりかけ、
「いや今は居ないし、どうしようもないけど」
「ううん。
やはりそうだったのか。予想の的中したことが残念でならない。それでも項垂れる暇はなく、すぐに広間の出口へ視線を走らせた。
数えるのも難しい百足の海と、波間に見え隠れする千の手。捜すのなら、あれを越えねばならないとは肝が冷える。
だが手の空いているのは
「わ、私が捜してくる! あんな大きな子だもの、すぐよ。どうにか
覚悟の萎えぬうち、
その間に人形の手足が、何度襲っただろう。
「大きい?」
ゆえに、なのか。問い返すのに、若干の間があった。
大きいと言ったのに疑問があるなら、
「いや、かなり小さいだろう? あの蛇は」
(蛇?)
一瞬、疑問を浮かべるだけの間はあった。ぞくっ、と悪寒に震えるのも。
「くっ、くかっ……!」
まさかそれは、と問う時間は与えてもらえなかった。声もまともに出せぬほど強く、首が絞まる。
怖気に従い、払い落とそうとはしたのだ。考える前に、身体が勝手に。
それも間に合わず、襲われた。細い体躯が音を立てて締まり、指を挟む隙間もない。
「あ……ぐ……」
「
呻く声が聞こえたのか、
「
人形の脚を空かし、同じ軌跡の貫手に頬を裂かれ、彼は叫ぶ。
しかしこちらを向くことは叶わない。
膝立ちでいた
吸う息がまったく足りない。薄墨色の景色が朱に変わっていき、朦朧と地面に倒れた。
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