第24話:再会
広場の外れへ、脚の長い
その一席に
整然という言葉が、付近に存在しない。一応は揃いで用意されたらしい卓が、数える度に位置と総数を変えた。
あちらの長椅子を抱えた男は、勝手にどこへ持っていくのだろう。
屋台で求めた料理と酒を、好きなように楽しめという場所のようだ。
酒盃を大事そうに抱えた男が、迷宮へ向かう様子の鎧姿へ絡む。何を言ったか、すぐに罵り合いとなり、
(早く戻って来なさいよ。怖いじゃない)
迷宮での怖さとは、種類が違う。皇都の僧院でも酒を飲む者は居たが、へべれけになることはなかった。
「よう、お嬢ちゃん。見ない顔だが、飲んでるか?」
「は、はあ。連れを待っているもので」
「そうかあ。すっぽかされたんなら、こっちへ来いよ」
上半身をはだけた男に声をかけられた。陽気に、親切心ではあろうと思える。
「そ、そうですね。すっぽかされたら」
「うはは、待ってるからよ」
何がそんなに愉快なのか。次から次へ溢れ落ちるように男は笑い、近くの卓を順に回る。意外にも、邪険にされることはないようだ。
(もう。まだ?)
義足の職人がどれほど離れているか、聞いておけば良かった。
後悔する
(どれくらい待たせるかくらい、言って行きなさいよ)
命を救われた感謝は、もちろん忘れていない。だが身体に温もりが戻っても、恐怖に凍えた心はまだ震えていた。
「今、どこ……」
強がっていなければ、すぐ後ろへ千の手が見えそうで不安になる。
長椅子に座る自らの脚を撫で、温めようと試みる。すると
「あっ」
すっかり忘れていた。
「ねえ、
だが生命玉は、黒く鈍く沈黙した。渡された時には妖しく揺らめいて見えたが、それもなかった。
壊してしまったかもしれない。そうでないとしても、
ふうっ。とため息を吐きかけ、
その手を、誰かがつかむ。背すじに寒気が走り、全身が震えて強張った。
「なんだ嬢ちゃん、やっぱり一人じゃないか」
「えっ。いえ、まだそんな」
先の男だ。いくらも経たず、戻ってきたらしい。
強い握力で手首が引かれ、生命玉を落としそうになった。どうにか反対の手に受け止め、引き摺られぬように踏ん張る。
「連れを待ってるんです」
「いいっていいって。大勢のほうが楽しいだろ」
「良くありません!」
会話の体を成してはいるが、聞く耳という概念が男に見受けられない。
離してと頼んでも「遠慮するな」と。周囲も囃し立て、助けようとする者はなかった。
仮にも僧が、腕力に訴えるわけにはいかない。逃げ出すこともできず、困り果てた。その上に、また別の声がかかる。
「おい兄さん、その子はオレたちの連れだ。譲ってもらおうか」
(どうして?)
広場の揉め事が、まとめて自分を襲っているように思えた。
それは事実に反し、ケンカ未満の怒号など数えきれぬほどだったが。
「何だとぅ」
目の前の男も、割り込んだ何者かに怒気を向けた。酒によって正体不明となり、むしろ茶化した風でもある。
「おお、大分うまい酒を飲んでるな。そのまま気持ちよく帰って寝てえだろ?」
押し潰した低い声が、背中の側の高い位置から降ってくる。圧の強さに聞き覚えがあった。
「シ、双龍兄弟……」
振り返るまでもなく、半裸の男が闖入者が何者かを教えてくれた。
二人が
「代わりに自己紹介をありがとうよ。で、まだ何か用かい? このお嬢さんは、オレらの連れだ。よぅく覚えとくといい」
「は、はは……分かったとも。あんたらの知り合いに、何をするわけもないだろ」
口もとだけが笑い、不気味な迫力が纏う。双龍兄弟は指の一本さえ触れなかった。
しかし男は強く押されたように尻もちを突き、そのまま這いつくばって退散した。
周囲の卓は双龍兄弟の現れる前と後で、何も変わらない。中に半裸の男の連れもあったはずだが、誰も思い思いに酒を酌み交わし続ける。
「助かったわ、ありがとう」
もう戻ってこないか。半裸の男の逆上を警戒し、去った方向から目を外せない。
すると
「心配するな、酒に気を大きくして調子に乗っただけだ。もう
顔のエラや顎、頬骨とあちこち尖った顔。
「おい
懐から銭入れを取り出し、放り投げる。漬物石、ではなく
「何だ兄者。一人で格好を付けようたあ、狡いじゃねえか」
「げははは。早い者勝ちだ、悪く思うな」
「いいさ。有り金全部、使い切ってやる」
覚悟しろと言いたげに、
「あの。私も払います」
「いいっていいって、約束しただろうよ。オレたちゃ明日もあさっても、いつまで生きてるか保証はねえんだ。果たせる時に約束は果たすのさ」
「そんな……」
そんなことはない。と言いたかったが、言えない。迷宮がどれだけ恐ろしいところか、知ってしまった
まして彼らの潜るのは、比べ物にならない深層だ。
「あの、聞いても?」
「なんだなんだ、賢い嬢ちゃんから質問とは腰が引けるな。ああ、いや聞いてくれ。オレに答えられるなら、何でも答えてやるぜ。げはははっ」
これは世辞だと但し書きの付いたセリフ。どう答えるか考えるより先に、腕組みの
何であろうが深刻になる必要はない。と、問う前から助言をもらった気分だ。
「私、千の手という魔物に出遭ったの」
「へえ?」
ぴたり。尾を引く
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