26-3 相棒
「なぁレイル、あれ、何体いると思う? 俺にゃ3体には見えないんだが」
「バッカじゃないの? いや、バカだとは思ってたけどさ、とうとう数の数え方も忘れちゃったんだ。
ヤバいなぁ、数も数えられないとなると、ちょっと冒険者やってけないんじゃないの?
僕、さすがにこんなに早く君が引退するのは予想してなかったんだけど」
レイルの憎まれ口はいつものことだから、軽く聞き流す。
「どう見ても10じゃきかないよな。
いつの間にこんなことになってたんだ? つうか、どうしてこんなんなるまでほったらかしにしてたんだよ」
「僕が答えを知ってるとでも思うわけ?」
ま、そりゃそうだよな。
「あのおっさん、俺達のこと完っ全に便利屋扱いしてやがるよな」
「そう思うんなら、断ればいいのに」
「5級になると、指名依頼は断れねぇんだよ」
この国では、冒険者はその実績やギルドへの貢献度なんかによって、1級から10級に分けられる。
登録すると10級になり、実績を挙げたり試験を受けたりして、徐々に級が上がる。
7級からは担当のマネージャーがつき、5級からは正式な指名依頼の対象となる。
“正式な”ってのは、指名依頼は6級以下相手でも出せるし受けられるからだ。だが、それは名指しで依頼して“できれば受けてほしい”という程度のものだ。要するに、依頼主が“この前仕事ぶりが良かったから、また頼みたい”と思って指名するってだけで、受けなくても構わない。別の仕事の最中だったりすれば、受けられるわけもない。
だが、
予想外の怪我なんかで“受けようにも受けられない”みたいなきっちりした理由がない限り、懲罰の対象になるからだ。具体的には、除名処分とかだな。
除名されると、ギルド預金も没収されるし、相当なペナルティを受けることになる。
なので、俺は好きこのんでこんな仕事を受けたわけじゃないんだ。
とはいえ。
「よく言えばアテにされてるってことなんだが、はっきり言って便利屋もいいとこだよなぁ」
「セシリアにもよく言っといた方がいいんじゃない? 最近の君の尻に敷かれ具合は、見てられないよ」
痛いとこ突いてくんなぁ。
セシリアは、1年前の魔神の一件以来、俺達専属のマネージャー──つまり、俺達だけのマネージャーになった。それまでは俺達以外にも担当してた冒険者がいたはずだが、今は俺達だけ担当してるってわけだ。
支部長曰く、俺達はこの街の冒険者の中でも実力・信用ともにかなり上の方なんで、優遇してんだそうだ。
魔神騒ぎで、俺達は目立ちすぎた。
ギルドの本部の方に、魔法陣を研究してる部署があるらしいんだが、そこが永年研究してもわけがわからなかったものを、俺達がかなり解き明かしちまったもんだから、そこの所属にならないかって話もあった。断ったけどな。
結局、フリードがどんな研究してたかは、資料が見付からなくてわからず終いだ。
ジールダの周りに作られた5つの魔素溜まりは、魔素をなくす結界モドキで魔法陣に戻ったが、それはみんな俺達が洞窟で見付けた魔法陣と同じだった。要するに、書き写しても発動させられなかったってことだ。何か特殊な方法で発動させるんだろうが、そこんとこは今もわかってない。
ルードの、というか、昔のジークの記録なんかでも、破魔の結界の作り方は出てこなかったそうだしな。
そんなわけで、破魔の結界は再現できない。できたら、俺達にとってとんでもない武器になるんだが。
俺の結界モドキじゃ、狭間にいった魔力を取り出せないから、基本、役に立たない。
多分、破魔の結界とジークの剣で、魔法陣が対になってんだろうが、なにしろ破魔の魔法陣自体がどんな形なのかわかんねぇからなぁ。
魔素溜まりは、所詮魔法陣の角の1つでしかないからなぁ。
さて、と。
岩巨人の弱点はわかってっけど、あんだけの数だと厄介だよなぁ。
全部一遍に止めるにゃ範囲が広すぎるよなぁ。
「どうやって止めっかな。
さすがに正面からじゃ、お前でも勝てねぇよな」
「できるだけ広くして、5~6体入れてくれる?
とりあえずそいつらの胸削ぐよ。
範囲に入れば勝手に止まってくれるし、少しずつ範囲ずらしてくれればいいよ。
魔法陣と違って、君ならその辺融通効くからね!」
「おうおう、ありがとよ。
んじゃ、5~6体な。いくぞ」
レイルの要望どおり、できるだけ広く、手前にレイルが駆け回れるスペースをとって魔素をこっちに呼び寄せる。
レイルが6体とも削ぎ落としたところで、魔素をどかす範囲を変える。
そんなことを何回もしてるうちに、巨人は全滅した。
「俺達には比較的楽な相手だが、普通なら全滅ものの悪夢だよな」
「まぁ、仕事に困らないし、報酬は割がいいけど、つまんないよね」
1年前、魔素溜まり自体は壊したんだが、岩巨人はなぜか現れ続けてる。はっきり何日に1体というわけじゃないが、突然巨人が現れて山を下りてくるって謎の現象が止まらない。
俺達にとっては、1体や2体ならどうということもない相手だが、普通の冒険者にとっちゃ、剣も魔法も通じないってシャレにならない敵だ。
おかげで、そのたびに俺達に指名依頼がくる。実入りは悪くないが、完全に作業なんで、レイルの機嫌が悪くなる。
みゃあもこいつらには飽きたのか、食えないことを覚えたのか、最初は削ぎ落とした胸をガリガリ引っ掻いたり、取り出した魔石を放さなかったりしたんだが、いまじゃ見向きもしない。そういや、みゃあはこの1年でかなりでかくなった。もうレイルの腕には収まらなくて、自分で歩いてついてくる。
「ま、俺としちゃ、実入りがいい分、悪くない仕事だけどな」
「さすが、家庭持ちは言うことが違うね」
「言ってろ。
確実に金が入るアテがあるのは、お前にだっていいことだろがよ」
「君は魔素いじってるだけだからいいけどね、僕はかなり強化しなきゃならないから、消耗が大きいんだよ。
せめて君から精気もらえれば、少しは楽になるんだけどね」
あ~、レイルの胸の魔石か。
レイルは、淫魔と人間の間に産まれたから、胸に魔石がある。そのおかげで、普通なら考えられないくらい魔力を練るのが得意だ。普通は、1日中身体強化しっぱなしなんてマネはできない。ただ、その分、強化を最大にすると、消耗も激しいらしい。岩を斬るなんてマネは、確かにかなり消耗するらしい。初めて巨人と戦った時は、手足を落とすのに何回も休憩を挟まなきゃならなかった。
たしかに、俺に比べてレイルの負担が大きい。そこんとこ言われると、弱いなぁ。
精気か…。
家に帰りゃ、セシリア経由でやれるんだが、ここだと日帰りは無理だからなぁ。
丸1日辛い状態が続くんじゃ、機嫌も悪くなるのか。
「抱くんでなきゃ、まぁいいけどよ」
そう言ったら、レイルが露骨に嬉しそうな顔になった。
「それで妥協しとくよ!
変化解いた方が効率いいし、人に見られても困るから、夜だね!」
はぁ。
まったく、ごちそう前にした子供みたいな顔しやがって。俺はお前の飯じゃねぇってんだよ。
巨人の残骸は、魔法で土に戻してからそこを離れる。
魔石を外せばただの岩の塊だ、もう仕組みを調べる必要もなくなったんで、いつもそうしてる。まぁ、仕組みを解明するのを諦めたってだけらしいが。
その場で一泊して、翌日、ギルドに顔を出す。
「おかえりなさい」
セシリアの笑顔に迎えられる。こんな日々も悪くないよな。
ごつい魔法士とひょろい剣士 鷹羽飛鳥 @asuka_t
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