26-2 事件の終わり

 一晩眠ってすっきりしたところで、レイルとセシリアと3人でギルドに向かった。

 さすがに早いとこ細かい報告がいんだろう。

 夕べ戦いながら落とした魔石は、今日、ギルドの方で探すことになってる。暗いと難しいからな。


 「ご苦労だった。

  フリード本人と確認もできた。

  こちらの被害は、4級の剣士2人と5級の剣士1人だ。かなり痛いが、事件の大きさを考えれば小さい方だろう。

  で、何があったんだ?」


 そう言うと、支部長は腕を組んだ。

 まず、俺達に全部話させようってわけか。


 「俺達が封印の場所に着いて少しすると、例の結界が完成しました。

  破魔の結界っていうそうですが、そん中じゃ、魔素や魔力が“狭間”ってところに送られんだそうです。

  で、ジークの剣の紋章は、狭間に溜まった魔力を引っ張り出す効果があるんだそうです。それを使って、破魔の結界の中で更に結界を作れるそうで。

  支部長達が入ってこれないように、封印の周りを結界で塞いで出入りできなくしました。

  フリード自身は、ジークの剣と同じような剣使って戦ってました。剣は素人みたいですが、身体強化でギルドの剣士3人はやられちまって。

  レイルは魔石で、俺は支部長が入れてくれたジークの紋章で魔法使って戦って。危うく封印されそうになりましたが、レイルの剣で魔法陣ぶった斬って。

  そしたら、その間に魔神の影とかってのができてて。

  フリード自身は右手落として剣取り上げたから魔法使えなくなったんですがね、今度は魔神の複製が魔法撃ってくるようになって。

  魔石がなくなったんで、レイルはフリードが使ってた剣で戦って。ああ、その剣は魔神の左前足に刺さってるはずです。

  途中で、フリードが魔神操ってるって気付いたんで、フリードの首落としてトドメ刺したら、魔神に乗り移っちまって。

  フリードが操り慣れてないうちに足潰してなかったら、勝てませんでしたね。

  ああ、それと、最後の方じゃ紋章が使えなくなりました。

  その前に戦いながら魔石に魔力籠めてなかったら死んでましたね」





 俺の話を黙って聞いてた支部長は、「そうか」と言って、待ち伏せ側の話をしてくれた。

 支部長達の方にも、死んだことになってた剣士が3人現れたそうだ。1人はフリードのような格好で。

 で、そいつらを倒してフリードがいないことを確認して陽動だと確定し、それから俺達の方に向かったはいいが、見えない壁に阻まれて近づけず、破魔の結界が崩れて消えた後、見えない壁もなくなったんだとか。

 ちなみに、破魔の結界が消えたのは、東の魔素溜まりを、本部からジークの紋章を持って来てた魔法士に壊してもらったからだそうだ。

 俺達を北の魔素溜まりに向かわせたのとは別口で、念のために結界モドキを渡してたとか。用意周到だなぁ。もっとも、あと少し早く結界が消えてたら、むしろ俺達は負けてただろうけどな。


 「それにしてもわからないのは、フリードや配下がいつの間に街に入ったかだ」


 あ、そうか。それ、説明してなかったな。


 「ソリトと一緒に入ってきたって言ってましたよ。

  姿を見えなくする魔法を使って」


 「そんなことができるのか!?」


 ちらっと見ると、セシリアが微妙な顔をしてる。なんせリアンの帰りに使ってみせたからな。

 あんま手の内見せたくないが、まぁ、これくらいならいいか。

 俺とレイルを不可視の結界で包む。


 「なに!?」


 突然目の前から消えた俺達に驚く支部長に、結界を解いて姿を見せる。


 「まぁ、こんな感じですね。激しく動かなけりゃ、俺もできます」


 「お前さんもえらく器用だな。こっち側でよかった」


 「こっちとしても、支部長の読みには助けられましたよ。魔石の補充とジークの紋章がなけりゃ、死んでましたからね。

  欲を言や、もうちょい早くフリードの策について教えてもらいたかったですが。

  ここに、フリードの息の掛かった奴でもいたんですか?」


 「はっきりしたことはわからんが、可能性のある者はいた。フリードが死んだ以上、もう何もできないだろうが、調査は続けるつもりだ。

  ジークの剣のアレもな、できれば剣に彫って渡したかったんだが、目立つのでな。勘付かれるとまずいから、小さな金属板を用意するのが精一杯だったんだ。すまん」


 やっぱフリードの手下がいたのか。

 あ! そういや…


 「そうだ、支部長! フリードは、ジークとルードの曾孫だって言ってました!

  フリードに捨てられた時、ルードは身籠もってたって。だから、その復讐として魔神の影を操ってなんかしでかすつもりだったみたいです。

  破魔の結界が壊れた後も、魔神は魔法を使えてましたから、胸ん中の魔石は、結界からの魔力を受ける以外にも、普通の魔獣の魔石と同じ役割を果たしてたんでしょう」


 「リアンの街からは、フリードの研究資料の類は全く見付からなかった。

  おそらく自分だけの技術とするつもりだったんだろう。

  君達が魔法陣の仕組みに気付いてくれなかったら、フォルスきみが魔力を見る力を持っていなかったら、そう考えると背筋が凍る。

  今回は本当に助かった。支部長として礼を言う」


 そういやフリードの奴、俺に魔力を見る才能があるから殺そうとしたんだって言ってたっけ。

 レイルの母親も、淫魔の力を使えなくなる部屋に閉じ込められてたとか言ってたから、もしかするとフリードの研究の犠牲者なのかもな。

 さて、と。これでやっとこの仕事も終わりだ。

 しばらくはゆっくり休むとすっかな。


 「んじゃ、俺達はこれで。

  報酬は期待してよさそうですね」


と言って立ち上がろうとしたら、


 「ああ、報酬はもちろんだが、今回の功績を讃え、支部長権限で君達を5級に昇格させる。

  早速だが、指名依頼だ。

  残り4か所の魔素溜まりを君の結界で破壊してほしい。あの技術は極秘情報扱いと決まったので、迂闊な者には任せられんのだ。

  もちろん、依頼は強制だが、報酬ははずむぞ」




 なんてこった。

 このおっさん、まだ俺達をこき使う気満々じゃねぇか。

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