26話 ごつい魔法士とひょろい剣士

26-1 帰宅

  フリードと、フリードが作った魔神の影とかって奴は倒した。

 魔素から魔力を練ってたわけじゃねぇから体力は消耗してないが、炎の槍を連射しながら魔石に魔力を籠めたり、こっそり地面に魔力を這わせたりと、かなり神経使ったんで、えらく疲れた。

 つっても、少ない魔力をやりくりしながら魔神の傍で戦ってたレイルの方がよっぽどきつかったろうが。


 「フォルス、悪いけど肩貸してよ」


 「いいぞ、ほら」


 肩を貸すっつっても、身長差がありすぎるから、脇に腕回して支える感じになる。

 なんか抱きかかえてるみたいだ。そういやレイルは女なんだっけ? 行きがかりで抱いちまったけど、これからどうすりゃいいんだ? 男の姿に戻った今のレイルの顔見てっと、さっきまで素顔でいたのが嘘みたいだ。

 レイル・ランじゃなくてレイラ、だったか?


 「お前、ホントに女だったんだな。実感湧かねぇけど。

  レイラだっけ? これからどう呼びゃいいんだ?」


 言うと、レイルはきょとんとした顔で俺を見上げた。


 「バッカじゃないの?

  僕の秘密は守るはずだろ?

  今までどおりレイルって呼びなよ。

  あ、ちょうどいいから、今、ちょっと君の精気吸わせてよ」


 言うなり、レイルの腕から魔力みたいのが出て、俺の腕を包んだ。

 特に何か吸われてるって感覚はないが、確かに妙なもやみたいなのが出て、レイルに吸われてった。いつだったかセシリアが吸われてた奴だな。確かに何か減ったとかって感じはないな。


 「ん。今日が満月でよかったよ。

  君の精気がすごく効いてる。そうでなきゃ魔神には勝てなかったね。

  あと、みゃあのおかげかな」


 「ああ、みゃあのお陰でフリードが魔神を操ってるってわかったんだもんな。

  けど、あれ、どうにかならんか?

  いつもなら、そろそろ離れんのに、まぁだ舐めてやがんぞ」


 みゃあは、まだ魔神から掘り出した魔石を放さない。いつもなら、そろそろ飽きて放す頃なんだがなぁ。


 「魔神の肉が美味しいのかもね。初めて会った時も魔狼の肉食べてたし」


 あー。魔神の体ん中から掘り出したもんだからなぁ。そりゃ、血も肉もたっぷりついてるだろうけどよ。


 「みゃあの餌に、魔神の肉、いくらか貰ってくか?」


 「そうだね。

  みゃあ、この肉、もっと食べたい? 食べたいなら貰っておくけど」


 「んみゃあ~♪」


 まったく、会話してるみたいなこの絶妙の間はなんなんだろうなぁ。

 猫のくせに、レイルの言葉がわかるみたいなんだよなぁ。




 支部長が小走りでやってくる。

 そっか、結界もなくなって、こっち来れるようになったんだな。


 「フォルス、レイル、無事か?

  よくもまあ、たった2人で勝てたな。

  伝説の勇者でさえ倒しきれなかった魔神を」


 支部長が労ってくれるが、ちょっと違うんだよなぁ。


 「あ~、フリードが言ってたんですが、こいつは影とかって、魔神の複製みたいなもんだそうです」


 「複製?」


 「本物の魔神は、“狭間”とかってところに閉じ込められてて、その封印は、この辺にある見えない魔法陣で隠されてます。

  そこの…」

 フリードの死体を指差す。

 「フリードの死体のあるとこに魔法陣を作って、細工した魔石を核に、魔神の影を作って操ってたんです。

  だから、本物の魔神は、封印されたままです」


 「魔神を操る?」


 支部長は、わけがわからん、という顔をしてる。

 そりゃそうだろう。


 「俺達もへとへとなんで、詳しい話はまた後にしたいんですがね、とりあえずフリードは、自分で操れる魔神の複製を作ったんですよ。

  ジークの紋章みたいな魔法陣刻んだ魔石を使って。

  そんで、自分と魔神の複製の間を魔法で繋いで自由に操ってたんです。

  それに気付いてフリードの首を落としたら、フリードが複製の中に入っちまって。

  あれは、フリードも意外だったようです。

  結局、フリードが四つ足の感覚になじめないでうまく動けないうちに足を潰してたんで、なんとか勝てました」


 「わかった。

  ご苦労だった。ひとまず休んでくれ。

  詳しい話は、夜が明けたらギルドで聞こう」




 こうして俺達は、セシリアの待つ家に帰った。

 ああ、魔神の肉は、後で分けてもらえるよう頼んである。

 セシリアは泣きながら抱きついてきた。よっぽど心配してたらしい。

 精神的にはメチャメチャ疲れてたが、ギリギリの戦いの後で気分が高ぶってたので、そのまま相手した。

 後でレイル呼んで吸わせてやったんで、レイルの方は回復通り越してだいぶ魔石が成長するって喜んでた。満月だしな。

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