第6話
「それ、僕の母さんの肖像画なんです」
カップを持ったままアルフがそう答えると女はハッとした様子でアルフの方に振り返った。
「……母さん?この女性が少年の……」
「はい、僕の母さんです。と、言っても僕は死んじゃった父さん似らしいので全然母さんには似てないんですが……」
「死んだ父さん似……ふむ……成程な」
女は何やら考え込むように顎に手を当てた後「…頂こう」と言ってアルフが持っていたカップを受け取るとお茶を一口飲んだ。
「ふむ、美味しい茶だな。少年……いや、そういえば名前をまだ聞いていなかったな。少年、名前はなんて言うんだ?」
「僕の名前ですか?僕の名前はアルフレッドって言います。でもみんなからはアルフって呼ばれていて……」
「アルフレッド……そうか、アルフレッドか……」
「?」
噛み締める様に何度もアルフの名前を口にする女にアルフは首を傾げる。すると、女はそんなアルフを見て険しかった表情を和らげた。
「いや、すまない。少し知り合いの名前に似ていてな……。ゴホン、自己紹介が遅れたな。私の名前はステラ。見ての通り旅の者で、この街には人探しの為にきた。よろしく頼む」
「あ、はい!こちらこそよろしくお願いします!ステラ……お姉さん!」
「ステラで構わない」
「わ、分かりました!えっと、じゃあ……ステラさん!」
「ああ」
アルフの言葉に満足したのか女は柔らかい笑みを浮かべると受け取ったカップに再び口を付けた。その姿が妙に様になっていて思わずアルフが「かっこいいなあ…」と見惚れていると、不意にステラがカップから口を離してアルフに視線を向けた。
「ところでアルフレッド。一つ頼みがあるんだが……」
「は、はい!なんでしょうか!?」
「フッ、そこまで畏まらなくていい」
「ご、ごめんなさい。つ、つい……」
苦笑いしながら謝るアルフだったがステラは特に気にしていないようですぐに話を続ける。
「別に大したことじゃない。ただ、この辺りに宿屋はあるだろうか?出来れば一泊したいのだが……」
「宿、ですか?えっと……ここからだとちょっと歩きますけど『銅の鈴亭』っていうところが一番近いと思いますよ」
「そうか、ありがとう。ちなみにその『銅の鈴亭』というのはどこにあるんだ?」
「ええっと……大通りをまっすぐ行って突き当りを右に行ったところにあります。看板が出てるんですぐ分かると思うんですけど……」
「成る程、分かった。ありがとう、アルフレッド」
「いえ、お役に立てたなら良かっ……あっ!」
そこまで言いかけてアルフは突然声を上げた。確か『銅の鈴亭』も含めてこの街の宿屋はフォルギス剣技場の訓練生達が数多く泊まっているせいで連日満室で泊まれないということを酒場にいた冒険者たちが愚痴っていたことを思い出したのだ。
勇者の娘だが、どうやら100人の弟妹がいるらしい。 @3960
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