第5話





 かくいうアルフも『職業持ち』になるためにフォルギス剣技場に入門しようとしているのだ。だから、予期せぬ『職業持ち』との出会いにアルフはどきどきと胸を弾ませながら厚かましくも固有スキルを使うコツとかどうやったら早く職業持ちになれるのかとか色々と女に話を聞いてしまおうと思い、口を開こうとした。が、女はアルフが声を発する前にアルフの腕から手を離すと「じゃあな」と言ってアルフに背を向けてスタスタと歩き出した。



「え!?ちょ、ちょっと待って下さい!」



 足早にその場を去ろうとする女に驚いたアルフが慌てて大声で叫びながら女の服を掴むと女は怪訝そうに眉間に皺を寄せながら振り返る。その表情にアルフは一瞬怯んだものの勇気を振り絞り、思考を巡らせて、女を引き留める為の言葉を発した。



「あ、あのお姉さん!ここまで送ってもらったお礼をさせてもらえませんか!?」


「……お礼?別にしなくていい。こんな夜更けに一人で出歩いている少年が心配でお節介を焼いただけだしな」


「で、でも!このままじゃ僕の気が済まないんです!お願いします!!出来る限りのお礼をさせてください!!」


「…………」



 必死な形相でお礼がしたいと訴えるアルフを見て女は些か困った顔をした。しかし、アルフの目をじっと見つめた後、ため息を吐くと渋々といった様子で頷く。



「……はあ、分かった。なら茶の一杯でも貰おうか」


「! あ、ありがとうございます!」



 アルフは嬉しさのあまり思わずガッツポーズをしそうになったが、寸前のところで耐えて、深々と頭を下げた。そして「さあ、どうぞ入ってください!」と言いながら女の手を引いて、亡き母から受け継いだ年季の入った煉瓦造りの一軒家の中に女と共に入っていったのであった。







「お姉さん!今からお茶を淹れてくるのでここで座って待っていて下さいね!」


「うむ、分かった」



 家の中に入ったアルフは抱えていた『明日の食材』を置くために台所に向かいながら暖炉の前にある椅子に座るように女に指示を送ると、女は別段断る理由もなかったのかコクリと素直に頷き、アルフの言葉通りに暖炉の前の椅子に腰を掛ける。その姿をアルフは横目に見ながらそそくさと台所の床に『明日の食材』を置くと、手慣れた手つきで棚からティーカップを二つ取り出して台所に置いてあったポットから昨日煮出したばかりのお茶をティーカップの中に注ぐ。そうしてお茶の準備を終えたアルフは二つのカップを持って暖炉の前に戻ってくると……女は家の中のある一点を穴が開きそうなくらいジッと見つめていた。



「?」



 その女の様子に疑問符を浮かべたアルフは女の視線の先を辿って「ああ、これを見ていたのか」と納得した。だって、そこには柔らかい微笑みを浮かべる豊満な胸をした女性……否、街一番の美女と謳われたアルフの亡き母親の姿が描かれた絵画が飾られていたからだ。




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