〝ざまぁ!〟の対価・2

楠本恵士

復讐と報復は終わらない

 異世界──一人の男が燃え盛る民家を眺めながら呟いていた。

「ざまぁ……謝っても、もう遅い」

 男が燃やした民家は昔、クラス丸ごと転移してきた中で、下層カーストだった気弱な生徒が。

 追放されて、異世界で特殊なチート能力を得て。

 バカにしていたクラスメイトを次々と復讐……その中で、一人だけ逃げ延びて異世界の女性と結婚して、子供を授かったのが男の父親だった。


 父親は生前、病で床に伏せている時に幼かった男に語った。

「あのクラスから追放した野郎、チートな能力を使ってクラス中の生徒に復讐しやがった……オレがつき合っていたクラスの女も寝取りやがって、異世界ハーレムの奴隷女に加えやがって……ぜってぃ、許さねぇ……必ずこの父の恨みを晴らせ!」


 男は父の遺言に従って、クラスから追放した見知らぬ男を【報復ざまぁ】した。

 最初はスカッとした男だったが、次第に後悔の念と虚しさだけが心に広がってきた。

 酒場でエールを飲みながら、父親の無念を晴らした男は思った。

(オレは、いったい何をやっているんだ……親父が遺言で残した〝ざまぁ〟っていったい何だ?)

 エールを飲んでいた男に突然、体ごとぶつかってきた女がいた。

 脇腹に鋭い痛み……男の腹にナイフが刺さっていた。

 男をナイフで刺した女が言った。

「よくも、あの人を……ざまぁ! 謝っても、もう遅い!」

 男を刺した女は、男が民家ごと焼き殺した追放男の情婦だった。


『報復ざまぁ』をされた男は、ナイフが刺さった脇腹を押さえたまま、床に倒れて絶命した。

 それから、数年後──今度は男を刺し殺した情婦の女が酒場で、ざまぁ報復された。

 剣の修行をして剣士となった男の妹から……。

「よくも兄を! 謝っても、もう遅い! ざまぁぁぁ!」

 情婦の女を斬殺した剣士の妹は、その場に居合わせた者たちを女の仲間と思い込んで……斬り殺した。


 そして、さらに数年後……兄の恨みを張らし、剣士を引退して結婚して、平和な異世界田舎暮らしをしていた元女剣士は、ある日……酒場で巻き添えで殺された男の妻と子供から、爆裂魔法の炎に包まれ死んだ。


 復讐の機会を狙って、爆裂魔法の腕を磨いてきた母と子が言った。

「お父さんと、祖父のかたき! ざまぁぁぁ!」


 さらに数年後──今度は女剣士を師と仰ぐ、剣士と弟子の奇襲を受けて、復讐のための爆裂魔導を学んだ母と子が殺された。

「よくも、師匠を殺したな! いくら詫びても許さん! ざまぁぁぁ!」

 母と子が報復を恐れて、隠れ住んでいた魔導村の魔力を持たない数名も、復讐に燃える凶刃に倒れた。


 そして、ざまぁの報復と復讐の連鎖拡大は止まらなかった。

「よくも、母と妹を、ざまぁぁぁぁ!」

「よくも、父と我が子を! ざまぁぁぁぁ!」


「師匠を!」

「兄弟子を!」

「友を!」

「仲間を! ざまぁぁぁぁ!」


「近衛の師団長を! ざまぁぁぁぁ!」

「なんの罪も無い旅人を! ざまぁぁぁぁ!」


「オレの住んでいた町を! オレの故郷の村を!」

「国を滅ぼされた恨み! ざまぁぁぁぁ!」


 恨みと報復が報復を呼び込み、異世界中が戦禍に包まれ。

 後にその戦いは【ざまぁ大戦】と呼ばれ、一冊の史実書にまとめられて後世に伝えられた。



〝ざまぁ!〟の対価・2 ~おわり~



教訓・人を恨むのもほどほどに

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