第3話

彼の結婚式まであと一ヶ月という頃。

あたしは二日と開けずに彼と会っていた。


仕事が終わった後一緒にご飯を食べに行き、その後は適当にドライブする。

いつも同じ。

適当な場所に車を停めて、話していると日付けが変わるまでがあっという間だった。


彼とあたしはとにかく波長が合うようで、可笑しく思うことや腹が立つことに共感しあえた。

彼といると、話していても、黙ってただ一緒にいるだけでも居心地が良かった。

その居心地の良さは、これまでどんなに親しく付き合った友人にも感じられなかったものだった。


たぶん。

彼も同じものを感じていたと思う。

あの頃、彼の車の中で過ごす時間は、とても不思議な、でも満ち足りた時間だった。




あたしの感じた居心地の良さを、恋のはじまりで浮わついていただけじゃないのか、と思われるかもしれない。

けれど、あたしは信じて疑わなかったのだ。


これは友情なのだ、と。

男女間の友情なのだ、と。


本当に疑ってはいなかったのに。






ある夜、あたし達がやはり車の中で過ごしていた時。

ふと、彼が言った。


「もっと早く出会えていたら、未来は違っていたのかもしれないよね」


あたしは、それが『婚約者の彼女より先にあたしと出会っていたら』という意味だと、すぐにわかった。


あの時、二人のたがは外れかけていたのだろうか。


あたしは少し弱い声で返した。


「彼女のことを好きなんでしょう」




返事をしない彼の方を向いた時。

え? と思った時には。


彼の顔が目の前にあって。


彼はそっと、口唇を重ねてきた。




あたしは。

どうして? と頭の中で繰返していただけで。

彼がゆっくり離れても、俯いて何も言えなかった。


そんなあたしを抱き寄せて、彼はもう一度言った。


「もっと早く出会えていたら······」

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