最終話「狂乱索餌」


 川から海になだれ込んだ。海を散策すると川とは違う広々とした感覚に思わず、胸が踊った。


 辺りを泳ぎ回って金城を探していると奴を見つけた。


 金城は彼女である篠田とカヌーをせずに砂浜の端にある岩陰でイチャコラやっていた。

 

 互いに乳繰り合って、舌を絡め合うその姿は洋物ポルノも顔負けだ。絶対に殺す。


 水底で様子を伺う事、数十分。やる事やった二人が動き始めた。ここからみんなのいる海岸に戻るには一度、海に入り、泳ぐ必要がある。


 だから、海で泳いでいる途中を狙って、八つ裂きにしてやる。 しかし、何分経っても奴らは密着して離れない。そろそろ僕も痺れを切らしてきた。


 リスクを冒して飛び込んでやろうとした時、二人は唇を離した。


 すると金城が海の方に飛び込んで、こちらに泳いできた。


「俺が華麗な泳ぎを見せてやるから見てろよー」


「もう、何よ。それ」

 金城のおちゃらけた言葉に篠田が思わず耳が腐りそうになる不快な笑い声をあげる。


 本当なら今すぐにでも、飛びついてやりたい。しかし、逃げられてしまった時、すぐに陸に上がれないようにするためにもう少し、泳がせる。


 早く来い。お前がそうしていられるのは今日で最後だ。そして、金城が等々、足のつかないところまでやってきた。


 チャンスだ。僕は勢いよく下から食らいついた。


「ヒャアア!」

僕が足に齧り付いて、金城は情けない声を上げた。そして一気に水中に引きずり込んだ。


 視界は奴の血で真っ赤に染まり、必然的に興奮状態になって行くのが理解できた。


 すると金城が水面に上がろうとしている。生存本能というやつか。心なしか先ほどよりも抵抗する力が僅かに強く感じる。


 しかし、ここで逃げられたら復讐はおろか、助けを呼ばれて僕自身が命を狙われる可能性がある。


 それだけは阻止しなければならない。僕は力を振り絞り、一気に水底に引きずり込んだ。


 片足のアキレス腱を食いちぎって、抵抗力を弱める。両足を食いちぎって、そのまま捕食も可能だがそれでは面白くない。


 もう片方の使える足を必死にばたつかせて、水面に上がろうとする。醜い命が生きようと踠いている様が実にこれが実に滑稽で笑える。


 水面でほんの一呼吸をさせて、また水中に引きずり込んだ。血で真っ赤に染まった体を何ども動かしながら、水面に上がる。


 しかし、その度に引きずり込んで、生き地獄を味あわせる。


「た、じゅ、げ、で、ぐ、だ、じゃ、い」


 何かほざいているが、何を言っているのかよく分からない。サメだしな。


 僕は金城をむさぼり食らった。鋭利な歯で肉を割く度に赤黒い血がドッと溢れる。


 その匂いを嗅いで、僕の食欲が増してさらに食らう。奴の顔は恐怖と痛みのせいか、原型をとどめていないほど、歪んでいた。


 加虐心が唆られて、何度も食いちぎった。やがて金城は抵抗すらしなくなった。


 続いて僕は大急ぎで篠宮の元へ向かった。この女も始末する。


「ねえー。どーしたの?」

 幸運な事に篠宮は金城を心配してか、海に浸かりこちらに向かい始めた。このままこちらに来てくればば、楽に事が運ぶんだけどな。


 しかし、現実はそうもいかない。

「きゃあああ!」 

 陸側から篠宮の甲高い悲鳴が聞こえてきた。おそらく水面に広がる赤い血と複数の肉片を見て、確信したのだろう。


 篠宮が態勢を変えて、すぐさま引き返そうとしている。まずい。このままでは食いそこねる。


 僕は必死にバタ足で泳ぐ彼女を追いかける。そして、運命の瞬間が来た。


「ぎゃあああああああ!」

 篠宮の足に喰らいつくと、彼女は聞いた事がないくらいの悲鳴をあげた。実に耳障りだ。


 周囲の迷惑にならないように海中に引きずり込んだ。化粧が崩れて醜い表情で何かをこちらに訴えかけて来たが、そんな事はどうでもいい。


 愛しの彼氏同様、汚い肉片に変えてやった。



 醜女を食い終えた後、僕はゆったりとしていた。復讐は終わった。辺りは血と臓物で真っ赤に染まっている。


 かつて僕は怖くて、反撃なんて出来なかったが、今は違う。僕は捕食者だ。


 カヌーを終えたのか。少し離れた浜辺の方では他のクラスメイト達が呑気に海での時間を楽しんでいる。


 彼らから危害を加えられた事もないので、彼らには何もする気がない。


 母のところに帰るつもりはない。気苦労の絶えない人生だっただろうからこれからは僕をことは忘れて、好きな人生を送ってほしい。


 僕はこのまま一匹で生き続ける。水の中で第二の人生を送るんだ。


 そう決心して、どこまでも広がる大海に向かった。

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「シャークアタック!」 蛙鮫 @Imori1998

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