第18話 ギャルと根暗と後輩と。
学校にいる時間は、基本的に周囲の観察に時間を費やしていた。
どんなゲームを作るのか……たまに突如、宇宙から飛来した隕石のようにパッと浮かぶ事もあるが、基本的にはやはり周囲に起こっている出来事や人間関係などが元ネタになる。
それは、学校に限った話ではない。バイト先でも放課後の寄り道先でも同じで、よく知らん人でも名前くらいは知っている人でも、観察すれば何かしらのヒントは得られるものだ。
……だから、その手の人間観察は一人でしたいものなのだが……。
「せんぱーい! こんちゃーっす!」
「……」
大きな声を上げて、学校でも自身の元にやってくるアホは周囲の人間なんてお構いなしだ。……や、まぁ由香を引き連れて碧が所属している三年の教室で昼飯を食べている奴も同じくらいお構いなしだが。
「コトちゃーん、こんにちはー」
「く、熊谷さん……こんにちは」
「先輩方もどうもー」
一応、二人と少しは仲良くなったようで、三人は元気に挨拶するように手を小さく振った。
さて、自分達に改まった様子で琴香は質問してくる。
「何してるっすか? こんなとこで」
「そりゃお前、三人でやることなんて決まってんじゃん。花札だよ」
「違うわ!」
「会議です!」
「でも持って来たよ」
「なんのために優奈と理沙とのお昼断ってきたと思ってんの!?」
「わ、私も昨日発売の本を読むの我慢してきたのに……!」
二人に揃って怒られたので、とりあえず花札をポケットにしまった。
まぁ、実際次のゲームについて考えないといけないわけだが。候補はいくつかあるけど、また二人からアイデアも一応、聞くことにし……ようとした所で、琴香が口を挟む。
「……なんでアタシは誘ってくれないっすか?」
「お前ゲストだろ」
「うちとの相棒勝負も負けたし」
「そ、そろそろ部活の大会の時期で忙しいでしょうし……次の放送は無理だろう、ということで……」
「……」
だから、まぁ必然的に次のゲームは一人用……あるいは協力になる。対決モノで製作者であるクリエイター木村と一緒にやるとフルボッコにされる。
その点、協力なら自分がヒントさえ出さなければ大丈夫だろう。
と、思ったのだが……琴香は何を思ったか鈴之助の隣に座り込み、ピタリとくっついて来た。
「……さ、続きをどうぞ?」
「むしろ離れてどうぞ。暑い」
「良いじゃないすかー。人の告白受けておきながら、他の女の子二人も侍らせてお昼食べてるんすからー」
「え……こ、告白?」
反応したのは碧。そういえば、あの場にいなかった。
「はいっす。自分、コクったんすよ。一年待て、なんてドラマみたいなこと言われちゃいましたが」
「え、ええっ!?」
「仕方ないっしょ。実況あんだし。三年になったら受験で実況止めなきゃだから、それまで待ってもらわないと」
「は、はぁ……」
ていうか、そんなことよりも、だ。くっつかれると困る。
「あんまくっ付くなよ。もう夏なんだけど」
「えー、嫌なんすか?」
「いや? おっぱい柔らかいの肘に当たってて最高だけど?」
「……先輩も男なんすよね……すんません」
ドン引きしながら離れられた。まぁこう言えば女子なら離れることはわかっていたから言ったわけだが。
と言うのも、前に告白されてから、開き直った琴香からの好き好きアピールがとんでもない。気持ちは正直嬉しいし一向に構わないのだが、せめてクーラーの効いた部屋でしてもらいたいものだ。
「で、それより次のゲームの話だけど……あ?」
顔を上げると、由香はニヤニヤ、碧はニコニコした様子でこっちを眺めている。顔立ちの違いからこそ異なる表現になってしまったが、結局二人とも「ニヤニヤ」している。
「何?」
「いやー? そういえば、中学からの知り合いなんしょ? 仲良しだなって」
「今思えば……熊谷さんは、栗枝くんを追いかけてこの学校に入学されたのですね……?」
「うっ……」
「とんでもない博打してんな。てかそんな前から俺のこと好きだったの?」
「あの、この話題は勘弁してもらえないっすか? 本人の前で恋路を語られて感想言われるとかどんな羞恥プレイ?」
鈴之助的には、別に話題を変えるのもアリだった。元々、次のゲームの話をするために集めたわけだし。
だが、今まで散々、生意気叩かれた先輩二人はそうもいかないらしい。
羞恥プレイ、という言葉から「この子も恥ずかしがることあるんだ」と理解。
つまり……逆襲開始である。
「ダメー。今まで散々、先輩にナマ言った罰ー」
「あの……この方のどの辺りにそこまで惹かれたのでしょうか……?」
「な、なんなんすかあんたら!? 後輩イジってそんな楽しいっすか!?」
「うん」
「わ、割と……」
碧まで頷いた。今まで他人と接する事をあまりしてこなかったからだろうか? ちょっと楽しそうだ。
追い詰められた琴香は、隣の自分に顔を向ける。
「せ、先輩! 黙って見てないでこの人達なんとかして下さいよ!」
「や、俺も気になるわ。ゲームの参考になるかもだし」
「あんたそれが仮にも振った相手に対する態度っすか!?」
「使えるものは全て使うくらいじゃないと、戦場は生き残れないから」
「ここ戦場じゃないし!」
さて、こちらとしても聞きたくなったので、あとは他二人の尋問タイムが始まった。
まずは由香から、それはエサを前にしたわんこのような瞳で問い詰める。
「で、どこが好きなん?」
「ど、何処だって良いっしょ……!」
「一つ、一つだけで良いから」
「も、も〜……」
意外と押しに弱い後輩は、頬を赤くしながらも目を逸らしながら……チラリと自分を見た。
「?」
「先輩も聞くんすか?」
「大丈夫、笑いもしないしからかったりもしないよ。何かしらの参考にするだけ」
「一番、嫌なんすけどそれ!?」
「ほら、良いからハリーハリー」
由香にまで急かされ、少し「うっ……」と冷や汗を浮かべながらも……観念したようにため息をつきながら、静かに語り始めた。
「まぁ、そのぅ……なんでも直球で言ってくれるとこ、っすかね……」
「えっ、ドMなの?」
「な、何故そこを……特殊な趣向をお持ちなんですね……」
「違いますから!」
「そうだぞ。コーチや監督……そして何より自分にしごかれるマゾっ気と、試合での対戦相手に可能な限り嫌がらせできるサドっ気の双方を兼ね備えてないとスポーツ選手は出来ないから。こいつは8:2でMだ」
「それほぼMっすよね!?」
下手くそなフォローをしてみたが、やはりツッコまれてしまった。
でも実際、正直さを好かれているとは思わなかった。むしろ自分は思ったことを言って嫌われていた男だから。
「てかそういうんじゃなくて! ……この人は基本的に損得勘定を自分の中で弾いて、感情抜きにしたアドバイスとかくれるから……そういうとこが、ただお世辞とか遠回しな言い方で何を言おうとしているのか分からない人より、よっぽど良いなって思っただけで……」
「おお〜……ベタ惚れ……」
「腹立たしい事この上ない物言いをそこまで好意的に解釈されているなんて……」
「お前ら覚えてろ」
というか、だ。そんな点で好かれてたのか、と少し冷や汗を浮かべる。それは別に好かれるような事じゃない。
「てか、それはお前がストイックなだけじゃね。普通は好きに言われたら嫌がられるよ」
「るっさいっす! だって……そもそもアタシがバスケ上手くなりたいのは……!」
「?」
言い掛けたところで黙り込まれてしまう。何か言いにくい理由なのだろうか?
きょとんと首を傾げていると、ニヤニヤした先輩二人がすぐさま追撃する。
「のは?」
「のは?」
「……や、あの……試合で活躍したいからで……」
「はい嘘ー」
「正直に答えられた方が、早く済むと思われますが……?」
「なんか半田先輩の追い込み方のがやらしい!」
「えっ」
それは正直、鈴之助も思っていた。流石、いろんな本を読んでいるだけある。
というか、琴香がバスケを上手くなりたがっている理由なんて鈴之助はなんとなく察している。
「ていうか、お前がバスケ上手くなりたい理由なんて、俺に勝つためじゃなかったの?」
「なんで知ってんすか!?」
「いや、中学の時から試合より俺との1on1の時の方が気合い入ってたし」
「おごっ……す、鋭い……!」
仮にも元キャプテン兼エースだ。そのくらい分かる。だからまぁ……他人に嫌われているとか、そういうのにも敏感になってしまった。
……そういう意味だと、目の前にある三人からは、それは感じない。
「てか、そうじゃん。コトちゃん、栗枝の中学の時の話とか聞かせてよ。何か弱点とかあるかも」
「ありませんよそんなの。この人が誰だかわかってるんすか?」
「え……で、でも……中学生男子というのは、黒歴史の宝庫なのでは……?」
「ないっす。バスケ漫画の必殺技の真似とかはしてましたけど、本当に試合でも使えちゃってたから痛々しさがなかったんで」
「……バケモノ」
「……ヘンタイ」
ボロクソに言われるけど、ただ単純に分かりやすく嫌われているような感覚ではない。ボロクソに言うし、目の前でバカとかアホとか言われる割に他の人間が自分に向ける感情とは明らかに違っている。
「でもほら、すけべな若さゆえの過ち的なのは……」
「ないっす。逆にクラスの女子に海パン盗まれたそうっすね」
「え……そ、それ大丈夫だったんですか……?」
「先輩っすよ?」
「そ、そうですよね……最低でも10倍返しくらいはしそう……」
最初は、放送のために集めただけ……いわば仕事での付き合いだけのつもりだったが……中々、悪くない。
ギャルと根暗と後輩と……配信。出来るならば、この騒がしい奴らとしばらくゲーム実況したいかも……。
そんな風に思いながら、とりあえず昼飯を食べた。
ギャルと根暗と後輩と配信と。 @banaharo
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