第17話 ジョシリョクエスト2
さて、女子力の育成は二人とも終えた。無事にクリアしたのだが……二人とも揃って肩を落としている。
「まさか……エンディング後に『でも、一ヶ月でこの男とは別れた。悪い人ではないけど良い人でもなかったから。』とか言われるとは……」
「育成した意味ないじゃないすか……」
「いや、逆にお前らあの男で良いの? 顔は良いけど一回もデート中に自分の希望は言わないし、お前らに気遣う様子も見せないし、金だけなんかやたらと使いたがるし」
「それは思ったけど」
「何で普通のエンディングないんすか」
「主体性のカケラもなく、ただ奢ればモテると思っている男がモテるのは許せないから」
「「嫉妬!?」」
ツッコミは入れたが、二人ともプレイしていて思った。特に面白い男でも楽しい男でもカッコ良い男でもなく、ただただ顔と羽振りが良いだけの男だったな、と。
つまり、ベタなことを言うようだが、人間顔だけではないと言うことだ。
「うし、じゃあ対戦やるか。もう時間もないし」
プレイヤー草壁もゲスト花村も、音読しながら且つ説明を聞きながらプレイしていたので割と時間がかかっている。
おかげで、もう後30分で母親が帰ってくる時間だ。サクサク進めなければならないのは、琴香も察していた。中学からの付き合いなだけあって、鈴之助の親がクソ真面目であり、従ってこそこそバレないように実況をしているのは察している。
「よーし、負けないからねゲストには」
「こっちこそ先輩(笑)には負けないすよ?」
「じゃあ負けた方は画鋲挟んだ指でしっぺな」
「なんて拷問!?」
「なんだよ、じゃあ爪に画鋲でデコピンは?」
「好きっすね画鋲!」
「子供の罰ゲームを猟奇的にすんなし!」
「分かった。じゃあ」
「「ババチョップはいいから!」」
「読むなよ」
とにかく、さっさと片をつけなければならない。
カーソルを、コントローラを握るクリエイター木村がVSに合わせた。
選択すると、少しロード。そして、映ったのは四つのスロット。そのうち二つが埋まっている。一つはクサカベ、そしてもう一つは……自分が作ったキャラクターの花村だ。
それぞれを選択し、そのままゲーム開始。ロード画面が流れた後、ステージが流れた。遊園地を背景に「STAGE 〜遊園地〜」という大きなロゴが流れる。
そして、ザッと大地を踏み締めて女子生徒が現れた。
「【男の子、アタシがもらっちゃうからね!】」
キュート属性特化のクサカベが現れ、セリフをプレイヤー草壁が読み上げる。
その後で、別の少女がまるで空から降り立つように着地した。
「【あいつの心をいただくのは私だから。】」
そう言いながら現れたハナムラは、クール属性特化にしていて、その眼光は真っ直ぐとクサカベを見つめている。
そして最後に現れるのは、攻略対象の男の子。
【あーあ、ったく……女二人のデートに連れてきやがって。いづらいったらねーよ。】
クール系男子の来栖イケ太くんだ。別に好きでも嫌いでもないが、言われたセリフに思わず二人とも半眼になる。
「何で女の子二人と遊べんのに偉そうなのコイツ?」
「文句言うなら来なきゃ良いのに」
「素直になれないくせに行動にも移せない男なんてそんなもんでしょ」
「なんでそういうとこだけリアルなわけ!?」
「ていうか、攻略する気が失せる事言うのやめてくださいよ!」
これからのゲームを理解しているのだろうか? いや、まぁしてないのだろうが。
それよりも、対戦だ。これに勝たないと、先輩の相棒というポジションは取れない。
深呼吸をしながら……3、2、1……と、カウントダウンが入るゲーム画面を眺めつつ、一気にコンセントレイト。
そして……始まった。
「さ、始まった。どっちが勝つかな」
このゲームの対戦は、自動的に始まる三人の会話から流れを察知し、そしてそのタイミングで女子力技を披露すること。
女子力技を登録できるのは全部で8つまで。その中には直接HPにダメージを与える「バトルスキル」と、保持しているだけで自身の能力が上がる「パッシブスキル」と、敵のバトルスキルを妨害する「ジャミングスキル」の三種類から、8つ選んでつける。
そのためにも……やはり、まずは先手を打つこと……!
【ハナムラ、スキル発動!】
「! いきなり!?」
「先手必勝!」
場面は遊園地に入った直後、選んだスキルは「氷のギャップバーニング」。効果は「普段クールな子が見せる年相応な一面により、クール力とキュート力の差分だけダメージを与える。ただし、一度使えばしばらくの間、使えなくなる」というもの。
これの強い所は固定ダメージが入ること。つまり、ジャミングスキルは通らない。
その上、装備に「自身のキュート力を-15%するかわりに、クール力を15%アップする」という「
効果が使われ、クール女子のハナムラは入場直後に走り出した。
【わー! 幸落園なんて久しぶりー!】
子供のように瞳を輝かせながら、園内を見回す。その様子は、クールな見た目と違って素が漏れ出したように遊び回る様子を見て、我ながらゲスト花村は「かわいい」とほっこりする。さすが、自分が育てた女子力だ。
「おお……確かにちょっと可愛いカモ……こういう女子力もアリかな……?」
プレイヤー草壁もそんな言葉を漏らす。これは勝ったも同然だろうか?
「いや、お前は無理だと思うよ。そもそも普段がクールじゃないし」
「いやいや、そうじゃなくて。逆にうちがクールになったら?」
「バカな子が背伸びしてるみたいになんじゃね?」
「う、うるさいから!」
それは正直そう思う。良い機会だし、煽ってやろう。
「ふっ、そうでしょうね。草壁さんには無理っす」
「お前もギャップ萌えは無理だ」
「アタシにそんな小細工いらないんで」
「だーからフィジカルで負けてる相手に1on1で負けんだろ」
「急にリアルネタ振るのやめてくれませんか!?」
だが、乗ったらまさかのクリエイター木村からカウンターが来た。この野郎は本当に何もかもストレートに言う男である。
さて、ダメージ判定が終わった後で、そのまま入場パートは続く。
【おおー、相変わらずだな。こう見えてガキの頃はここのヒーローショーとか見てたんだぜ。】
【へー。そうなんだ!】
【すごいね!】
「ストーリー中も思ったんだけど……自動で進む会話の女子達の返事も適当過ぎない?」
「そりゃ女子力しか磨いてないし。人間関係の基礎はコミュニケーションだから」
「え、これ全員コミュ障なんすか?」
「話は出来るけど、返事に困る話題が来た時の対応と、逆に返事に困らない話題を出すか、そういうとこの話ね」
言われて男の子の話題を見返す。一見、普通の話題だが……確かにあの素直じゃないぶっきらぼうな男に「こう見えて」とか言われると「もしかしてそれキャラ作ってんの?」なんて勘付いてしまう。
「……ホント、攻略する気が失せていくっすね」
「良いんだよ、女子力上げるゲームで男を攻略するゲームじゃないんだから」
「じゃあはい、今のうちにうちもスキル発動!」
「何……!?」
しまった、雑談に乗せられてつい油断した。すぐにクサカベはスキルを使う。
【クサカベ、スキル発動!】
発動されたスキルは「
「させねっすよ!」
すぐさま、こちらも対応。ジャミングスキルを発動した。
【ハナムラ、スキル発動!】
即座に対応した。ジャミングスキル「氷のレッド・ラインオブサイト」。効果は「敵がバトルスキル使用時に発動可能。クール属性ならではの冷たい視線を放つことで、自身が与えたダメージの10%分回復されてしまう代わりに、敵のダメージを25%軽減させる。ただし、三回目以降から回復するHPが5%ずつ増えてしまう」というもの。
こんな序盤で使うつもりはなかったが、初見ということもあって生憎ジャミングスキルは一つしか入れていなかった。
「あー! 人の攻撃邪魔すんなし!」
「こういうゲームっすから!」
「も〜……」
女子力とは他人の邪魔をするものではないだろうに……と、思わないでもないけど、できることはやらないといけない。
さて、そのままゲームは少しずつ進んでいった。
×××
結構、長丁場な戦いではあったものの、碧は飽きずに様子を眺めていた。
あれから割と一進一退。二人の育成の様子を見ていた碧としては、割と不思議ではない。鈴之助のアドバイスは二人に対し公平に行われ「一極か二極にした方が良いよ」と言われていた。
つまり、属性を絞れということだ。それを二人とも守った上で……やはりスキル構成は性格が出ていた。
何故なら、クサカベはジャミングスキルはなしで、アタックスキルを四つ、パッシブスキルを四つの脳筋編成。
それに引き換え、ハナムラはパッシブ三つ、アタック四つ、ジャミング一つ、パッシブ三つの、敵の攻撃を勝負所で防げるようにするため。
でも、基本やっぱり二人とも脳筋だ。
「私なら二極にするかな……数値が増えれば増えるほど覚えられるスキルも増えるし、何より同じ属性の技を受け続けていると、男子のHPにも耐性がついてしまうから」
例えば、キュート属性でダメージを与えた直後にもう一度、キュート属性で攻撃すると威力は落ちる。
キュート属性の次に別の属性で攻撃し、その後にまたキュートを叩き込めば威力を落とさずに攻撃できる。
つまり、お互いに同じ属性を選んだらスピード勝負になってしまうわけだ。
「いえ……とは言っても二極にしてしまうと、パッシブも半減してしまいますし……やはり、一極でしょうか……」
一人で「自分ならどうするか」なんて事を妄想していると、終盤の戦闘が始まってしまったので目を向ける。
戦闘はいよいよ最後、観覧車に移った。三人で観覧車に乗り込み、ゆったりとゴンドラが回っていく。
『オラ!
天真爛漫で元気な少女が、ふとした時に見せる大人な笑みのことだ。キュート属性1.5倍ダメージに加え、クール値の数値分ダメージを与える固定ダメージが入る技だ。
その上、時間帯が夕方だとさらに効果は1.1倍される。
中々、考えて技リストを入れているが……やはり、敵もジャミングスキルを装備している。そのため、やらせない。
『させねっすよ! 氷のレッド・ラインオブサイト!』
『うがっ……そ、それずるい……!』
『そっちもジャミングスキル入れりゃ良かったんすよ!』
効果を知らないからだろう、プレイヤー草壁が困っている風なのは。しかし、実際は何度も使えば使うほど効果が薄れるジャミング。
それを理解した上で、おそらくブラフを張っているゲスト花村は流石スポーツ選手だな、と思ってしまう。
とはいえ、なんだかんだ一進一退。作っていた時のデバッグ作業で何度も鈴之助とテストプレイを重ねた碧には、互角の戦闘であることを見抜けていた。
それと同時に……だ。
『いやー! しくった! 結局、ポールダンス使う機会なかった! 狭い場所だと使えないとかあるんすね!』
『あるわけないじゃんかそんなの……てか、遊園地でいきなりそんなんやられたら引くし。花村ちゃんってバカなの?』
『そっちだって、一個技リストにめっちゃ頭悪いのあるじゃないすか! なんすか「いっぱい食べる君が好き」って!?』
『外食時に使えるスキルだから! ……お弁当装備してると使えないの忘れてたの』
『アタシよりバカじゃないすか』
『はぁ!?』
『落ち着けダブルバカ』
『『ヒートアップさせんな一番バカ!』』
なんか、二人とも必死だった。そんなに負けたくないのかな、と気になるくらい。琴香はともかく由香まで熱くなっているのは……いや、まぁあの子も元々、負けず嫌いだし、何もおかしくはないのかもしれない……。
さて、そんな間にも二人の戦闘は続いていく。
ゴンドラは、四分の一を上がり切った。ここからが勝負だ。
【お前ら、今日は楽しかったか?】
この「俺が誘ってやった風」なセリフ……と、普通にドン引きする。自分が連れて来たと勘違いしているのは間違いない。
【うん。楽しかったよ。】
【最後に観覧車とかベタだけどね。】
その直後、二人はスキルを発動。画面は右半分が2P、左半分が1Pとなっており、スキルを発動するにはボタンを押して技リストから選択する必要がある。
【クサカベ、ハナムラ。スキル発動!】
【
【氷の揉み上げオン・ザ・イヤー!】
要するに、とっても純粋な笑顔ともみあげをクールな笑みと同時に耳にかける仕草だ。キュート属性の技の8割は笑顔なのだ。
その直後だった。画面に今までにないメッセージが表示される。
【ボタンを連打してライバルの技に打ち勝て!】
そして、画面の両サイドから中心に向かってビームのようなものが出てきて押し合いが始まる。
それを見るなり、慌てて二人は連打し始めた。
『ちょっ、何これ!?』
『聞いてないんすけど!』
『ああ、忘れてたわ。説明。VSモードの最後のアピールパートに限って、アタックスキル発動のタイミングが被ると特殊バトルが始まんのよ。だから、頑張って』
『『先に言えし!』』
10秒間のカウントダウン。二人の連打はほぼ拮抗している……が、徐々にハナムラの方が押し始める。
『ちょっ、なんか推されてない!?』
『甘いんすよ! スポーツ選手にこの手のバトルで勝てると思ってんすか!?』
『そんなん不公平じゃん!』
『馬鹿野郎、この世に公平なことなんて何一つないよ。その不公平さをどうやって覆すかが面白いんだろうが』
『全てにおいてパラメータが上振れてるあんたが言うな!』
それはその通りだ。なんで説得力がないけどなんか良い感じに聞こえるセリフがこんなにポンポンと出て来るのか、非常に気になる所だった。
結局、分が悪く押し切られてしまう。
『あー! もう負けたー!?』
『ちなみに負けたらスキルは不発だけど使った扱いになるから、二回連続で使うと威力落ちるよ』
『よっしゃ! これは取ったっしょ!』
そう言う通り、男はハナムラを見て少し頬を赤らめる。
目を逸らしながら、話を続けた。
【ま、まぁそれなら良かったわ。……あ、もうすぐ頂上じゃん。】
そこで、また二人はスキルを発動する。どうせ最終ステージ、威力が下がろうがやったモン勝ちだ。
【クサカベ、ハナムラ。スキル発動!】
【邪気なき無垢なる肯定!】
【氷のギャップバーニング!】
『『同時!』』
一気にまたボタンを連打し始めた。もうマイク越しにカチカチと音が聞こえる……のだが、画面に表示された文字はさっきまでと違う。
【コマンドを正しく入力しろ!】
『『さっきと違うんかい!』』
『同じじゃ面白くないでしょ』
『先に言ってくださいよだから!』
ツッコミが炸裂しながらも、二人はコマンドを入力する。……が、瞬間で溶かしたのはクサカベの方だった。
『え、速っ!?』
『当然っしょ。うち、クリエイター木村のゲームほぼクリアしてるし』
『ぐっ……アホなギャルの割にゲーマーだったなんて……!』
『アホじゃないから!』
なんてやりながらも、とりあえず今回はキュート属性のダメージが入った。
さて、いよいよ観覧車は最高到達点に到着した。ここで決めた方が勝つ……と、二人はスキルを開き……そして、一気に技を解き放った。
『喰らえー!』
『そっちこそ!』
『
『氷河に発するスライド・フィーバー!』
どんな技だか分からないが、結局の所は笑顔なのだろう。が、名前が大仰なだけあって高威力の技が二つ。
次に行われるミニゲームは何か……と、画面に映ったのは……リズムゲームだった。横から流れて来るボタンをタイミング良く押す。
なんかもう違うゲームに見えるが、これで決着がつくからか、二人とも集中している。
「っ……!」
ゴクリ、と碧も唾を飲み込んだ。ここでついに決着がつくのか……と、冷や汗を流しながら画面を眺めた。
そして……その後の演出はなかった。二人ともアピールし始めた映像があり、そのまま観覧車編は幕を閉じた。
『『……えっ、結果は?』』
『結果は勝者と一緒に流れる』
そう言う通り【こうして、三人のデートは幕を下ろした……。】のモノローグが流れる。一番美味しい結果は、この後に流れるのだ。
【だが、帰宅後……。】
【意中の彼から、彼女へ連絡が届いた……。】
『……どっち?』
『いやアタシでしょ』
『俺じゃね?』
『うるさい』
『黙ってて』
『……』
放送主を黙らせる放送2回目の同級生とゲストだった。
そして……最後にボタンを押し、表示されたのは……。
【クサカベ、今暇か?】
『ッシャオラァァぁぁぁぁッッ!!』
『はーーーーーーーーーーーー!?』
プレイヤー草壁の勝利で、幕を下ろした。
×××
「では、本日の実況はクリエイター木村と」
「プレイヤー草壁と」
「……負け犬花村でお送りしました」
その挨拶で実況は終わった……が、負け犬花村こと熊谷琴香はテンションが低いままだった。
実況を切った鈴之助は、その琴香に目を向けて声を掛ける。
「てか、お前。負けたからって一気にテンション下げてんじゃねーよ。ガキか」
「……るっさいっす……はぁ……」
怒られてしまったけど、正直申し上げてガッカリしてしまった。負けたら鈴之助を由香に取られてしまうと言うのに……自分は負けた。
そのショックが大きすぎて……そして、気付かされた。やはり、自分はなんだかんだで鈴之助という先輩が好きであったことを。
取られてから理解するなんて……本当、バカの所業だった。
「いや、ホント頼むわ。次からはそう言うのやめろよ。たかがゲームの放送なんだから。後半も強引に締めちゃったし」
次、と聞かされたが……ちょっと入りづらい。というか、入りたくない。自分の好きな人と憎たらしい面食い女がくっ付いている空間でゲーム実況とか、普通に嫌だ。
「え……あの、アタシはゲストなんじゃ……」
「いやお前がやりたくないなら良いけど。でもなんだかんだリスナー喜んでくれてたし、たまにで良いから顔出してくれると嬉しかったりする」
「……」
「あー待った」
そんな話をする中、口を挟んだのは由香だった。まぁそれはそうだろう。せっかく、鈴之助の隣に立つ権利を得たのに、他の女の子を誘ってなんて欲しくないはずだ。
「栗枝、悪いけどこの子とうち、賭けしてたんだよね」
「賭け? 何を?」
「そりゃ、あんたの相棒の座」
……いよいよ、鈴之助を由香に取られると言う話になりそうだ。少し胸の奥がズキッと痛むものの、ここはもう負け犬らしく潔くなろう。
そう決めて、由香に改めて声をかけた。
「そうっすよ。この際ですし、黒崎先輩はもう言っちゃってください」
「分かってるし」
「告白」
「うん。え?」
今なんて? と言うように二度見されてしまった。いや、急になんだこの人。鬼なのだろうか? こちとら気持ちを押し殺して推奨してると言うのに。
「告白して下さいよ、さっさと」
「告白? 何」
「そうだぞ、黒崎。余罪を吐け。なんだ賭けって。俺何も聞いてねーぞ」
「いやあんたは黙っててください」
なんかよく分からんことをほざいているのを黙らせてから、改めて由香を促した。
「ほら、早く。アタシももう断ち切りたいんで」
「いや、告白なんてしないけど。てかなんでするのそんなこと」
「なんでって……好きなんすよね? この人の顔が」
「顔が好きで告白なんてするか! そしたらアイドルにどんだけ告白しないといけない人が出てくんの!」
「? 面食いじゃないんすか?」
「え、何!? 怖いんだけど。これ会話噛み合ってる?」
「お前らなんの話してんの?」
「いやうちも何が何だか……」
ええい、まだるっこしい。どこまで焦らすのか、と頭に来たので、もう言ってしまうことにした。
「先輩、この人先輩のこと好きなんで付き合いたいらしいっすよ」
「は!?」
「え、いや違うだろ」
「違うわ!」
しらばっくれ始めた。もう我慢ならなくなり、バンっと机を叩いてしまった。
「何誤魔化してんすか二人して!? 先輩に近づく頭悪いギャルなんて、顔以外に目的ないっしょ!」
「こんな性格がストレート過ぎて悪い男に誰が惚れるかー!」
「目の前で言っちゃうのね」
「じゃあなんすか! あんた好きでもない男の部屋に上がり込んでこんな夜遅い時間までゲームしてたと!?」
「それはごめん! でもその通りです!」
「ちゃんと遅くなった日は家の近くまで送ってるよ」
「あんたは黙ってろ!」
なんて話しながらも、冷静に考える。待ってほしい、別に好きでもなんでもないのだろうか? いや、それはそれで問題な気もするけど、そんな事よりも好きではない……じゃあ、この女は何を賭けていたのだろうか?
「てか、じゃああんた何を賭けの対象にしてたんすか?」
「クリエイター木村の相棒の座っしょ」
「え、ですから夜に先輩の家に遊びにきても良い座ってことっすよね? 彼女じゃん」
「いや、そうじゃなくて、普通にこう……No.2ポジション的な?」
「え……じゃあ、好きじゃないんすか?」
「じゃないよ。……や、クリエイター木村は面白いから好きだけど、この人は別に」
「……」
なんか……痛烈に恥ずかしい思いをしてしまっている気がする。いや、気がしない。恥ずかしい思いをしてしまったのは事実だ。
カアァァッと頬が赤く染まり上がり、急に発熱したように頭がくらくらしてしまう。
視界さえグルグルと回り始める中、目の前のバカな先輩はしゃあしゃあと聞いて来た。
「何お前、俺のこと好きなの?」
「っ!?」
「……うーわ」
図星をレイピアで突かれたような鋭い一撃に、思わず顔が真っ赤に染まり上がった。貫通力が高すぎてクラクラしていた意識が一気に引き戻される。
「き、急になんすか!?」
「急でもなくね。自然な流れだと思うけど」
「っ……そ、それは……!」
「デリカシーの無さが唐突さを出しただけだと思う」
「そ、そう! それっすよ!」
「そうか。で、それより俺のこと好きなの?」
「「だからデリカシー!」」
今度は二人揃ってツッコミを入れた。しかし……鈴之助のことが好きじゃないと分かったからだろうか? なんか、由香がとっても良い人に見える。ダブルツッコミも、なんか楽しい。
そんな自分に、由香が横から優しく声をかけてくれた。
「熊谷さん、別に答えることないからね。そもそも女の子に『俺のこと好きなの?』とかイタすぎるから」
「……」
なんで恋バナ好きであるはずのギャルが、その件で問い詰めてこないのだろうか? 仮にもさっきまで反目していた仲だというのに……。
この人もしかして……琴香が鈴之助の相棒の座を欲しがっていると思っていたのは、琴香が鈴之助のことを好きだと気がついていたからなのでは……。
そう思った直後、再び恥ずかしさが込み上げてきた。
「……〜〜〜っ!」
ちょっと……だめだ。これはもう逃げるしかない。ここにいるのはあまりにもキツイ。
そう思い、立ち上がるとすぐに逃げ出そうと部屋の扉に向かって走り出す。
「すんません、失礼するっす!」
「させるかああああああ!!」
「「ええええええええ!?」」
しかし、自分の腰からお腹にかけて手をかけた鈴之助に、体を持ち上げられながらベッドに放り投げられたことで阻止されてしまった。
「あ、あああんたって人は! 女の子になんて真似するんすか!?」
「今の流れは帰してあげなさいよ!」
「バカヤロウ、もう9時過ぎなのに女の子一人で帰すわけにいくか!」
「もうガキじゃないんすよ自分は!」
「同中で家近いんしょ? 過保護過ぎだから!」
「馬鹿野郎、世の中つまんねーことばかり現実に起こるんだ。万が一の時、不審者は出て来るけどヒーローは出て来ねーぞ?」
そうだった、中学の時も部活で居残り練習した時は毎回、送ってくれていた。この人にとって大事なことを見極めているから、空気とかに流されないでやるべきと思ったことをしてくれる。
この人のそんなところが、自分は好きなんだと思う。
……でも、恥だけかかされるのはなんか嫌だ。
「っ……じ、じゃあ、一つだけ聞かせてくださいよ……」
「何?」
「あ、アタシの気持ちを知って……何か、返事とか……」
「ああ。……あー、無理」
ボグッ、とボディブローが入った。もう嫌だ。今日の出来事だけで5回は死ねる。
琴香がベッドの上で屍のように生き絶えそうになっている中、やはり哀れに思ったのか自分より先に由香が食いかかった。
「ちょっ、言い方」
「いや、まだるっこしく言うよりマシでしょ。それに、条件次第では良いし」
「え?」
顔を上げたのは琴香。条件次第で彼女にしても良いとか言う謎ワードを気にする余裕もなく、垂らされた蜘蛛の糸に目を輝かせる。
その琴香に、鈴之助はいつもよりキリッとした真顔になって答えた。
「月に一回、銀行強盗が押し入るような刺激的な事件を起こせるなら、採用してやっても良いよ」
「「起こせるかああああああ!!」」
二人揃って飛び蹴りをぶちかました。由香は下半身、琴香は顔面に狙って一斉に。この男は本当に人をイラつかせてくれるもので、思わずぶっ飛ばしに行った。
しかし、軽くジャンプした鈴之助は体を真横に倒し、二人の体の間をすり抜けて着地。蹴り込んだ二人は机に突っ込んで床にひっくり返る。
「何避けてんだああああ!」
「いや当たると痛いし」
「お願い、一発で良いから殴らせて!」
「まぁでもほら、俺今実況が楽しいから。クリスマスもバレンタインもタイミングによっては実況を優先するけど?」
「最悪、最悪だコイツ!」
ロマンチックさとかお構い無しだ。少なくとも由香はドン引きしているレベルで。
「や、そうじゃなくても、他の女子……半田先輩とかそこの黒崎とか、その辺と二人で家にいることになったりもするし。彼女になったとしても、その辺も我慢してもらうことになっちゃうけど」
「っ……そ、それは……」
……そういう意味だと、確かに彼氏としては最低……だけど、やりたい事をしているに過ぎないのだから、責めるようなことでもない。
でも……少なくとも自分は実況活動以下の優先順位かぁ……と、ため息が漏れる。いや、比べるようなことではないのは分かるのだが。
その自分に、鈴之助は続けて言った。
「けどまぁ……俺も、来年には大学受験の勉強とかあるし、その時には活動も休止する。……だから、熊谷の気持ちが来年まで変わらないんだったら、またその時話そう」
「え……じゃあ、まだチャンスはあるってことすか……?」
「同じ人に一回しか告白しちゃいけないなんてルールはないでしょ」
それはその通りだが……でも、なんか嬉しい。思わず頬が赤く染まってしまう。
そうだ……落胆するのは早い。実況とは、鈴之助にとって部活とか仕事とか、それくらい大事なものなのだろう。
自分だって仮に彼氏ができた時「バスケと俺とのデートどっちが大事なの?」とか言われたら腹が立つし、要はそういうことなのかもしれない。
とりあえず……話はまとまった、と判断したのだろう。黙っていた由香が口を挟んだ。
「……なんかいづらいんだけど」
「ああ、悪い。じゃあ帰るか」
「はいっす!」
とりあえず、脈が全くないと分かっただけでも琴香のテンションは戻った。
それは由香も同じようで、とりあえず今後も実況のお手伝いとかしても平気と分かってホッとしていた。
……というか、だ。この人もその気がないなら……鈴之助に対する愚痴を言う良い相談相手になるのかもしれない。
今度からは、もう少し気さくに接しようかな……なんて考えながら帰りの準備を始めた時だった。
しれっと鈴之助も部屋を出る準備をしながらほざいた。
「じゃあ、歩きながら放送主に黙って放送を利用して勝手な賭けをしてた説教するからね」
「「……えっ?」」
その日の夜は、二人ともテンションはマントルまで減り込んでいた。
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