第16話 ジョシリョクエスト
放送日当日となった。今日のゲームで勝った方が、鈴之助の相棒……と、琴香は気合を入れる。
碧はあくまでも「いや私は裏方なので相棒ではないので」と、逃げられたが……由香は違う。自分こそクリエイター木村の相棒と言わんばかりだ。
そんなの……許さない。自分の方があの先輩のことが好きだ。……いや、まぁ好きとかじゃなくて長く付き合ってるし彼のことよく知っているし自分の方が相応しいと思うだけであって決して他意はないけど。
なんて思いながら、部活が終わった。とりあえず、早めに体育館を出て早足で栗枝家に向かっていると……校門前で待っている二人組が目に入った。
「あ……来た。お疲れ」
「おっそー。後輩の癖に」
中学の時から追いかけてきた憧れの先輩と、自分のライバルになりつつある先輩の二人だ。
温度差あることを言われ、しれっと目を逸らしながら答えた。
「別に待っててくれなんて言ってないっすけど? 栗枝先輩、お待たせしました」
「あからさまに差ぁつけんなし!」
「いや、同じように待ってて温度差ある挨拶したのそっちっしょ」
「おごっ……!」
「良いからお前ら早く行くぞ。いつもより30分遅く始めるっつってんだから」
急かされて、そのまま三人で栗枝家へ歩いた。
これから放送……だが、あまり緊張はない。もうアスリートとして何試合も経験しているから落ち着いていられる。
勿論、名前を言ったりするのは良くないとか、色々と気をつけなければならないところはあるけど、それはまぁ大丈夫だと思う。
「熊谷、お前大丈夫?」
「え、なにがっすか?」
「緊張とかしてない? 黒崎はもうガクブルも良いとこだったから」
「平気っす。こんな明るさとノリの良さだけが取り柄っぽい人と違うので」
「はー!?」
「何でお前らそんな仲悪いの? 猿と犬なの?」
何故って、そりゃ仲悪いからだ。そして、目の前の男をめぐるライバルだから。
すると、由香がキョトンとした様子で小首を傾げた。
「? 何で犬と猿?」
「栗枝先輩、犬猿の仲なんて難しい言葉、この人が知ってるわけないっすよ?」
「し、知ってるから! わざとボケたの!」
「ボケにしてはパンチが利いてない。その程度のボケを実況でやるなよボケ」
「ボケボケ言い過ぎだからあんた!」
お尻を蹴る由香だが、鈴之助はぬるりと躱す。その程度の攻撃、鈴之助には当たらない。この人は自分で攻撃を受けようと思わないと避けてしまう変態だ。
「先輩にそんな『犬がおしっこするポーズキック』は当たりませんよ?」
「人の攻撃にそんな下品な名前つけるなー! てか、あんたこそこいつに攻撃当てられんの!?」
ムッとした。これ……当てられなかったら、この女と同じと言うことになってしまうのだろうか? なんかそれは嫌だ。
「よーっし、先輩。歯を食いしばってください」
「良いけど、一発でも当てたらお前と二度とバスケしないから」
「ごめんなさい」
それは絶対に嫌だ。バスケが一緒に出来なくなるとか死ぬしかない。
「ああ、そうだ。そういやさ、熊谷の名前どうするか」
「え? あー……そういえば、決めてなかったっすね」
「モンキーゴリラで良いんじゃね?」
「ぶっ飛ばすぞあんた! 何そのバカ丸出しの名前!?」
「それで良いか? 熊谷」
「良いわけないっしょ! 真顔で確認しないで下さいよ!」
「体格的にはやっぱゴリラだよね。ゴリラ松本で良いんじゃね?」
「売ってるって事で良いんすね?」
「それで良いか? ゴリ谷」
「二人まとめて畳んでやろうか!」
なんだこの先輩たち。後輩をいじってそんなに楽しいだろうか?
ダメだ、自分から何か案を出さないと。
「ていうか、クリエイターにプレイヤーだから……カタカナのとこ、役割なんすよね?」
「ま、そう言われりゃそういうことになるな」
「じゃあ、アタシも何か役割じゃないとおかしいっすよね?」
「プレイヤーはダメ。うちのだから」
「あんたのしみったれた称号に興味ないんで」
「あんたは本当に腹立つ! 言い回しも何もかもが!」
そんな安直な名前は嫌だ。プレイヤー以外の名前……と、少し考え込む。と言っても、役職は中々、思い浮かばない。
「ゲストで良いんじゃね。だってお前、部活あるしそんなしょっちゅう来られないでしょ」
「それは……まぁ、そうですが……」
いや、だが今日相棒の座を奪取すれば、それもその限りではない。
けど……まぁ、今は確かに今後も手伝うと言う保証は無いため、とりあえずはゲストで良いのかもしれない。
「分かった。じゃあアタシはゲストで」
「よし、ゲスト花村で」
「……なんで花村?」
「今適当につけた」
「や、まぁ良いすけど」
鈴之助につけられた名前なら致し方ない。とりあえず、ゲスト花村で行こう。
「じゃあ、アタシはゲスト花村で。……間違えないで下さいよ、黒崎さん」
「なんでうちにだけ言うわけ!? ボロ出すの多いのは、むしろ栗枝の方っしょ!」
「それはそうっすけど」
「俺とも喧嘩したいの?」
マズイ、と思ったので黙る。でもホント少なくとも三人に正体バレたのは理解して欲しい。隠し事下手なんだから。
×××
碧は、基本的に何に対して臆病である。人に対しても、何か新しい事に対しても、自分が新しく所属するクラスに対しても。
だから、誘ってもらうまで何も出来ない人間だし、そんな自分を誘ってくれる人間もいなかったから、ずっと一人になっていた。
……でも、そんな自分に、好きだった配信者さんが声を掛けてくれた。だから……。
『どうもー、あー、あー。聞こえてますかー?』
『ますかー?』
『ロマンスカー?』
『え、何で急にロマンかどうか聞いたの?』
『お前ロマンスカー知らねーのかよ。逆に何なら知ってんの?』
……だから、ちょっと羨ましいと思った。こうして一緒に肩を並べて放送できる由香が。普段の様子と全く同じ様子だけど、それでもコメント欄は沸いていた。
リーサル・ウェポン『こんばんはー』
馬糞番長『ばんはー』
木の鉄鉱石『草壁ちゃんおる』
伊藤用の角『こんばんは。草壁ちゃんどうも』
ローマの元日『リア充爆発してどうぞ』
エリザベス島村『ロマンスカー知らんのかw』
まだ序盤だからか、割と見たことある名前が多かった。
そのまま放送は続く。まずは配信者らしく、視聴者への配慮だ。
『えっとー……音量は平気ですか? 今から翼を下さいワンコーラス、プレイヤー草壁さんが歌うんで、それでコメ下さい』
『えっ、ちょっ』
『はい、さんはい』
『ま、マジ!? えっと……い、いまー、私のー、ねがーいごとがー』
『声小さいって。もっと大きな声で歌え』
『かっ、かなーうーなーらばー! ……って、うちが大声出しても意味ないっしょ!?』
なんていじりが入りながら、何とか音量の調節を終えた。
『今日もゲームを作って参りましたので、見ていただきたいと思います』
『本日のゲームはどんなゲームですか?』
『今回は、対戦ゲームを持って参りました』
『へぇー対戦。初めてじゃないそれ?』
『まぁね。それで、前の配信から一ヶ月半以上も経過して申し訳ない』
本当に申し訳なさそうな声を出す。自分達にはそんな声滅多に出さないくせに。
そんな中、コメントが出て来る。
バッティラノサウルス『ゲームの制作者と対戦って100勝てなくね?』
そのコメントがたまたま見えたのか、すぐにクリエイター木村が答えた。
『あーそれね。もちろん俺も思ったよ。特にほら、プレイヤー草壁さんバカだし』
『それ関係ねーし!』
いや、ある。ロマンスカーも知らない人はちょっとマズい。それも、都内に住んでいて。
『と、いうわけでね、今日も俺のために協力してくれる後輩を連れて参りました。ぶっちゃけたこと言うと、対戦ゲーム作っちゃったから、俺以外の誰かとやらせた方が良いかなっていう、完全に放送の都合だけどね』
自分にも二人みたいな勇気があれば、そもそも琴香に力を借りることもなかったのだろうに……。
少しため息をつきながらも……いや、そのグループの一員である自分が試聴しながらテンションを下げてはダメだ、と思い直し、前を見る。
『じゃあ、ゲストの方に来ていただきましょう! どうぞ!』
『どうもー、ゲスト花村っすー』
意外と平熱な感じの挨拶だった。前も思ったが、知り合いの声しか聞こえない放送って新鮮だ。でも名前、ゲスト花村って言うんだ、と笑いが溢れそうになる。
close『また女の子?』
ダイナマイト山﨑『え、主モテんの? 爆ぜろ』
犬『俺たちにも分けてください』
との事で、まぁ割と言いたい放題に言われていたが、実際に一人からは明らかにモテているから間違いではない。
で、由香は由香で、多分「最初に一緒に放送したのは自分だから、放送の相棒は渡したくない」みたいになっているのか、割と取り合いになっているのでモテモテに見えなくもない。
『いや、俺別にモテてないから。どうせモテるなら、もう少し頭の良い子にモテたい』
『どういう意味だし!?』
『アタシはそこそこ成績良いんすけど!』
『そこそこ成績良いって言うのは、最低でも全科目90点は取ってくれないと言えないよ』
『『何言ってんの?』』
まったくだった。コメントも「なに抜かしてんの?」「それそこそこじゃねーから」「どんな感覚?」とドン引きで溢れている。
『じゃあそろそろ、対戦ゲームの発表をしていこうと思いますこちらになりますっどうぞ!』
お笑い芸人がMCをしているようなイントネーションで言いながら、ゲームの画面を映した。
そこに出て来たのは「ジョシリョクエスト」とカタカナで表記された画面だった。なぜか、草原が背景に見える。
『ジョシリョクエスト?』
『何これ?』
『まぁ単純に言うと、女子力を育成してしばき合いをするゲームな』
『女子力を何だと思ってんすか!?』
『良いんだよ。女子力も戦闘力も大差ないだろ。どっちもライバルに差をつけるためのもんだろ』
『その言い方は括りが広過ぎるっすよ!』
全くである。ライバルに差をつけようとするのは、その二つに限った話ではないだろうに……。
『で、まぁチュートリアルもあるけど、一応口頭でも説明します』
そう言いながら、タイトルの下のモードにカーソルを合わせる。一番上の「NEW GAME」からだ。
『まずはここ。これがストーリーモードです。新規ゲームで、ザックリ言うと女の子の女子力を育てる育成モードです』
『何言ってるか全然わかんないんすけど。何、女子力を育てるって』
『や、だから女子力を上げるんだよ。要するに自分磨きをして、好きな男を落とすストーリーモードね』
……ちょっと作った側、それもシナリオを担当した側としては気恥ずかしくなる。頬をぽりぽりとかきながら、1人で勝手に照れている間に、説明は続く。
『最後のデートパートは、ライバルと主人公と落とす対象の男、三人でデートする』
『超修羅場!?』
『そのデートこそが女子力のしばき合い。育成パートで身につけた技をライバルに叩きつけることで、男のHPゲージをより多く減らした方が、告白の際に選ばれると言うことになる』
『なんで女子力でヒットポイントが減るんすか!』
『ヒットポイントじゃなくて、ハートポイントでHPな』
『クソウ、言葉遊びだけ無駄に上手い男め……!』
ゲームの仕様書を見た碧も「上手いなそれは」と思った。ちなみに、胚葉をそれなりに知っているからか、プレイヤー草壁は何も言わずツッコミはずっとゲスト花村がしていた。
さて、説明しながら、そのすぐ下の「LODE」を飛ばして「VS」モードに移る。
『で、ストーリーが終わって育て切った女子は四人まで保存出来ます。その四人を二人まで選んで、デートパートだけ遊ぶ戦闘モードが、このVSモードになります』
『え? それすごくない? あんた作ったの?』
聞いたのはプレイヤー草壁。それは正直、碧もすごいと思った。ホント、一体何なら出来ないのか分からないまである。
コメントも「こいつ本当に高校生?」「野生のプロ」「ホントは雇ってるだろ誰か」とコメントが荒れる。
まぁそれはそうだろう。一応、作っているのはほとんど鈴之助一人なのだが、そんな話を視聴者が信じるかは別だ。
そんな中、一つのコメントがクリエイター木村の目に入った。
アブラジル人『一ヶ月でその規模のゲーム作ったのってあり得なくね?』
『あーそれはそうね。まぁ、ぶっちゃけ言うと、シナリオは俺の知り合い……あ、このバカ二人以外の』
『『誰がバカ?』』
『じゃあ……そうだな。仮に、ライター根本さんとしましょうか』
「ぶはっ! ぇほっ、げほっ……!」
吹き出して咳き込んでしまった。勝手に名前つけられた……というか、シナリオ書いているのバラされた。
でも……思ったより嫌じゃない。恥ずかしいけど……そんな風に名前を付けてもらえると、ちゃんと自分もチームメイトの一人として数えてもらえて少し嬉しい。
いや、少しじゃない。普通に嬉しい。さっきまで変に疎外感を覚えていたのがバカみたいに思えてくるほど。
「……ふふっ」
少し上機嫌になりながら、引き続き実況を見ることにした。そろそろ、自分が描いたシナリオの出番だから。
×××
「まぁそんなわけで、早速二人にはゲームをしてもらおうか。まずはキャラ作りからな」
「良いけど、時間かかるんじゃないの? シナリオ一本分でしょ?」
「大丈夫、そんな長いシナリオじゃないから」
由香は鈴之助と琴香と会話との会話を全国に放送していることに、今だに少し緊張している。
そういう意味だと、普通に話せている琴香が少し羨ましいのだが……今日の放送はどっちがクリエイター木村の相棒となるかを決める機会。負けられない。
そう強く奮い立たせて、ゲームを開始した。
「じゃあまずは……どっちからやる?」
「うち!」
「アタシ!」
「ちょっとプレイヤー草壁さんの方が早かったかな」
「よっしゃ!」
「えー、そこは後輩に譲りましょうよー」
「大丈夫、ゲスト花村さん。公平を喫して、お互いに育成中の様子は見せないから」
「「えっ」」
いや、まぁ確かにそれはそうしないといけないかもしれないが。鈴之助は説明を二度することになるけれど、後に育成する方が有利になるのは確実だ。
どんな育成をしたのか、見ながら自分も育成できるのだから。
とはいえ……ゲームにそこまで精通しているわけでもないので、あまり意味ない気はするが。
「じゃあ、ゲスト花村さん。下で妹と遊んでてあげて」
「へいへーい」
そのままゲスト花村が下に行く様子を眺めつつ、プレイヤー草壁はNEW GAMEを選択する。
直後、まず表示されたのは真っ暗な画面とモノローグだった。
【誰かが言った。「え、性格? 良い人間なんていないでしょ。基本、みんな自分勝手だし」と。】
思わず半眼になる。何だこのクズの名言。ちなみに、声優はやはり鈴之助である。
【誰かが言った。「ていうか、そっちだってイケメン以外じゃ学歴と収入にしか興味ないっしょ?」と。】
誰かが、と言うかお前さっきの奴と同一人物だろ、と思いつつも、このモノローグは自動で流れてしまうので、黙っている。音が聞こえなくなったら最悪だ。
【そう、世の中の恋愛事情はまさにバブル。男子も女子も度量や器量という懐ではなく、収入や資格、外見に肉体といった装備にのみ目を向けられる時代。ならば……女は鍛え抜いた女子力のみで男のHEART POINTを破壊し、自らのものにする重装甲戦車! 世はまさに、大女子力時代!】
「何、大女子力時代って! あんた恋愛を何だと思ってんの!?」
「今の恋愛はこんな感じだろ知らんけど」
「だからあんたはイケメンなのに彼女いないの!」
「お前が言うな」
「はぁ!? ……え、それどういう意味?」
「? 外見は可愛いって意味だけど?」
「っ、い、いきなりなんだし! 少しは照れながら言えってーの!」
なんでこっちばっか照れさせられなきゃいけないのか……というか、コメントもなんか荒れている。
ストンピング石崎『イチャつくな』
バッティラノサウルス『他所でやれ』
アタランテ『もしや二人は?』
渋柿『晩飯食ってくる』
「コメント! イチャついてないし!」
「あ、草壁さん。今日泊まっていくっしょ? スウェット出そうか?」
「あんたも適当なこと言ってんなし!」
こいつの悪ノリタチ悪い! とキレかけた時だ。ドゴッと扉をブン殴る音がした。マイクにまで届いていたのか「え、何の音?」「爆発?」などとコメントが溢れる。
……いや、分かる。これは花村さんの一撃だ。そういえば、あの子はどう見たって鈴之助のことが好きだし、今のジョークはタチが悪かったのかもしれない。
とにかく、誤魔化そうと声をかけた。
「ほら、いいからゲーム!」
「いやコントローラ握ってんのお前」
「わ、わかってる!」
さて、引き続きゲーム再開。まずは名前を決めるところから。
「とりあえず……草壁で良いかな?」
「名前、6文字で漢字無理だからギリ入るよ」
「なんでそこだけレトロゲーム方式なの……」
話しながら、とりあえずゲームを進める。とりあえずクサカベに名前を決めて、ストーリーが始まった。
【好きな男子を選んでください。】
表示されたのは三人の男の子。まずは、爽やかイケメンの「澤田イケ男」。甘栗色の茶髪を靡かせ、どこかの王子様かと思うほど綺麗な瞳をした高校生で、探偵王子とか言われていそうな見た目だ。
で、二人目の男子はベクトルが違い、シュッとしたクール系の「来栖イケ太」。目つきは悪く口も悪そうな印象を受けるが、それ故にシンプルにかっこいい感じ。金髪なのに派手さを感じさせない髪型が素晴らしい。
そして最後が、いわゆるショタ系で可愛い感じの「小田イケ郎」。黒い綺麗な髪はショートにまとまっているが、前髪が長くて片目しか見えていない。その片目のつぶらさはあまりにキラキラしていて、吸い込まれそうなほどに綺麗だ。
「……なんで全部、名前に『イケ』がついてんの?」
「イケメンだから」
「ネーミングセンス!」
「良いんだよ、わかりやすいから。良いから選べ」
コメントも割と「こいつら兄弟だろ」「世は大イケメン時代」みたいな感想が漏れているが、何一つ気にした様子を見せないクリエイター木村。
そのまま自分もとりあえずメンバーを眺めた。自分が男の子を選ぶなら……やはり、ノリが良い子が良い。
この中で一番、ノリが良さそうなのは……やはり、正統派イケメンだろう。
「じゃあ、うちはこの澤田くんにしようかな」
「はいはい、爽やか澤田くんね」
「そんな適当なネーミングでつけたんかあんたは!?」
さて、シナリオを選択し、いよいよ女子力上げ開始。
まず始まったのは、チャイムの音だった。
『キンコンカンコンキンコンカンコーン』
「……いやチャイムの音もあんたの声!? リズムめっちゃ速いし!」
「時間の都合で間に合わなさそうなとこは俺の声でCV入れてる」
「えー……手抜きなのかそうでもないのかわかんないんだけど……」
まぁ、どっちでも良いが。
ストーリーは少しずつ先へ進んでいく。まずは主人公の女子……即ち、クサカベのモノローグから。
【んー、五限目終わったー。あとはLHRだけだから、楽で良いなー。】
「あー分かるわ。LHRラストって実質五限までだよね」
「馬鹿野郎、あれは学校が用意してくれているイベントをクラスみんなで思い出にするための会議という大切な時間なんだぞ。その時間を大切にしない奴に限って当日の予定に文句垂れて『学校のイベントってクソだな』とかほざくんだ。もっと大切にしろ時間を」
「あんただって毎回寝てるじゃん! 何で思ってもないことにそこまで口を回してものが言えるわけ!?」
なんて言うか、本当にこの男の口は人を腹立たせるためにあるようなものだ。言うこと言うこと全て腹が立つ。
とりあえず、話を進めた。
【今日は何の話だろう。進路相談とかはやめて欲しいなー。面倒だし。】
「分かるわー。進路についての決め方みたいなLHRはホント嫌だわー」
「うん。それを嫌って言ってるうちはお前の成績も一生上がらないよ」
「そ、それとこれとは話が別だし!」
「? 目標がないのに勉強嫌いが勉強する気になるわけがないじゃん?」
そのセリフに「確かに」「もっともだ」「だから俺も成績上がらないのか」と賛同されまくっている。たまに的を射ているようなことを言うから尚更、腹立たしい。
さて、それ以上その話題に食いつかれる前にさっさと次へ移った。
【……あっ、先生来た。】
そう言う通り、先生が映される。黒い髪でボサボサでサングラスで……なんか教員感ない人だ。名前は、千世先生となっている。
「や、だから名前!」
「一々、茶々入れんな」
「茶々入れざるを得ないゲームにしてんのそっちじゃん!」
どうでも良いところでくだらないマネを何度も繰り返してくれるものだ。めっちゃ長いこと続いていそうな一家の苗字だ。
【うーし、全員いるなー。今日は、修学旅行の班決めすんぞー。】
なるほど、と理解。それでLHRにしたらしい。そのままボタンを押した。ちなみに、普通にCVクリエイター木村である。
【班決め! 楽しみだなー。勿論、私が同じ班になりたい男子は一人……澤田イケ男くんだ。その人と同じ班に、なれると良いなー。】
「思ったんだけど、何で主人公だけCVないの? 流石に女の子の声は無理なん?」
「いや、だって主人公はお前じゃん。お前が声出せよ」
「えっ」
こ、この素直過ぎてこっちが恥ずかしくなるキャラを……自分が? と、冷や汗をかくまである。
いや、しかしそれがやはり実況のためになるならやるしかない。
コホン、と咳払いし、少し高い声を出して言ってみた。
「班決め! 楽しみだなぁ〜。勿論、私が同じ班になりたい男子は一人……澤田イケ男くんだゾ☆ その人と同じ班に、なれると良いなー! きゃはっ☆」
「良いよ良いよ、お前が思うクサカベを演じてくれればそれで良いよ」
「……」
それを言われると途端に恥ずかしくなる。頭の中でどんなクサカベを思い浮かべていたわけでもないことがバレた気がして。
「ごめん、やり直しさせて」
「いやいいから先進んで」
「……うん」
そのままボタンを押した。
物語はさくさく進み、すぐに決定した班員が表示された。
【人数の都合上、私達の班員は三人だった。そして……そのメンバーは。】
【俺、澤田イケ男。二人ともよろしくな。】
【ラッキー、澤田くんと一緒! なんて浮かれている場合でもなかった。……何故なら。】
ライバルの女子の登場だろうか? 少しワクワクしながら待機していると、新たな声が割って入ってきた。
【ウチ、来馬瑠璃子、よろしくー☆】
「ブッファ!」
声を聞いて思わず吹き出してしまった。なんでって、この声……。
「あっはっはっ! こっ、この声っ……ライダンベル!?」
笑いながら口走った直後、真横から口を塞がれて思わず後ろにひっくり返る。
何で笑ったかと言えば、CVがライター根本さん……つまり、碧の声だったからだ。
あの子が声優としても参加してる……そんなの笑うしかないのに、何で隣の男は止めるのか?
その問いには、筆談で答えてくれた。
『本人に口止めされてるから、オレの声ってことにしろ』
との事だ。それなら先に言えや、と思わないでもないけど、リアクションが欲しかったのだろう、と納得して無言で頷く。
で、改めて話を続けた。
「そんな笑うなよ。俺だって女の声くらい出せるから」
「あんたの声かい!」
「出そうか?」
「気持ち悪いからやめて!」
そのまま話を続ける。ボタンを押すと、新たなモノローグが出てきたので、プレイヤー草壁は読み上げた。
「えー【よし……決めた。二週間後の修学旅行までに……女子力を上げて、来馬さんに負けないで澤田くんに告白してやる!】」
「と、言うわけでこの子の二週間が始まります」
「あー、なるほどねー」
さて、そのままさらにボタンを押すと、翌日の朝になった。
おそらくクサカベの部屋の中が表示されている。そして右下に「トレーニング」左下に「装備購入」右上に日付と時間を表す「昼」の文字、左上には「メニュー」があった。
画面一番下には「キュート」「クール」「パッション」の文字とそれぞれに10と書かれていて、その隣に「技リスト」があった。
そして、続けて出てくるチュートリアル。
【修学旅行までに、可能な限り女子力をあげよう。トレーニングでキュート、クール、パッションのどれかを選択出来ます。もしくは、買い物で装備品を購入することであげる事も可能です。】
「装備って何?」
「化粧とか服とか」
「装備って言うなそれを!」
【女子力が一定まで上がることで、女子技を得ることも出来ます。得られる技は属性によって違うので、頑張って育成してみましょう。】
まぁ、話はわかった。女子技が何なのか気になるが、要するに澤田のHPにダメージを与えることだろう。
「とりあえずトレーニングやってみて」
「あー、うん」
言われるがままトレーニングのボタンを押す。選べる三種類の中から一つ選択するらしい。
「どれ選べば良いの?」
「好きなので良いよ」
「うーん……」
じゃあ……やはり女子力だし、キュートだろうか? 一番上にあるキュートトレーニングを選択してみると、何やら化粧の研究をしはじめた。先生にギリギリバレるかバレないかの、薄い化粧。これなら学校でも出来る。
その後、メッセージが出た。
【キュートが10上がった!】
【営業スマイルを覚えた!】
「……何営業スマイルって」
「キュート属性の基本技。キュート20以上で覚えられる奴」
続いて解説が出る。
【営業スマイル。自身のキュート力1.5倍のキュートダメージを与える。】
「あーなるほどね」
「こう言う感じで技を増やしていく感じ。基本的にはキュートならキュート一本だけど、クールと並行して育てることでキュート属性とクール属性の複合技も覚えられるから」
「聞けば聞くほど恋愛ゲームな感じがしなくなっていく」
でも……ちょっと面白い。要するに育成して男を奪うゲームというわけだ。ある意味では、自分とあの生意気な後輩と同じ状態ということだ。
ならば……自分も全力で女子力高い子を作らせてもらおう。
そう決めて、指を鳴らした、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます