第15話 文章は経験から作られる。

 碧は、悩んでいた。

 家では割とズボラな性格なので、暖かい季節になってきた事から、寝る時の下半身はパンツ一枚のままだ。

 そして、その格好のままパソコンに向かいながら、自室で頭を抱えている。

 シナリオを考えろ、と言われたからだ。シングルプレイ用のシナリオを。

 これが中々、難しい。恋愛経験があまりにもなさすぎるから。

 漫画や本ではたくさん見てきたが、ちょっとそれしか経験がないのでは簡単にはいかないのだ。

 その上、前のゲームでは鈴之助なりに何かしらメッセージを残していることもわかった。前回は、確かながらスマホみたいに視界を塞ぎながら歩くのはやめろ、と言うものだった。

 おそらく、今回のゲームにも何かしらメッセージがあるはず……と、考え込んでしまう。

 で、しまいには……最後の最後にはどのシナリオにも同じメッセージが流れるらしい。それはシナリオを書く上で大きな影響があるわけではないが、どのシナリオでも同じ結末になるため、モチベーションが上がりづらい。


「はぁ……」


 もうあまり時間がないのに……と、思いながらため息が漏れる。

 鈴之助は「金を出すわけでも別のとこから金をもらってるわけでもないんだから、素人臭くて良いよ」とは言ってくれたが……やはり、そう言われても気負ってしまう。せめて起承転結くらいは何とかしないと。

 とりあえず……攻略対象の男の子の設定からだが……鈴之助が言うには「あんまり凝らなくて良い。所詮女子力の高さで女を好きになるキャバクラに通ってそうな男だから」とのことだ。

 ゲームのコンセプト的に仕方ないとはいえ、あまりに毒舌で引いた。

 逆に言えば、そこまで魅力がない男なら、顔の良さだけは絶対条件。

 あとは、タイプだが……まぁ、順当に考えると、スポーツマン、優等生、ショタ系だろうか? まぁ外見を考えるのは自分ではなく鈴之助なのだが。

 文章で箇条書きにしてプロフィールを作る必要があるが……。


「まずは一人目考えなきゃ……」


 シナリオは、攻略対象のキャラクターによって変化するようになっているため、後はそのキャラクターがどう動くのか想定できなくてはならない。

 でも……キャラが薄い男の子を考えるとなると、それも難しい。何せ、普通の行動しかしないだろうから。

 そして、その普通の行動は分からない。普通の男の子の友達なんていた事ないから。


「あーもー、どうしよう〜……」


 頭を抱えて悩んでいると、スマホが震える。鈴之助から電話だ。

 やばっ……と、冷や汗をかく。まだ一ミリも進んでいないことがバレる。

 でも、出ないわけにもいかないので、応答した。


「は、はい……」

『もしもし、おはよう』

「お、おはようございます……」

『今、大丈夫?』

「は、はい……」

『シナリオ出来た?』


 早速! と、冷や汗をかく。まだ全然、何もできていないのに。


「あ、そ、その……もう少し! もう少しで……!」

『うん分かった。じゃあデートしよう』

「……えっ、あ、はい」


 一瞬戸惑ったけど、まぁこの前と同じだろう。資料集め。


「分かりましたけど……でも、あまり進んでいないのですが……」

『今日は秋葉原行こうと思ってたんだけどなー』

「行きます!」


 それならオタクとして見過ごせない。割と男の人と一緒じゃないと入りづらい店もあるから行きたいと思っていた。


『じゃ、30分後に学校の最寄りで』

「あ、は、はい」

『一応、メモ帳持ってきてね』


 つまり、取材込みと言う事だろう。デートと銘打ったのなら、せめて少しは隠してよ……と思わないでもないが、本当にデートでも困るのも確かである。


「分かりました」


 返事をしながら、とりあえず席から立とうとした時だ。小学生の頃から変えていないキャスター付きの椅子の足を踏ん付けてしまった。


「きゃっ……!」


 後ろに大きくすっ転んでしまう。足を掬われて後ろにひっくり返るも、膝を机に強打し、椅子は後ろに転がっていき、お尻を床に強打する。


「痛た……」

『転んだんか。大丈夫?』

「す、すみませっ……ご心配を……」

『家でも鈍臭いんだな』

「う、うるさいです!」


 大丈夫? までで止めてくれれば良いのに、本当に余計な言葉を付け加える人だ。


『ところでさ、半田先輩』

「な、なんですか……?」

『まだその格好で過ごすには早い時期だと思うよ』

「え?」


 というか、スマホどこだろ、と思いながら周囲を見渡すと……自分の足の間に落ちていた。それも……スピーカーモードと、ビデオ通話モードがオンになった状態で。間違って押してしまったみたいだ。

 つまり……今、鈴之助は目の前で自分のパンツを間近になって見ているわけで……。

 自覚すると、頭がクラクラするほど真っ赤に染まってしまう。


「っ〜〜〜! き、きゃあああああ!」

『悲鳴の前に電話切れよ』

「も、もう! えっち!」

『本当のえっちなら何も言わずに見学を続けてるから』

「う、うるさいです!」

『じゃ、また後でな』

「も、もー!」


 そのまま通話を切ったが……なんか行きづらくなってしまった。これからパンツを見た人と顔合わせるのか……いや、鈴之助はそんなの気にしないだろうけど……ん? それ気にされないならされないでムカつく? と、情緒が不安定になっていく。

 とりあえず、もう二度とパンツのまま電話には出ないと心に誓った。


 ×××


 秋葉原……そこは、サブカルの聖地。それはもう駅どころか電車から降りるだけでそれは漂ってくる。何せ、アニメの広告ばかりだからだ。もしくは新作ラノベとか漫画。

 その上、窓から見える景色はデカデカと張られたゲームのポスターばかり。

 そんなオタク丸出しの景色を見るたびに、オタクの碧は瞳を輝かせるしかなかった。


「ほあぁぁ……き、来ちゃったぁ……!」

「いやそんな滅多に来れない距離じゃないでしょ」

「で、でもやっぱり来るとテンションが上がってしまって……で、来たからにはお金使わなきゃなって……」

「何その使命感。秋葉原でお参りするとこ多分ないよ?」

「しません!」


 相変わらず斜め上の返しをしてくる人だ。この人は他人を全てバカだと思っているのだろうか?


「と、とにかく……参りましょう」

「あー待った。悪いんだけど、先に行くとこ決まってるから、ついてきてくれる?」

「あ……は、はい」


 まぁ、このデートはデートじゃないことは普通に理解しているし構わない。

 さて、そのまま二人で駅を出て、外を見る。直後、鈴之助は顔を顰めた。


「……渋谷とか新宿にも言える事なんだけどさぁ……なんで臭いんだろうな、人がいるとこって」

「さ、さぁ……」


 それはちょっと分かる。なんか変な臭いがする。尤も、碧は勇気がなくて渋谷と新宿には行ったことがなく、共感出来るのは秋葉原だけなのだが。


「さっさと買うもの買って帰るか」

「えっ、いやせっかく来たんですし……少しは楽しんでも良いんじゃ……」

「や、そっちが割と行きたいとこあるなら行くけど」

「そ、そうですか……」


 なら良かった……もしかして、なるべくなら来たくないと思っていると思われていたのだろうか?

 でも、せっかくの秋葉原だから行きたい店はある。


「ちなみにだけど、どんな店見たいん?」

「わ、私はー……そうですね。やはり、同人誌とゲームを見られれば……」

「エロ同人とエロゲ?」

「はい! いいえ?」

「18歳ですもんね、今年で」

「い、いいえって言ってるでしょ!」


 この男は本当にこの男は! と怒るが、お構いなしに歩き始めてしまう。


「あの、逆に栗枝くんは何を買いに来られたのですか?」

「ギャルゲー」

「一緒じゃないですか!」

「いや別に一緒でも良いでしょ……あ、R18ではないよ?」

「それはそうでしょうけども……!」


 しかし……やはり、困る。というか、エロゲーを買うとこを男の子と一緒に行くって……と今更気になったりもしたが……ま、鈴之助だし良いか、と思うことにした。

 それよりも、まずは鈴之助の買い物だ。ギャルゲー……とのことだが、どんなものを望んでいるのか?


「ま、まずは……どちらのお店に行かれますか?」

「ちょーっと待って。店の場所調べてる」

「あ、お店の名前さえ教えていただければ……私、案内できますけど……」

「ホント? じゃあよろしく」

「あ……は、はい! お任せ下さい……!」


 頼られた、と少し嬉しくなる。いつも上から目線の生意気な年下から。今まで「図書委員変わって」以外に頼られた事がない碧は、思わず頬が赤く染まる。


「では……こちらです……!」

「どうもー」


 二人でそのまま歩き始めた。並んで歩きながら……せっかくなので、シナリオのことを相談することにした。


「あの……栗枝くん」

「何?」

「シナリオの件なのですが……」

「ああ……出来た?」

「あ、い、いえその……男の子のキャラクターのことで、悩んでて……」

「あそう。現段階でプロフィールとかあんの?」

「は、はい……」

「じゃあそれで良いんじゃね?」

「え……あ、あの……」

「あ、見てあれ。なんかめっちゃデカいフィギュアがある」


 話を逸らされてしまった。……というより、なんかあんまり興味なさそう? と小首を傾げる。誰のお手伝いをしていると思っているのか。

 まぁ後で良いか……と、思いながら顔を向けると、そこにあったのは本当にデカい箱のフィギュアだ。


「す、すごいですね……でも、5万円……」

「俺これ絶対買えないわ〜。まぁそもそもフィギュアの良さが分からんけど」

「ふ、フィギュアは結構、その……良いものですよ? 造形にすることで、そのキャラクターがどのようにして物語の関門を乗り越えていくか、変わった形で実感出来るので……」

「へー」

「……」


 あまりに興味なさそうな返事だった。もしかして……今日、あまり機嫌が良くないのだろうか? こっちはフィギュアの話題に頑張って乗ったと言うのに。

 そんな中、ふとゲーセンの前に通り掛かった。視界に入ったのは、好きなアニメのフィギュア。そういえば、今日からプライズになるんだった。

 とはいえ……なんか機嫌悪そうだし、あまり今日は自分の希望は表に出さないほうが良いのかも……なんて思っている時だ。


「ゲーセン寄ってかない?」

「えっ?」

「なんか取ってやるよ」

「あ、ど、どうも……」


 やるよって……と、思いつつも、中に入った。でも、もしかしたらフィギュアに目を移したのを察してくれたのかもしれない。

 ……と、思ったのだが。サクサクとフィギュアコーナーを抜けて奥へ進んでしまった。


「あ、あれ……?」


 フィギュアじゃないの? と、思ったが、そのままサクサクとクレーンゲームコーナーの奥に到着した。

 すると、鈴之助はぬいぐるみのクレーンを見つけた。


「あ、これ最近流行ってるスマホゲーのモンスターじゃん」

「そうなんですか? か、可愛いですね……」


 でも、自分がやっていないスマホゲーのキャラに興味はない。見た目は良いけど、欲しいかと言われると微妙だ。


「よっしゃ、これ取ってやる」

「えっ」


 逆張りしてんの? と思いたくなるほどいらない。


「あ、あの……別にこれは私……」

「大丈夫だって。俺、クレーン得意だから」

「そういう問題では……」


 だが、聞く耳を持たない。確かに華麗な手つきと計算された動きで景品は500円で獲得してくれたが……これ、どうしたら良いのか。


「ほれ、あげる」

「あ……ど、どうも……」

「うし、じゃあ行くか」


 結局、フィギュアは見られなかった。


 ×××


 お目当ての商品を買えたので、少し休憩……と、近くのファストフード店に入った。


「はい、お待たせ」

「あ、ありがとうございます……スミマセン、ご馳走になってしまって」

「いや、俺から誘ったから」


 それは……まぁそうかもしれない。まだ一時間も秋葉原にいないが、ちょっと疲れた。あまり楽しくなかったからだろうか?

 話にしてもこちらの話には乗ってくれない癖に自分はよく喋るし……相手に合わせるのに気疲れした。

 こんな事なら……家で原稿してた方が良かった気もするな……なんて少し思ってしまう。


「で、半田先輩」

「はい?」

「どうだった、今日のデート」

「え?」


 何だろう、改まって……と、少し冷や汗。流石に本人を前にしては言いづらいので、苦笑いを浮かべながら目を逸らして告げた。


「た、楽しかったですよ……? 栗枝くん、クレーンお上手なんですね」

「えー、楽しかったの?」

「えっ?」


 楽しむ為、ではなかったのだろうけど……正直に言ってしまって良いのだろうか? 酷く退屈だったのだが……。


「ホントは退屈だったでしょ」

「うえっ?」


 エスパー? と思うようなタイミングだ。そんな事ないです、という言葉が出る前に、さらに続けて言われた。


「何処が退屈だったのか、それを言って。そこが聞きたい」

「え、ええ……?」


 どういうことなの……いや、これもしかして……と、理解した。


「……これもゲームに関する事……ということですか?」

「そう」


 よくわからないけど……つまらないデートをさせるつもりなのだろうか?

 まぁ、何にしても言うことにした。


「あまり、私の話を聞いてくれなかった点、でしょうか……? そちらの話に私が乗らないと、会話が続かなくて……」

「他」

「ゲームセンターも……私が欲しかったのはフィギュアなのに、なんだかよくわからないぬいぐるみを取られても……いえ、気持ちはありがたいのですが」

「他はある?」

「え? ほ、他……あ、細かいところで上から目線な言葉選びが気にかかりましたが……」

「ん、まぁそんなとこか。で、それはどんな奴?」

「……自己中心的、と言う事でしょうか?」

「そゆこと。それが、顔が良いだけの受け身で面食いな男の特徴」


 そこまで言われて、思わずハッとしてしまった。もしかして……電話した時点で、碧が悩んでいたことに気が付いていたのだろうか?

 悩みの内容まで何となく察して、こんな風にヒントを……? 完全に乗せられていた……と恥ずかしくなるのと同時に、確かにそういう男か、としっくり来るイメージが湧いてくる。


「ほら、早くメモしな。忘れちゃうよ」

「も、もう……ほんと、やり方が何から何まで意地悪なんですから……」


 ……でも、乗せられていたのはやっぱり悔しい。というか、そもそも自分勝手な男の演技うますぎないだろうか? この男の弱点はいまだに不明だ。

 とにかく、言われた通りメモを取ってから、ようやく食事に手をつける。


「にしても、悪かったな」

「え?」

「結構、不愉快だったでしょ。好きでもない男にあんな態度取られたら、普通は近寄ってこなくなる」

「い、いえ……演技だと知って少しホッとはしましたけど……でも、割と普段も大差ないので……それは、別に」

「えっ」


 自己中ではないかもしれないが、身勝手は身勝手である。やりたい放題過ぎて言いたい放題過ぎてるのがこの男だし、今更感はある。


「それで……この後はどうしましょうか?」

「引き続き見て回ろうよ。先に茶番に付き合ってもらっちゃったし、今度は俺が付き合うよ」

「ありがとうございます」


 呑気に話をしながら、二人で秋葉原の街を見て回った。

 何となく、見えてきた。それと同時におそらくだけど理解した。今回のゲームのテーマ。

 ならば、それをも組み込めると良いかも……と、思いながら、デートを続けた。


 ×××


 翌日、鈴之助は暇そうに欠伸をする。基本的に、学校にいる間は退屈だ。なんでって友達がいないからだ。

 パソコンはないし、ゲーム作れないし、今更新しい発見なんかないと思っていた。

 しかし、そんなことはなかった。今は、人間観察に忙しい。シナリオを書く必要があるからだ。

 男子でも女子でも、今回は可能な限りリアリティあるセリフを使いたいから、色んな連中の会話に耳を傾けていた。

 ……訂正、傾けたかった。だが、やはり思い通りにいかないのが現実であって。


「栗枝、喉乾いてない?」

「ない」

「先輩、肩凝ってないっすか?」

「ない」

「栗枝、お腹空いてない?」

「ない。お前は食うことばっかか」

「先輩、ムラムラしてないすか?」

「ない。ブッ殺すぞ」


 なんかうるさいのが2人、猛プッシュしてきていた。鬱陶しいにも程があるレベルだ。お陰で周囲の人の声が聞こえない。


「……なぁ、お前ら何をそんな媚売ってきてんの? 授業の課題は写させないよ?」

「ち、違うもん今日は!」

「アタシは学年も違いますし!」

「じゃあ帰ってくれない?」


 なんか不気味なほどだ。何にしてもやめて欲しい。由香の後ろではお友達の優奈が眉毛を富士山みたいにして睨まれており、琴香に至っては元々後輩なので「こいつどんな関係?」と他の男子から見られている。


「……はぁ、めんどくせーな。てか、何をそんなに争ってんのさ君らは?」

「「あんたの相棒」」

「よく分かんないけど、俺の相棒ならまず面白くなる努力をしてきなさい。そんなわけで、今から一発芸大会を開催します」

「「は? 調子乗んな」」

「……」


 こいつらの沸点がわからなかった。これキレられるのは自分なのだろうか? 絶対違うと思う。

 まぁ何を競い合っているのか、なんてこの前の流れ的に大体想像つくが……そういうタイトルがあった方が実況は面白くなりそうだ。終わるまで黙っていよう。

 とりあえず、今は鬱陶しいだけなので逃げようかな、と思っている時だ。


「あ、あのぅ……栗枝くん……?」

「あ、半田先輩」


 非常にちょうど良い。何の用事か知らないが、逃げ道に使わせてもらおう……と、思ったのだが。

 その前に、碧が頭を下げながら、ピンクの便箋を差し出してきた。ハートのシールが貼られていて、如何にもラブレターっぽいものだ。


「え、何それ」

「わ……私の熱い気持ちをぶつけました。良かったら、その……よろしくお願いします!」

「うん分かった。お前ちょっと来い」


 なんか競い合っている女達の間に割り込んで、男は一番アホな女を連れて逃げた。


 ×××


「あ、あの……栗枝くん? もしかして、怒ってます……?」

「怒ってねーよ」


 ちょっと困らされただけだから。……いや、強いて言うなら、少し自分にムカついている。今思えば割と面白いことになっていたのだし、逃げずに少し言い訳してみればよかった。


「で、何の用?」

「あ……は、はい。こちらです」


 差し出されたのはさっきの便箋。そういえば出してたな、と思った。


「あの、如何でしたか……? 女子力を演出して、このような形にしてみたのですが……」

「今時の女子力はラブレターなんか書かない」

「えっ」


 ま、中身はおそらく原稿だと思う。わざわざ、こうして持って来て、ついでに自分なりに女子力について考えた……と言ったところか。

 とりあえず、中身を見る。少しずつ読み進めていく……と言っても、自分は小説家でも漫画家でもないし、ゲームだってがっつりストーリーが入り込むものは今回が初めてだ。

 つまり……まぁ、攻略対象の男の子のキャラが薄ければ何でも良い。

 そもそも、あくまでも女子力で得た技で相手と競い合うゲームだから、ホントに中身は薄いシナリオで良いのだ。


「ん……うん。良いんじゃない?」

「ほ、ほんとですか!?」

「うん。金を出せば優しいと思ってるとことか、よく出てる」

「こ、今回のゲームのテーマは……男子でも女子でも、見てくれより中身ということでしょう?」

「……」


 碧らしからぬ鋭いセリフ……というか、そもそもテーマを付けている事に気が付いていたとは驚いた。


「まぁ、そうね」


 ……ホントを言うと「どんなゲームを作るか」を決めてから「そういやこういうやつウゼーよな」と思ってそれをテーマにみたいにしているから、そんなに熱い気持ちをぶつけたとかではないのだが……。

 でも、そう言うのに気づいてくれるのは思ったより嬉しい。


「ふふ、当たりで良かったです」

「はいはい……ま、とにかく、ありがとう。助かったよ」

「はい♪」

「なんか……半田先輩が一番、相棒って感じすんなぁ」

「ありがとうございます」


 いつになく楽しそうに返事をくれてから、そのまま二人で教室に戻ろう……と、したのだが。その前に、バカ二人が立ち塞がった。


「へー、半田先輩が相棒」

「ふーん、その先輩が相棒」

「ひぃっ……!?」

「じゃあ相棒候補で話し合ってきめてくれ」

「待って下さいよ逃げな……あれ、もういない!?」


 面倒なことになりそうだったので、碧を置いて逃げた。


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