第14話 ライバルの前だとバカになるのがライバルという生き物。

 放課後……といっても、部活の後なので18時過ぎごろだから、あまりデートの時間はない。

 ……それでも、だ。琴香は入念に部活後にシャワーを浴び、髪型をセットした。

 正直、自分でもどうして鈴之助なんかとのデートにソワソワしているのか分からなかった。

 だって、一緒にバスケしたりするのだってデートなのだろうし、今更取り繕ってデートなんて言葉を使って意味ないだろうに……。

 けど、それもついさっき自覚されてしまった。でも自覚したくなかった。

 もしかしたら……自分はずっと前からあの男のことが好きだったのかもしれな……。


「ちっがああああう! 何考えてんのアタシ!?」


 絶対にそんなはずない。あんな勝手で無神経で傍若無人な男、好きになるはずがない。

 とにかく認めない。なんか……あれを好きになる女どもと同じに思われるとか、プライドが許さなかった。


「……そう、デートじゃなくて、ちょっと一緒にご飯食べるだけ……!」


 そう、デートじゃない。あの男の言動や表現に一々、引っ張られていたらバカを見るのは分かっている。

 中学の時だって、デートと言われて何回バスケグッズの買い物に付き合わされたり、全く意識した様子なく間接キスとかしょっちゅうだった。気にしてはいけない。

 そう思いながら……学校から出て公園のトイレに入って私服に着替え、制服を鞄の中にしまってから待ち合わせ場所に向かった。


「先輩ー! お待たせしましたー!」

「ん、お……え、お前一旦帰ったの? なんで着替えてんの?」

「帰りました! 制服のJKと一緒って事で、先輩が犯罪者と間違われないように!」

「間違われるわけないでしょ、100パー」

「……そっすね」


 何せ、鈴之助は制服のままだから。この人、デートとか言った割にその辺ルーズにしてやがる。


「これなら、むしろ捕まるのお前じゃね」

「そ、そんなことないっすよ! アタシ先輩より年下っすよ?」

「どうでも良いから早く行こう」

「……」


 この野郎本当にマイペースだなちくしょうめ、と思いながら、先を進む鈴之助の横に向かった。

 まぁ、デートと言っても普通にケーキとかパフェをご馳走になるだけだ。

 だから、あんまりデート感はないのかも……なんて、少し自分を落ち着かせながら歩いていると、鈴之助がふと足を止めた。


「あ、そうだ。熊谷」

「? なんすか?」

「そのカーディガン、去年は着てなかったよな?」

「……ーっ!」


 こ、この……あざとく女の細かい変化に気がつく辺り……そして、それをいちいち口に出して言う辺り……ホントにこいつ……と、顔が真っ赤に染まる。


「背伸びし過ぎじゃね? もう少し年相応のもの着た方が良いよ。着られてるみたい」

「るっさいわバアアアアカ!」


 なんで正直に言ってしまうのか。自覚があることを言ってくるあたりが異常に腹立つ。

 しかも、怒らせておきながら平気な顔で話題を変えてきた。


「で、ケーキで良いのか?」

「一個で済むと思わないでくださいね!?」

「へいへい」


 なんて話しながら二人でカフェに入った。席に案内してもらい、そこで改めて聞いてみる。


「そういえば、何で急にデートなんすか?」

「え? あ、あー……まぁ、ノリ? 最近、色々あってお前とあんまそういうのしてなかったし、何となく」


 それは……先輩は、自分と定期的に一緒に出掛けたい、と言っているのだろうか? ……いや、そんなわけがない。

 ……というか、なんか今ので色々察した。別にデートに誘ったわけじゃないのだろう。


「……先輩、そろそろ何企んでるのか教えてくれませんか」

「は?」

「らしくないっしょ。デートに誘うとか」

「そうか? 結構、誘ってなかった?」

「デートに誘ってホントにデートっぽいことするとか」

「今のとこ、カフェに入ってまだ何も注文してないとこだけどデートっぽいかこれ? デートってカフェでメニューを眺めることを言うの?」

「いや違くて。でもデート中にケーキを食べに行くとかある事っしょ」

「つまり、デートとはケーキを食べることを言うのか? それともケーキ屋に入ることを言うのか?」

「や、知りませんけどそうじゃなくて……」

「そしたら、カフェでのバイトとか全部デートになってしまうのでは?」

「バイトは食べに来てるわけじゃないっすよね!?」

「どうせその日のあまりモン家に持ち帰って食ってるに決まってんだろ」

「え、ホントっすか? ケーキ屋でのバイトって楽しそ……や、そうじゃなくて!」


 この人、全力で話題を逸らそうとしに来ている。でもお陰で確信した。つまり……やはり知られたくないような理由があると見て間違いない。


「何のためにアタシを誘ったのか、いい加減教えて下さいよ!」

「んー……」


 すると、鈴之助は腕を組んで悩む。何を考えているのか分からないが……どうせどうやって誤魔化すか、くらいのものだろう。本当に男らしいのかそうでないのかわからない人である。

 が、やがて考えがまとまったのか、平然とした顔で聞いてきた。


「じゃあ、何のつもりで誘ったのか教えてくれたら、俺の言うことひとつ聞いて」

「えっ、な、なんすかそれ……」

「どうする?」

「……」


 本当に卑怯くさい取引の仕方をしてくるものだ。一体、自分に何をさせるつもりでいるのか……。

 いや、何をさせるつもりであっても、だ。そんな聞かれ方をされたらこちらは頷かざるを得ない。


「……分かったっす」

「よっしゃ。じゃあ、俺の配信にお前も出ろ」

「了解っす! ……え?」

「次のテーマ、女子力ゲームだから」

「………ゑ?」


 ちょっと意味を飲み込むまで時間がかかった。


 ×××


 翌日、鈴之助の家で……由香は困っていた。


「と、言うわけで、次の女子力ゲームで黒崎の相手をする、熊谷琴香後輩です」

「……どうも」

「よ、よろしくねー」

「……ど、どうぞよろしく……」


 この男は爆心地が好きなのだろうか? と思うほどに爆撃してきていた。絶対頭おかしい。


「あの、なんで熊谷さんも一緒?」

「女子力ゲーム、対戦もあるんだろ? 作った俺か半田先輩がやったら勝負になんないだろ」

「あ、あー……なるほど……」

「軽々しくOKするんじゃなかった……」


 残念ながら、琴香は後悔している様子だった。


「何、嫌なの熊谷?」

「嫌っす」

「うちのリスナーなのに?」

「「えっ?」」

「ちょっ、先輩なんで知ってんすか」


 それは意外だ。まさか、この子もクリエイター木村が好きだとは。……見るからに体育会系なのに、配信を見るとは予想外だ。

 たじろいだ琴香に対し、鈴之助は真顔で答えた。


「いやいや、名前分かりやすすぎるから。クマの谷のコトシカだろ?」

「ちょっ、何で名前覚えてんすか!」

「あっ……そ、そういえばその名前、見覚えあります……! 毎回毎回、コメント細かくして下さっていた方、ですよね……?」

「あ、半田先輩気づいた?」

「気付くなよあんた!」


 この中で唯一、声を出していない碧が呟く。確かに、由香も配信を見直した時に、そういえばチャットにやたらと細かくコメントしている「クマの谷のコトシカ」って名前はあった。

 熊谷琴香、が、クマの谷のコトシカ……。


「ぷっ、ウマなのシカなのどっちなの」

「あんたに笑われたくないんすけど! なんすか、プレイヤー草壁って!? 一ミリも黒崎とも由香とも被ってないっしょ!」

「そ、それは……」

「被ったらバレるかもしんないからな」


 しれっと鈴之助がフォローしてくれる。というか……この熊谷という子、割と生意気なのかもしれない。

 まぁ、何にしてもあまりギスギスすると碧の負担になるし、今は気にしない方が良いだろう。


「で、まぁそんなわけだから熊谷と黒崎、お前らは二人でゲームやってろ」

「はぁ!?」

「嫌っす!」

「いや、これから作るゲームお前らに知られると新鮮なリアクションもらえないし。それより、二人で少しは息が合うよう会話できるようになっといてくんない」


 言わんとしていることはわかる。複数人で実況やるなら、まずは息を合わせることが大事だろう。

 聞く人にとってあまりにも要領を得ない会話ばかりしていると、リスナーは減ってしまう。

 でも、だからって……。


「そもそも、なんでアタシまで実況しなきゃいけないんすか!?」

「そういう約束だからだよ。次の一回だけで良いから」

「それはそれでムカつくんすけど!」

「? なんで?」

「だって……この人達はこの後も毎回付き合うんでしょ?」

「そうだけど?」

「……」


 この自覚のない片思い感……思わずこっちが恥ずかしくなるほどのウブさだ。

 そんな相手と割と部屋に入り浸ることが多い自分……気まずいどころの騒ぎじゃない。

 ……とはいえ、だ。前の実況の時の……あの楽しさ。いろんな人が称賛のコメントをくれた気持ち良さ……その為なら、少しくらい気まずくったって我慢出来る。


「うちは良いよ。こんな可愛い子と二人でゲームできるなら」


 笑顔で琴香に微笑み掛ける。ややリップサービスを利かせて、友好を示して言ってみた。

 そんな自分に対して、琴香は。


「え……レズなんすか? スミマセン、自分のんけなんで」


 はい、嘘。このガキぶっ飛ばす。


「んな目であんたのこと見てねーっつーの! そもそもおっぱいなら半田先輩の方がでっかいし!」

「その話蒸し返してる時点でのんけか危ういと思うっすけどね」

「女子だって胸の大きさとか気になるじゃん! 男が高身長羨むのと同じだっつーの!」

「身長とおっぱいは別っしょ。とにかく、アタシに触れたら先輩だろうと蹴りを入れるんで、そこんとこよろしく」

「誰があんたの貧相な胸に触るかっつーの!」

「先輩よりは大きいっすけどね。着痩せするんで自分」

「自己申告なんかアテになるかぁ!」

「じゃあ証拠見ますか!?」

「見せてもらおうじゃん!」


 と、シャツに手をかけ始める。そんな中、外野からボソッと声が聞こえてきた。


「なぁ、半田先輩。これでホントに脱いだら俺が訴えられんのかな」

「えっ!? さ、さぁ……」


 ……そうだった。男子がいた。それは流石にマズイ……と、思ったのだが。なんかこの子生意気でムカつくし、一回くらい痛い目見た方が良いかも。

 そう思ったので、あえて黙っておいた。そしたら、ホントに下着姿になった。


「ほら、結構大きいっしょ!?」

「おーホントだ。お前、だいぶ育ったな。昔は聖良より小さかったのに」

「そうでしょうとも! 先ぱ……」


 しれっと口を挟まれたことにより、全てを自覚してカァっと顔が赤くなる。

 ……しかし、本当に自分より大きいのには驚いた。その上、碧と違って痩せているしスタイルも抜群だ。腹筋なんて割れているし。

 流石、腐ってもスポーツ選手である。……もう少し頭良くなったら? とは思うけど。


「ちょっと熊谷さん? いくらスタイルに自信あるからって、男の子の前で脱ぎ始めるのはどうなのかしら?」

「あんたが脱がしたんでしょうがッ! 先輩も見ないで下さいよ!」

「半田先輩、言われてんぞ」

「あんたに言ってんだよ栗枝パイセン!」


 慌てて肌を隠し始める琴香。その仕草はちょっと可愛い。

 というか……目の前で脱がれても顔色一つ変えない鈴之助もどうかしている。


「ところでさ、熊谷。資料用に一枚撮って良いか? そのまま」

「殺しますよホントに」


 ホントにどうかしている。デリカシーという概念が欠如しているレベルだ。


「ていうか、黒崎は脱がないの? どっちが大きいか比べるなら、二人とも脱がなぶべっ!」


 顔面につま先を叩き込んだ。避けられるかと思ったが、見事にヒットして鈴之助は後ろにひっくり返る。


「行こ、熊谷さん。バカの愚痴を肴にして盛り上がろう」

「そっすね」


 こんなアホな男、捨て置いた方が良い。それだけ話して下で(勝手に)ゲーム機を借りた。


 ×××


「ふふっ……酷い目に遭いましたね」

「あんた何で笑ってんの?」


 思わず笑みを浮かべてしまう。だって、なんだかんだ痛い目を見ている鈴之助を見るのは初めてだからだ。強い装備を揃えているくせにプレイングが下手なハンターを見ている気分だ。


「す、すみません。珍しかったのでつい……でも、今のもわざとでしょう?」

「は?」

「とりあえず一時的にでも仲良くなってもらうために、お二人を挑発するようなことを仰ったのではありませんか?」

「……」


 あんな直接的なセクハラ発言、言われた本人以外は不自然に聞こえる。鈴之助らしくない。

 まだ付き合いは短いけど、これだけ何度も部屋の中に招かれて指一本触れられていない事から、彼が性に貪欲な奴ではないことは理解しているつもりだ。


「……ま、せめてケンカしないくらいの仲になってもらわないと困るからね。強引に仲良くさせるより、利害の一致で結ばせる」

「北風と太陽のようですね。……いや、少し違うかな?」

「遠回しでまわりくどい手段って意味じゃ合ってるよ」


 押してダメなら引いてみろ、と言う話だ。

 何れにしても、まぁあの様子なら会話くらいするだろうし、後は本人たちがどう転ぶか、だ。


「でも、仲良く出来ますかね……? とっても相性悪そうな気も……」

「さぁ。でも二人とも悪いやつじゃないから平気でしょ」

「……その心は?」

「黒崎はなんだかんだで俺の正体も自分が配信してることも誰にも言ってない感じだし、熊谷も誠実な相手や尊敬できる相手には最低限の敬意は払う。多分、何とかなるでしょ」


 なるほど、と少し納得。確かに、誠実な人同士なら仲良く出来るのかもしれない。……まぁ、あくまでも他人に興味がない鈴之助の主観ではあるのだが。


「それより、ゲーム作るよ。明日やる予定だったこと今日やっちゃうから、今出来てる段階で良いから意見聞かせて」

「あ、は、はい。大丈夫です、こういうのは早めにまとめるようにしているので」

「あと、ストーリーも当然、複数作るけど、その中のいくつか書いてもらうから、考えといてね」

「はい。……え、今なんて?」

「よろしく」


 とのことで、二人でゲームを作り始めた。


 ×××


「……で、あんたらは真面目な話、先輩とどんな関係なんすか?」


 二人でゲームをやりながら、そんなことを聞かれる。

 まぁ、冷静に考えればやはり琴香は多分、鈴之助のことが好きなわけだし、やはり取り乱すのも分からなくもない。

 とはいえ……やはり先輩に対する態度ってもんがあんだろ、とも思うが。


「ほんとにこういう関係だけど? ゲームやるだけ」

「人の家に上がり込んでまで?」

「家に上がることのが少ないからー。前のブラックホールゴルフの時なんて大変だったんだよ。学校に行く道とか超往復させられてさー」

「つまり……お手伝い? クリエイター木村の?」

「そういうこと」


 事実だし仕方ないだろう。実際、自分がやっているのは本番のプレイだけ。

 まぁ今回や前回みたいにゲーム作りの手伝いをすることはあるけど、それでも案を出したり資料集めを手伝うだけで、中身を見たりはしない。


「うちはあんま手伝ってないし、どっちかって言うとよくこの家に来るのは半田先輩だよ」

「じゃあ、半田先輩とやらが付き合ってるんすか?」

「ないないない。半田先輩、あんまり人と関わるの得意じゃないし、本とゲームとスマホが彼氏みたいな人だから」

「……」


 言われて、琴香は腕を組む。さっきまでほとんど会話していなかったのを思い出しているのだろう。

 だが……それと同時に、さらに表情は曇ってしまう。


「……なんで先輩、最初に手伝いでアタシに声かけてくれなかったんすかね……」

「……あー」


 それは……由香にも分からない。話の流れ? いや、向こうから誘いに来られたし、特に自然な流れがあったような感じはない。

 それを言われると少し不思議だが……まぁ、きっかけなら覚えている。


「うちと半田先輩は、今の二つ前のゲーム……ツッコミ病だっけ? その時に本とか貸しまくってたから、その時に気に入ったのがあったのかなぁ……」


 あれ? でもその時は自分が貸した漫画からも、碧が貸した本からもあまり使われなかった気がする。

 ……なんか、思い出したら腹立ってきた。重い思いをして頑張って漫画とか持ってきては持って帰っていたのに。


「嘘っすよ。そのゲームの時に一番、使われたのはアタシが貸した漫画からっすから」

「ふーん……あんたも貸してたんだー……」

「? そっすけど?」


 しかも……一番、使われたのが琴香の漫画……? と、片眉を上げる。

 別に構わない、構わないけど……なんか、この子鈴之助にそっくりだ。微塵も人の思い通りにならなくて、失礼。

 ……確か、中学からの付き合いだろうか? そりゃそっくりになるわけかもしれない。


「……狡い」

「え?」

「うちが勧めた本なんて、ほとんど使われなかったのに……!」

「はぁ……そっすか」

「なんかうちより相棒感あってずるい!」


 いや別にあの男の相棒になりたいわけでもないが……こう、なんか悔しい。色々と「発想が面白い」だの「ツッコミが面白い」だの言われたからだろうか?

 一方の琴香はにんまりとほくそ笑んで意地悪く聞いてきた。


「……いや、知らないすけどそんな事情。もしかして、そっちこそ先輩のこと好きなんすか?」

「いやそれはない。120%」

「先輩の何が悪いんすか。ああ見えて努力家で才能を伸ばすためにあらゆることしてるんすよ」

「え? う、うん?」


 この子、面倒くさっ、と思いつつも、自分が気に入らないと思っているのはそこではないので、話を逸らす。


「いやそうじゃなくて。言っておくけど、一番最初に栗枝から声をかけられたのはうちだから。つまり、配信に一番必要な人材だと思われたのこっちだから」

「……は?」


 そのセリフに、琴香はイラッとしたように片眉を上げた。


「そりゃあんたがたまたま近くにいたからっしょ。よく知らんけど。言っとくけど、アタシは先輩だけじゃなく先輩の妹とも仲良くしてるっすから。去年は最強のコンビネーションで全国で暴れてましたから。その辺弁えてくださいよ」

「いや聖良ちゃんとどんだけ仲良くてもクリエイター木村とは何一つ関係ないから。その辺弁えるのそっちじゃね?」

「……は?」

「……あ?」


 火花が散る。こいつは、やはり敵だ。ライバルと見るしかない。


「よーし、言ったな?」

「ゴングを鳴らしたのは先輩っすからね」


 やるなら……もはやインファイトしかない。それは勿論、タイマンを張るに一番適したもので、だ。

 あのバカ男の相棒として、どちらが一番相応しいかを決着つける。

 それにはやはり……これしかないだろう。


「ブラックホールゴルフでどっちが好成績になるか決めるよ!」

「上等っすけど、良いんすか? 下手くそなプレイを放送で晒してた人と違って、自分はちゃんとクリアしてますけど」

「放送の姿が全てだと思わない事だから! 吠え面かかしてやる!」


 と、二人で吠えながらゲームを始めた。


 ×××


「で、そんな目がチカチカするほどお前らブラックホールゴルフやってたの?」


 ソファーや椅子があるのに床の上で倒れているアホ二人を見下ろしてそんなことを呟いたのは、今日の仕事を終えた鈴之助。その隣には碧もいる。


「は、はい……」

「ちょっと、熱くなりすぎただけっす……」

「ちょっとであのイライラゲーを20戦もやるかよ。ウェルダンまで火が通ってるよ」

「で、でも……作った側としては嬉しいですよね? そんなに沢山、遊んで下さるのは」

「まぁな」


 とはいえ、やはりやり過ぎた感じは否めない。二人とも目がチカチカしているし、指の関節が痛い。


「まぁ、仲良くなったようで何よりだわ。とりあえず送るから、さっさと立て」

「優しくすんのか厳しくすんのかハッキリしろし……」

「先輩……可愛い後輩になんでそんな冷たい言い方するんすか……」

「先に立った方には、帰りに奢ってやるマッグのポテトLサイズにしてやる」


 直後、まるで腕立てバービーの立ち上がる瞬間のように二人ともシュバっと素早く立ち上がった。


「「どっちが早かった!?」」

「半田先輩」

「ずる!」

「このおっぱい星人め……!」

「え、あ、あの……太るので、私はビッグマッグダブルだけで……」

「ポテトより太りそうな注文」

「ーっ!」

「あぶねっ」


 なんて呑気な事をしながら、家を出た。

 前を鈴之助と碧が歩き、後ろから騒がしい女子2人がついていく。

 その間に会話はない。結局、ブラックホールゴルフはお互いに10勝ずつ。つまり、勝てていない。

 このまま決着がついていないまま……なんていうのは絶対嫌だ。


「……熊谷さん」

「なんすか黒崎さん」

「次やるゲーム、対戦もあるんだよね。それも、女子力を競うゲーム」

「へー、そっすか」


 何が言いたいのか、琴香も理解した。つまり……そこで決着をつけるということだろう。

 それと同時に、確信した。後ろの人は知らないけど、隣の女はおそらく鈴之助の事を狙っている。やはり、見た目がクール系とはいえギャルっぽいだけあって、面食いなのだろう。

 今までその手のギャル達が鈴之助を相手に玉砕していくのを幾度となく見てきた琴香は、かけらの危機感も覚えなかったが、あの黒崎由香という女は違う。鈴之助は、あれを割と気に入っている。

 つまり……負けるわけにはいかない。もっと前から鈴之助と一緒にいるのは、自分だ。


「勝った方が、あのバカの相棒で良い?」

「良いっすけど……そんな軽はずみに賭けて良いんすか? 負けるだけっすけど」

「生意気な年下を追い出すだけだから大丈夫」

「……へぇ」


 決まった。もうここでバトルするしかない。勝った方が相棒だ。

 そう決めて、とりあえず二人とも今日、何かしらのゲームでトレーニングすることにした。


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