第13話 男子の女子力と女子の女子力は違う。
その日の夜、鈴之助は今日もバスケの練習に付き合わされていた。
付き合わせているのは言うまでもなく琴香。本当なら、あの憎き先輩二人と遊ぶのを邪魔したかったのだが……まぁ仕方ない。部活をやっている人の宿命だ。
「うがー!」
「ファウルで止めるとか俺には通用しませんから」
「ぐへー」
ぬるりと躱されて、レイアップシュートを叩き込まれる。相変わらず速すぎる。
トーン、トーン……と、バウンドするボールを眺めながら、少し呆然とする。……このプレイ、コートの上で見られれば、もっとカッコ良いだろうにな……なんて。
「はい、次お前の攻めなー」
「……」
「おーい、そこの長身女」
「アア!?」
地雷を踏み抜かれて半ギレで顔を向けたが、何食わぬ顔で先輩は質問して来る。
「どうかした?」
「したわ! あんたよくたまに人の地雷を平気で踏み抜けるな!」
「いやそっちじゃなくて。なんか元気なくね? 部活でなんかあった?」
お前の所為だろ、と強く思ってしまった。そして……その感情が表に吐き出るように、思わず言ってしまった。
「先輩は……もうバスケしないんすか?」
「しないけど?」
「即答、すか……」
「スポーツ選手って諦め早いんだもん。少し真面目にやって30点差つけただけでやる気失せるし、同じポジション狙ってた奴もすぐに諦めて嫉妬だけするし……それなら他の事やるわ」
やはり、相変わらずの様子だ。まぁ仕方ないと言えば仕方ないけど……でも、なんでゲーム作りなのか。
「大学では?」
「一緒。そもそも俺以外に人がいる組織はもう入りたくない」
「今、入ってるじゃないすか」
「は?」
「……あっ」
しまった、と口を塞ぐ。目の前の人が三人で実況活動している事は、自分は知らない体だと言うのに。
いや、別に知ってることがバレても琴香には大きな支障は無いのだが、向こうにとっては違う。
「何だ組織って。何の話? 別に俺何も所属していませんが? 特に姿を隠した活動とかは皆無ですし」
嘘が下手な人である。よくもまぁそこまで豹変して饒舌になるものだ。分かりやすいにも程がある。
普段なら流してあげるところだけど……でも、今日は少し色々と気になってしまった。
なんか……今まではあまり気にならなかったのに……鈴之助に女の子の友達が出来たと聞いて、やたらと突っかかりたくなっている。
「先輩、もしかしてなんすけど……クリエイター木村っすか?」
「ちっげーよいい加減なことほざき倒すなマジぶっ飛ばすぞ巨人」
「あんたの方がアタシよりデッカいでしょうが!」
というか、琴香は女子にしては大きいと言うだけで、普通にバスケが上手で体格にも恵まれている鈴之助の方が背は高い。
そんな奴に巨人とか死んでも言われたくない。
激昂する琴香を前に、鈴之助は何食わぬ顔で質問してきた。
「お前なんでそんな身長いじられんの嫌なの?」
「女の子ならみんなそうっすよ! 背が高いより低い方が可愛いんすから!」
「……そういうもん?」
「男子だって背が低いより高い方が良いっしょ!」
「そうなんかな」
「そう!」
すると、しばらく鈴之助は顎に手を当てる。なんか「女子は低い方が良い、か……」なんて呟きながら、しばらく黙り込む。
そして、何を思ったか、全く照れる様子を見せずに声を掛けてきた。
「熊谷」
「なんすか」
「明日の放課後、デートするか」
「えっ?」
なんか……とんでもないことをほざき出した。
×××
女子力ゲーム……と、言われて、半田碧は正直なところ少し困っていた。何故なら……一応、女子力の概念とは恋する乙女的な何かであることはわかったが、自分は初恋もまだだ。
それは鈴之助も同じだろうし、唯一中学とかで彼氏がいそうな由香はこれ以上、関われない。
だから……まぁ、一緒に考えたとはいえ具体例を挙げて、とか言われると困ってしまう。
でも……今日は大丈夫だろう。あの様子だと鈴之助も自分に力を借りようと声をかけるまでそれなりに時間を欲しそうだし、何より委員会がある。
だから、その時が来るまでどっしり構えておこう……なんて呑気に思ったのがフラグになったのかもしれない。
「半田先輩」
「えっ、は、はい?」
昼休み、まさにお昼ご飯を食べようとしていた時だった。
急に名前を呼ばれて扉の方を見ると、鈴之助が突っ立っていて。
クラスメートにとって下級生が遊びに来るのはもう慣れた光景のようで、最近は注目されていなかったのだが、昼休みに来るのはかなりレアなので再び視線を集めてしまった。
そんな集中砲火も気にせず、鈴之助は自分の方に駆け寄ってくる。
「一緒に昼飯食おう」
「えっ」
「ほら、早く」
「え、え〜……?」
学校に来る前にコンビニで購入したお昼セットのビニールを持った自分の手を引いて、鈴之助は何もかもお構いなしで教室から出ていった。
移動した先は中庭。ベンチがあるそこに二人で腰を下ろす。……なんか、カップルみたいなイベントだな、と思わず狼狽える。
こんな特殊なイベント、よく自分に起こるな……なんて少し狼狽える中、鈴之助が袋からお弁当を出した。
「半田先輩、弁当あんの?」
「えっ!? あ、ありませんけど……コンビニで購入したものならば……」
「じゃあそれと俺の弁当交換ね」
「え、ええっ!?」
まさかのお弁当の交換会。なおさら、緊張が高まった。何でそんなことになるのか。
「えっ、あ、あの……な、何故そんなことに……?」
「何故って……俺、半田先輩の為にお弁当作って来たんだよ」
「はうっ……!」
いや、分かっている。これ絶対、自分のことが好きで落とそうとしているとかではないことに。自分がそんな風に男からモテるわけがない。
でも……じゃあ急に何のつもり? と思わないでもないわけで。
どうしよう、急にどうしよう……なんて胸の奥がドッドッドッと高鳴り始める。
そんな自分に、鈴之助は袋から弁当箱を包んである風呂敷を取り出した。思ったより大きいお弁当だ。
「はい。だから食べて」
「っ……あ、ありがとう……ござい、ます……」
頬が赤く染まりながらも、お弁当を受け取る。どうしよう……こんな事なら、自分ももう少し良いものコンビニで買えばよかったかも……と、思いながら袋を手渡す。
そして風呂敷を開いた直後……目を丸くした。弁当箱が三つあったから。
「多くないですか!?」
「半田先輩のために、気合い入れすぎじゃった。勿論、食い切れなかったら俺も手伝うよ」
「ひゅっ……!」
なんだろう……この献身的なイケメンは……と、尚更胸の奥がドギマギする。なんか、心なしか普段より声も明るい気がする。
まさか……一緒に活動しているうちに好かれてしまったのだろうか?
や、確かにゲーム作りをしている最中はずっと二人だったけど……でも、近くに由香がいながらよりにもよって自分のことを好きになるなんてあり得ないと思っていたのに……。
どうしよう、と目がグルグルと回る中、目の前にいる鈴之助は少し無表情になってスッと告げて来た。
「さ、早く食べて。味は保証しないけど」
「は、はひ……」
そこでクールな声出すの反則……と、もうクラクラしながら、お弁当箱を開けた。三つとも。
そこには……海苔で虎の顔を型取り、のりたまのふりかけで色付けられた白米、きんぴらごぼうとミニトマトという少量の野菜に唐揚げが入った小さな可愛いキャラ弁。
わかめの小さな楕円形のおにぎりが二つ入って、ほうれん草のバター炒めときゅうりの塩揉みの輪切り、そして塩焼きにして綺麗に丸めてコンパクトにしたベーコンが入った食べやすそうで機能的な弁当。
そして最後の一つがサンドイッチ。ブルーベリージャムとかいちごジャムとかチョコレートソースを挟んだ「これお昼ご飯というよりおやつじゃない?」と言ったもの。天然感がある。
何にしても……。
「それぞれ別のお弁当なんですか!?」
「キュートクールパッションの三種類なんだけど、女子力高い?」
「は!? ……あ」
もしかして……この野郎が急に弁当用意したのも、さっきなんか明るかったりクールだったりしたのも、全部……。
「も、もしかして……ゲームの為、でしょうか……?」
「? 他にどんな理由で弁当三つも作ってくんの」
「……〜〜〜!」
この野郎、と羞恥心で頬どころか顔が真っ赤に染まる。綺麗に罠を張られたような感覚に陥ってしまった。
思わず頬を膨らませ、両手で隣の男の肩をポコポコと叩いた。
「ちょっ、なんだよ。体重乗ってて痛いんだけど」
「もうもうもうっ! 最低です!」
「なんでさ」
「おにぎり返して下さい!」
「いやあげたじゃん」
「こ、このお弁当のおにぎりのことではありません! その袋です!」
勘違いさせるだけでなく、自分でもする天才なのだろうか? 一々、腹が立つ。
「えー、食べてよ。俺の弁当。おいしいよ」
「先程、味は保証しないって言ってましたよね!?」
「あれはクールキャラのツンデレみたいな感じを試しただけ。女子力的にどうだった?」
「知りません!」
この男ホントにこの男……! と、頬が膨らむ。マイペースにも程がある。……でも女の子だった場合を想定すると可愛かったのかもしれない。
「まぁ良いから食べてよ。今朝、早起きして作ったんだぞこれ。JKが作りそうなレシピとか検索してさ」
「うっ……」
それを言われると少し困る。実際、苦労したのは事実なのだろう。
「……わ、分かりました……いただきます」
「よっしゃ。食べて」
言われて、仕方なく摘むことにしたが……それ以前に、調査ならまず聞くことがある。
「あの……ちなみに、どれがキュートクールパッション、なのですか……?」
「どれだと思う?」
「えっ……えっと……そうですね……」
聞かれると微妙に自信薄なのだが……まぁ、感じた通りに指してみよう。
「この唐揚げのがキュートで、おにぎりのがクール……サンドイッチがパッションでしょうか?」
「当たり。よし、方向性は間違ってないな」
こうして見ると割と分かりやすい。まぁこういう想像に意外性などいらないので、分かりやすいくらいがちょうど良いのだろう。
それでは、実食。まずはキュートからである。メインの唐揚げからもらった。
一口、噛んでみると思わず目を見開く。柚子胡椒のフレッシュでさっぱりな味わいと、基本的な材料である醤油やら生姜やらの味わいが綺麗にマッチングし、忘れられない思い出が口内で爆誕した。
「どう?」
「……お、おいひいでふ……!」
この男に備わったあらゆる才覚は、あらゆる場所で頭角を現している。
さて、口の中から唐揚げがなくなり、ふりかけご飯を食べるために箸の先端をご飯に差し込む。
「あ、もう食べちゃうの? その虎の顔、作るのに38分かかったんだけど……」
「え……」
「あー……なるほど。それで弁当の写真を撮りたがるやつもいるのか……ごめん、一枚」
「あ、はいどうぞ……」
「撮って」
「私がですか!?」
「女子力」
「あーもう、分かりましたよ!」
写真を撮ってから、改めて食べ始めた。しかし、美味しい。料理上手なのは羨ましい。自分もいい加減、料理くらいするようにならないと。
キュート弁当を平らげた後は、続いてクールなお弁当をいただく。
これも美味しい……わかめご飯のおにぎりがやたらとクセになりあっという間に二つとも食べてしまったし、野菜メインでお肉が少ないのも少しヘルシーで嬉しい。
さらに最後のサンドイッチ……これはもう、ほとんどデザートなのだが、このジャムが異常に美味い。三種類あるのだが、そのどれもが果実だった頃の酸味と甘味を生かして出来ているので、食パンに合う。
「ふぃ〜……ご、ご馳走様でした……」
「美味しかった?」
「は、はい……! それはもう、全部のお弁当に個性が出ていて……これ、男の子が女の子に作ったという前提なら尚更、美味しく感じるのではないでしょうか?」
「そっか。でも、一人で全部食べてくれると思わなかったな。そんなにお腹すいてたの?」
「はい?」
言われてハッとする。そういえば……普通にお弁当箱一つ分はある物を三つとも平らげて……。
こんなに食べたら……お昼とはいえ、かなり太ってしまうんじゃ……。
サァーっと真っ青になって、思わずまた鈴之助の肩をポコポコと叩いてしまった。
「と、途中で止めて下さいよ〜!」
「いや、あんまりにも幸せそうに食べてくれてたから、なんか嬉しくて」
「っ……〜〜〜もぉ〜〜〜!」
今度は男の子の前でお腹いっぱい食べてしまったことを自覚させられ、また顔が真っ赤に染まった。この人、ホントに意地悪だ。
思わず恨みがましそうな目で睨みつけるしかないわけだが、鈴之助はきょとんとした顔で弁解するように言った。
「いや、本当に嬉しいよ?」
「っ……も、もういいです……はぁ……」
ため息を漏らしながら、とりあえず手を合わせた。
さて、鈴之助もコンビニのおにぎりを食べ終え、お昼ご飯は終了。
でもまぁ……美味しいもの食べられたし、今日は満足だ。
「あ、そだ。半田先輩」
「……まだ何か?」
「いやそんな警戒しないでくんない?」
そう言われても、する。だってこの人に、今日は特に何度も恥をかかされているし。
半眼になって睨み付けたものの、鈴之助は構わずに言った。
「この前の資料だけど……読んだ感じ、二人とも女子力ってのは男子に恋してる時に一番発揮されるもの、というイメージで作ったと思って良いか?」
「え? あ、は、はい」
「了解」
そう言うの読み取る力はあるらしい。まぁ、別に鈴之助なら不思議でも何でもないけど。
「ちなみに、何見て思いついたのかーとか、その辺は聞いたらダメな奴?」
「えっ!?」
お前だよ、と思っても言えない。正確には、お前に恋していてるように見えたもう一人の後輩だから。
その子のことは言わない方が良い。プライバシーだから。
「は、はい……」
「なーんだ、先輩か黒崎に好きな人がいんのかと思った」
「い、いませんよそんなの……」
なんかあの様子だと本人も自覚していなさそうだし、勝手に言わない方が良いだろう。
「や、まぁ良いけど」
「そ、そうですか……」
流してくれるのは助かる。とりあえずラブコメ映画でも見たことにしよう。
「じゃあ、半田先輩。とりあえず三日後にうちで色々と資料まとめるから、半田先輩も色々と探して来てくれる?」
「あ、わ、分かりました……」
三日後ならば図書委員は普通に休みだ。何も問題はないし……それまでに、自分なりに考えよう。
「じゃ、教室戻るか」
「え、も、もうですか?」
「いや割と時間ギリだぞ。あんた一人で弁当全部平らげたし」
「え……」
それは確かに割と時間が進んでいてもおかしくはない……けど、それを堂々と言うのはやめて欲しいものだ。恥ずかしさがぶり返す。
というか、自分はどんだけ味わって食べていたのか。時間を忘れるほどにか、と恥ずかしさに拍車がかかった。
「も、も〜! 意地悪はやめてください!」
「いやそんなもんした覚えないんだけど……」
「もう、教室戻ります!」
「そうね?」
そんな話をしながら、二人で中庭から出て校舎に入った直後だった。
……琴香と、バッタリ出会した。
「あ、熊谷」
「先輩! ……と?」
「ひぃっ……!」
「すごいな、一年に三年がビビってるよ。お前何したの?」
「何もしてませんけど?」
羨ましいものだ。何も知らない当事者はとっても呑気で。これ碧からしたら完全に修羅場なのだ。
「二人で中庭でお昼っすか? 随分、仲良いんすね」
「まぁな。今日は手作り弁当三つ平らげてもらった」
「……ふーん」
「ちょおっ、く、栗枝くん!?」
何で言うの何で言うの何で言うの! とテンパってしまう。琴香も冷たい視線を自分に向けている。違う、別に付き合っていない。
でもそんなの鈴之助はどこ吹く風。
「それよりお前、今日のデート忘れてないだろうな?」
「そのセリフ、そっくりそのままリフレクター」
しかもデートの約束してたのかよ! それで他の女の子と昼飯を食べていたと言うことだろうか? 普通、刺される。
「俺から誘ったのに忘れるわけないじゃん」
「そうすか。じゃあ何で二人で食事してたんすか? 学年も違うんすよね?」
「俺が弁当食べて欲しかったから」
このボケカス! と握り拳を作ってしまう。お前は歯が浮くようなセリフを言うプロか、と眉間に皺がよる。何が困るって、直球すぎて碧も少し照れてしまうことだ。
「……アタシにはそういうの作ってくれたことないのに?」
照れている場合じゃないくらい乙女だこの子! と碧の頬まで赤く染まる。
その琴香に対し、何食わぬ顔で鈴之助は返した。
「だってお前、料理普通にできるじゃん」
「っ、ま、まぁ……」
「お前より美味い弁当作れるか分からんから、リアクション期待できないし」
「そ、そんなことないっすよ! 先輩の料理なら何でも美味しいって言いますよ!」
「言ったな? 食材放り込んで胃と腸で調理して肛門で盛り付けたモンでも危なっ!」
「じ、女子に何言ってんすかあんた!」
「料理は料理だろ」
「ちっがうよバーカ!」
本当にアホな会話してるな……と、少し苦笑いになって呆れている時だった。何にしても、いづらいし騒がしいので早く済ませて欲しい。
「ていうか、何怒ってんのお前。もしかしてデートって言葉使ったことにブチギレてる?」
「半分正解! 正確には……!」
「待って。ニアピンしてるなら当てたい。考えさせろ」
「クイズ番組じゃないんで答え言いまーす! デートって言葉使ったくせに他の女の人と二人で食事してるからでーす」
「何お前。俺の事好きなの?」
どさくさに紛れてとんでもないこと聞いてる! と思わず目を剥いた。
この流れでそんなこと聞いたら、琴香はブチギレるんじゃ……と、恐る恐る琴香の方を見た時だ。
予想外にも、呆けたような表情になっていた。目を見開き、口を半開きにし、今にも「ほけ〜……」なんて声が無意識に漏れそうな顔。
それでも「呆けたような」と表現したのは……琴香の頬が赤く染まっていたからだ。
「? おい、熊谷?」
「っ!」
声をかけられハッとした琴香は、思わずキッと鈴之助を睨みつけた。
「はああああ!? しょっ、そそっ、そんなわけないっすよ! この近年稀に見るバカ!」
「俺一応先輩だぞお前」
「もういいっす! バカバカバカバーカ!」
「バカバーガー? ……バカバーガーって名前のハンバーガーってありそうじゃね? ハンバーグ5枚くらい挟んでバカ盛り的なヤツ」
「え、わ、私に話しかけてますそれ……?」
何でこっちを見て言うのか。
ていうか、この人の感性おかしい。まず間違いなくバカバーガーなんて言われていない。バカと連呼されただけの話だろうに……。
おかげで、琴香の怒気はより一層、高まる。
「ハンバーガーゲームとか面白いかも……ちょっとメモだけしとくか」
「時と場合を考えてください!」
「先輩、あんたホントなんなんすか! どうなってんすか情緒!?」
「あーもう分かったよ。冗談だからそんな怒るな。……今日、お前の好きな店でケーキでもパフェでも、食わせてやるから」
「っ……ぜ、絶対っすからね……!」
あ、でも甘いものは好きらしい。そう言うとこ、女の子っぽいしチョロくて可愛いな、なんて思ってしまった。
それだけ話して、琴香は教室に戻っていく。
その背中を眺めながら……琴香に対してはなんか悪いことした、と言うのと、鈴之助に対しては、よくも変なことに巻き込んでくれたな、と言う怒りが少しだけ込み上げる。
というか、だ。この人達、デートとか鈴之助の方から言ったということは付き合っているのだろうか?
「……もう、彼女さんがいるなら、何故私を二人で食事なんかに誘ったんです?」
「え? あいつ彼女じゃないよ?」
「……へっ? でも、デートって……」
「デートっつった方が女子力の調査になると思ったからな」
「……」
外道の極みである。いや、鈍感であるだけマシか。もし、さっきの「お前俺のこと好きなの?」が好かれている事に気付いてきた上での発言だったら割とマジで鬼の所業だ。
「あなた……そのうち刺されるのでは?」
「え、誰に?」
「……いえ、何でもないです。とりあえず、熊谷さんに謝ったらどうですか?」
「なんでだよ」
いや、もう何も言うまい。とりあえず、なるべくならこの人ととの付き合いは回避しよう、そんな風に思いながら、とりあえず自分も教室に引き返した。
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