第8話 ホームルーム

 

 ホームルームとは、学級の自治活動を促す生活指導、教科外活動のための時間である。

 南摩耶高校では担任教師がこの時間に何をするかが決めている。主に生徒のレクリエーションを行う。


「今日のホームルームはクラスの三役と委員会の役員を決めるよー。そして、それが早く終わって時間が余ったら……」


 担任の遠藤先生があかるい声を出して、ホームルームの時間が始まった。

 

「……何しよっか!?」


 決めてねえのかよ! そして、生徒に丸投げかよ。


「先生」


 俺は手を挙げた。


「はい、えーと……」

「大月です」

「大月君ね。なに?」

「時間が余ったら、今後のホームルームに何をするかを考えたらいいんじゃないですか」


 少しでもリーダーシップがあるというアピールだ。


「いいね! じゃあ、時間が余ったら、来週以降のホームルームの予定について考えよう」


 遠藤先生は黒板にクラスの三役----委員長、副委員長、書記----、生徒会、風紀委員会、図書委員会、ボランティア委員会と書いていく。


「さっそく、委員長から決めよっか。委員長に立候補する人!」


 クラスメイトが皆周りを伺う中、一人の生徒の手が挙がった。


「えっと……」

「町田です」

「町田君ね。他に立候補する人〜」


 予想通り、町田浩介が立候補したか。立候補するのが俺だけであれば、すんなり委員長になれたんだけどな。


「もう、いない〜?」


 他に誰も立候補する気配はなかった。


「じゃあ、委員長は----」

「先生」


 俺はぎりぎりのタイミングで手を挙げた。


「委員長に立候補します」

「おお! 大月君だね」


 先生は黒板に町田、大月と名前を書いた。


「他にはいないかな?」


 誰も手を挙げない。


「じゃあ、二人にはスピーチをしてもらって、多数決で決めるね」


 俺がぎりぎりまで手を挙げなかった理由は二つある。一つは、委員長が決まりかけたと思った時に新たな立候補者が出てくることにより、町田に精神的なプレッシャーをかけたかったから。

 もう一つは----


「それでは、町田君から話してもらっていい?」


 話す順番を最後にしたかったからだ。

 町田は立ち上がって、教壇に立つ。緊張した様子で話し始めた。


「町田浩介です。テニス部に所属しています。去年もクラスの委員長をした経験があるので、よりクラスのためになれると思います。よろしくお願いします」


 拍手の音が鳴り響く。

 おそらく、特に話すことを決めていなかったのだろう。短かったが、無難なスピーチだ。


「次は大月君お願い」


 俺も教壇の上に立つ。出来るだけ堂々としたように見えるように。

 すぐには話し始めない。教室を軽く見回してから口を開ける。


「大月慶斗です。部活動は何もしてないので、しっかり仕事に取り込めると思います。私が委員長になったら実現させたいのが、帰りのホームルームを五分以内に終わらせることです。去年B組だった人は分かると思うんですが、帰るのめっちゃ遅かったですよね」


 軽い笑いが起こる。

 去年のクラスは担任の先生の話す時間が長く、帰る時間がいつも遅かったのは有名だった。


「今年は遠藤先生にも協力してもらって、早く終われるようにしたいです。先生、大丈夫ですか?」

 

 遠藤先生の方を向いて言う。


「うん。協力するよー」

「今年は、クラスメイトが過ごしやすいような環境作りをしたいので、委員長に立候補します。よろしくお願いします」


 拍手をされる。先生に促されて、俺は自分の席に座った。


「上手いわね」


 隣の席の浜野から嬉しい言葉をかけられた。


「だろ?」


 スピーチの戦略としては、去年の担任教師を弄って笑いを取りつつ、俺が委員長になった時の実益をアピール、そして遠藤先生と軽いやり取りをして、存在感を誇示した。先生の性格から考えて、振れば何かを返してくれるのは分かっていた。まあ、及第点かな。

 ただ、いくら演説が上手くても、それだけで政治家が当選するわけではない。高校の多数決なんて、ほとんど人気投票だろう。町田にどれだけ人望があるかで勝敗が分かれるな。


「では、みんな顔を伏せて。一人一票で多数決を取ります。町田君に投票する人は手を挙げて」


 少し緊張する。


「手を下げて。次に大月君に投票する人は手を挙げて」


 そういえば、俺は手を挙げていいのか? 多分駄目だと思うけど、何も言われてないから手を挙げとこっと。


「手を下げて。顔を上げていいよ」


 さて、どうなったのか。


「多数決の結果、委員長は大月君に決まりました。大月君は前に出て、この後は仕切ってくれる?」

「分かりました」


 良かった。やっぱり勝つと嬉しいね。

 ちらっと町田を横目に見るが、表情からは何も読み取れなかった。


「改めて、委員長になった大月です。気軽に絡んでください。よろしくお願いします。じゃあ、さっそく副委員長から決めていこう。やりたい人はいますか?」


 俺は高梨を見た。早く手を挙げて!


「はい、高梨さん。他にいますか? えーと、いないようなので、高梨さんで決定します。拍手をお願いします。じゃあ、前に出て、軽く挨拶お願い」


 他の人が立候補する時間を与えないように、素早く高梨を副委員長に決定してしまう。汚いな俺!


「高梨です。委員長を支えられるように頑張ります。よろしくお願いします」


 委員長を支えるって、何をどうやって支えるのか疑問だよね。よし、高梨にはたくさん働いてもらおう。


 こうして、クラスの三役と委員会の役員を決めていった。途中で誰も立候補する人が現れず、難航するかと思われたが、江頭に無理を言って引き受けてもらい、比較的短時間で全て決まった。江頭にはアイスでも奢らないとな。町田は生徒会になった。

 

「次に、来週からのホームルームに何をするかを決めていきます。案がある人は手を挙げてください」

「はいはいー!」

「はい」

「球技大会」


 江頭が発言する。他にも何人かが案を出して、誰も手を挙げなくなった時に、俺も思い付いたことを適当に言っていく。


「お菓子作り、庭園でお菓子パーティー、ホットケーキ作り、どのお菓子が美味しいか討論」

「お菓子大好きすぎるでしょ」

「俺はお前を思って、案を考えたんだけどな」


 高梨がつっこんでくれるので、俺にとっては楽しくホームルームを過ごせた。途中で、男子からイチャイチャするなと言う野次が飛んだのを除いてな! お前らが案を出さないから、仕方なくやってるんだよ!


「ホームルームの終わりも近いので、この中から多数決を取りまーす」


 一学期のホームルームにする予定のものを四回分決めた。早めに決めるのは場所取りをするためだ。例えばお菓子作りであれば、家庭科室を予約する必要がある。


「じゃあ、これでホームルームを終わります」

「大月君、ありがとう。じゃあ、みんな帰る準備をしてー。大月君と高梨さんは職員室に来てくれる?」


 チャイムが鳴って、ホームルームの時間が終わる。

 俺は念願の委員長になったのだった。

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俺の部屋がクラスの女子に侵蝕されているんだが〜気弱な美少女にメンタルトレーニングをすることになった〜 神宮瞬 @shunvvvvvv

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