事故物件に住む友人が失踪した

TJYM

一話完結

当時、私が都内の大学に通っていた頃の話です。


大学の友人Aは遠方から上京した人で、いつも金欠でアルバイトをいくつも掛け持ちしていました。ですが浪費癖もありバイト代だけでは足りず、何かを切り崩したいという話でした。


そこでAは、興味半分で事故物件を探し始めました。


そのうちに、Aは非常に安い好物件が見つかったと連絡してきました。家賃はかなり格安で、風呂なしでトイレは共用ではあったものの月1万円ぽっきりで、敷金礼金なしでした。


前の持ち主は首吊り自殺した様でした。さらに前の持ち主も自殺した…という様なことはなく、単に引っ越しただけだそうです。


瑕疵物件とはいえあまりに都合が良すぎるので私は怪しいと思い反対したのですが、Aは押し切ってその部屋で住み始めてしまいました。




住み始めた最初の日は何もなく、風呂のために銭湯に行かなくてはいけないのが面倒とのことでしたが、住み心地は快適だったそうです。中心地から少し離れた所にありましたので、人通りも少なく静かで過ごしやすいとのことでした。




Aが住み始めて1週間経ちましたが、幽霊が出たといった話もなく、彼は前と変わらない様子で大学に顔を出していました。




2週間経った頃から、Aの様子が 縺、縺 おかしくなりました。同じ講義に出ていた時に交わした会話です。


「どうした?体調悪そうだな。やっと幽霊でも出たか?」


「いや、何も出ないよ。そもそも幽霊なんかいる訳ないじゃん。ただなんか耳がおかしいんだよね... なんかふらつくというか」


「それ、前の持ち主の呪いだろ。早くまともな部屋に引っ越せよ」


「馬鹿、推しに捧げる金が無くなるだろうが」




次の週、Aは 弱?縺 になりました。


「おい講義サボっただろ。来週までのレポート課題が今日出たぞ。俺が講義に出てて良かったな。」


「ああ、ありがとう。でも課題出せないかも。」


「なんでだよ。」


「大事な人のためにやらなくちゃいけないことがあるんだ。」


「後でいいだろ。彼女ができたってことか?」


「今忙しいんだ。じゃあな。」




さらに日がたって、学期末に近付きました。


「おい来週テストだぞ。単位いいのかよ。」


「俺気付いたんだ。」


「は?」


「世の中は 翫∪縺 で溢れているんだ。」


「何言ってるんだよ。」


「かみさまに会いたい。」




Aは失踪しました。大学には現れなくなり、連絡を取っても返事は来なくなりました。


大学の事務員から私に連絡が来て、今期に失踪した友人はほとんど単位を取得しておらず、進級が危ぶまれていたとのことでした。


事務方からも連絡を取ることができず、近しい友人の私に連絡を繋いでくれないかと相談されました。私も連絡が付かなかったのですが、彼の住むアパートは知っていましたので、ダメ元で訪れてみることにしました。


私はおんぼろな木造アパートを想像していましたが、思っていたよりも綺麗でおそらく鉄筋コンクリート製の新築アパートでした。ただなんとなく、 医?縺 な印象を感じました。


Aの部屋の前まで行きベルを鳴らしましたが、案の定彼は出て来ませんでした。


「おい、出てこいよ。留年して俺の後輩になってしまうぞ。」


ドアを叩いても返事がありません。開けろと冗談混じりに言いながらドアノブをガチャガチャと回していると、鍵がかかっていないことに気付きました。本当は良くない事ですが、状況が状況でしたので勝手に部屋に上がってしまいました。


部屋の中は彼の言っていた通り、特にボロいこともなく気味が悪いこともなく、本当に人が死んだのだろうか?と思ってしまいました。人が亡くなった後は管理会社の方が手配して隅々まで清掃されるでしょうから、実際のところは瑕疵物件と言えども普通の部屋と変わらないという事でしょうか。


「いるのか?勝手に上がるぞ」


と言いながら部屋を探索しました。彼の部屋は6畳ワンルームで、昔は彼の趣味の物が散乱していたはずですが、今は物はほとんどありませんでした。


色々と物色しましたが、特に気になることはありませんでした。


ただ、押し入れを開けてみると何か見たことのないアンテナとスピーカー?を組み合わせた様な機械がありました。


たまに団地などで衛星放送を受信するためにパラボラアンテナをベランダに設置されているのを見ることはありますが、なぜ押し入れの中に置いていたのでしょうか。外からアンテナを設置しているのを見られるのを避けたかったからでしょうか。スピーカーの様なものと組み合わされている理由も不可解でした。


その時も電源が点いていた様で、青色や赤色の光が非周期的に点滅していました。耳を近づけてみましたが、その機械から音などは何も聞こえませんでした。


結局、Aの足取りに繋がる物は見つからず、大学の事務方にも私の方からも連絡を付けることができなかったとだけ伝えました。




次の日、私はニュースを見て ー繧薙□ しました。


「【東京都××区警察官殺人未遂の疑い 大学生男逮捕】 東京都××区にて、○○日未明、警察官への殺人未遂として20歳男性(大学生)を逮捕しました。


同大学生は、被害者が職務に当たっていた際に『かみさまの声が聞こえなくなる』などと言いながら鋭利な刃物を持ち襲いかかったものの、急所は外れ軽傷に済んだとのことです。その後容疑者は逃走を図ったものの、応援に駆けつけた警察官に身柄を拘束されました。


被害者の警察官は所轄署において依存性薬物の取り締まりに当たっており、担当地域に拠点を持つ新興宗教団体が、活動の中で依存性薬物を収入源としていると考え捜査していました。現在、当該団体と容疑者との関連性を取り調べています。」




Aの身に一体何が起こったのでしょうか。ただ、私も時々かみさまの声が聴こえ始めました。





(この話はフィクションです。)

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