第39話 右腕



 ここはどこだ……?


 あたりが真っ暗でなにがなんだかわからない。俺はなんでこんなところにいるんだ? とりあえず、歩いてみることにした。


 すると……。


「いって……」


 顔が何かに当たった。


 当たったというよりかは、そこで行き止まりになっているようだ。手を当ててみると、そこが壁になっていることがよくわかる。


 そしてその事実を受けた俺は再び疑問に思った。

 なんでこんなところにいるのだ、と。


「やぁ。私に閉じ込められるのはどんな気分だい?」


 どこか聞き覚えのある、あまり良い印象がなかった声が耳に響いた。


「お前……あの、スライムか?」


 俺は声で思い出した。

 これは一度、スライムの中に入ろうとしたときに聞こえてきた『殺してやる』という声にそっくりだ。


 ここが何処なのかわからない。なぜここにいるのかもわからない。スキルの中だったらさすがにもう少し明るい。これじゃあ何も見えない。


「あぁそうだ。そうだとも。私は君たちが必死になって倒そうとしていたスライムだ」


「ここはどこだ? 俺はなんでこんなところにいる?」


 俺はこのスライムがなにか知っていそうなので、聞いてみた。


「ここは、お前の精神の中だ。そしてこの中に連れてきたのは私だ」


 俺の精神の中……。そしてここに連れてきたのはスライム。ってことは、俺は自分の中に隔離することに成功したのか?


「……おい待て。今お前、精神の中って言わなかったか??」


「ん? そういったとも」


「俺の本体は無事なんだろうな?」


 本体というのは体。

 ここがスキルの中じゃないのならば、本体が別にあると考えるのが普通だと思う。


「無事? ふふふ……そう聞かれると、無事だと答えるのが正解かな。まぁ、息はしていないけど」


 無事じゃなくて、息をしていないってことは今にも死にそうだっていうことなんじゃないか!? なんでそんなことを平然と言えるんだよ!!


「おい! 早くここから出せ!」


 俺は壁らしきものを叩いたり、蹴ったりしたがそこはびくともしなかった。下手したらここは木造の壁よりも硬いかもしれない。


 そんなの俺の精神世界にあるのか……?   

 いやまて。なにか引っかかる。


「おいおい。監禁しているのに、出せと言って律儀に出すバカがどこにいるんだ? 私はこれから憎い君のことをじっくりいたぶったて、ずっと半殺しのままにしてやる」


 スライムは「ぐへへへ……」という汚い笑いをしながら言ってきた。


 じっくりいたぶって半殺し……。もしかしてこいつはそんなことをで、できるとでも思っているのだろうか。


「お前はなにか勘違いしているようだな」


「あぁん? 何がだ?」


「ここは、俺の精神世界なんだぞ? なのになぜずっと俺のこと監禁できるなどと思ったんだ?」


 俺はそう言って監禁されていた場所から出る。

 出るというよりかは、出ようと思ったら出れた。まぁ俺の精神世界だからな。


 そこはスキルの中とは真逆で真っ白。目の前にある、黒く四角いもの以外はなにもなくただただ真っ白な空間がどこまでも続いているように見える。


 ここが精神世界……。


 本で見て知ってはいたが、初めて本物の場所に来れて興奮が隠しきれず、ニコニコしてしまった。


 こんな笑顔になっているとスライムのことをバカにしているように捉えられるかもしれない。


 ん? というか多分、ここにある真っ黒なものがスライム。俺が知っているのは緑色なので色が違う。精神世界に入ると体の色が変わるのだろうか……?


「ッチ。クソッ!!」


 スライムは見の危険を感じたのか、逃げようとした!


「おいおい……ちょっと待てよ」


 止める。


「ング!? 体が勝手に動いて……」


 ここは俺の精神世界。すべてを管理することができる。


 この場所は俺が完全に掌握している。なのに逃げようとするとは、このスライム。まだ自分がどんな状況におかれているのか理解していないようだな。


「なぁ。憎い人間のことを監禁しようとしていたのに逆に監禁されるのはどんな気持ちなんだい?」


「おい!! 早くここから出せ!! 私は、私は……」


 スライムはその場でピョンピョン、と体を動かそうとするがもちろん動かすことなどできず、少し体を浮かすこと位しかできていなかった。


 こう見ると、少しかわいいな。


「お前、なんで俺のことを憎んでいるんだ? お前になにかしたか?」


「それは、せっかく捕まえた君が勝手に逃げて行ったからだろッ!!」


 勝手に逃げていった?  

 それって、ティラの魔法で助かったときのことを言っているんだろうか。ていうか、それ以外にない。


「いや、もしあのまま捕まったままだったら確実に殺されていただろ!」


 俺はスライムに向かって反論する。


 身の安全を優先したというのに、それのどこがいけないんだ? そりぁあ誰でも殺されそうになったら逃げるだろう?


「あぁ。当たり前だ」


「――。なんで当たり前なんだよ……」


「魔物は、人間のことを襲って命を奪い取る。それがどうしたら当たり前じゃなくなるんだ? 私はスライムで、人間様の考えていることなんて知らない。ほら、説明してくれよ」


 スライムは自分のことを魔物だと理解しての考えを淡々と語り、問いかけてきた。


 たしかにこいつの言っている通り魔物は人間のことを襲って命を奪う。それは間違っていない。


「お前って、以外とほかの魔物と比べて知性あるんだな」


「……んな!? 何だその比較基準は!! 私とあんな下等種族と比較するな。せめてドラゴンぐらいなら比較してもいいぞ」


 ドラゴン……。まぁ、こいつはこんなんだが世界で二番目に強いとされているスライムだからな。たしかにそんなゴミみたいな魔物と比較されたくないよな。生意気な気がするけど。


「……魔物らしくないな」


「そんなの、私がよくわかってる。というか私もお前の精神世界に入るとき、物体としての私を捨ててきたからどこか変わっていると思うな。まぁ精神体となった今の私には、どこが変わっているのかなんてわからないんだがな」


 ん? 物体を捨ててきた……?


「もしかして物体を捨てたってことは、このままずっと俺の精神世界にいるとか言わないよな……?」


 俺の解釈違いだよな? こんなクソスライムがここにずっと居座ることになるのか? ……頼む。間違いであってくれ。


「あぁ。そうだが何だ?」


「まじかよおい……」


 最悪だ。最悪も最悪だ。こんなスライムが俺の精神世界に居座ることになるなんて……。


 てか、なんでこいつはそんな平然としてるんだよ。

 こいつ、俺の機嫌次第で消されるかもしれないの知らないんじゃないのか?


「今、お前にはこれからのことで3つの選択肢がある」


「なんで私の生き方を君になんか選択させられないといけないんだ?」


「とにかく、3つだ!」


「……聞くだけ聞こうじゃないか」


 俺が怒鳴るように言ったら、スライムは耳を傾けてくれた。こいつ、以外と話は通じるんだよな。


「1つ目は、お前のことをこの精神世界から消し去る」


「おいおい……そんなことしたら私が消えてしまうだろ。遠慮させてもらう」


 いや、そうなってくれるとこちらはとても嬉しいんだけど。まぁまだこれは1つ目だからな。即答だったけど、1つ目だからな。


「じゃあ2つ目。2つ目は、お前は俺が死ぬまでこの精神世界の端っこでゴミクズのようになってもてらう。もしろん五感すべて奪わせてもらうがな」


「ふゅ〜……そんなことしたら、退屈で死んでしまうだろ。それも遠慮させてもらう」


 スライムは、どこから発しているのかわからない口笛のようなものを吹きながら言ってきた。


 こいつ、本気になってないな。消されるぐらいな退屈なほうがまだいいだろ。死なねぇんだし。


「ならこれが最後だ。俺の右腕になれ」


「…………はぁ?」


 スライムは数秒遅れて返事をした。

 それも、ありえないということがよく伝わるような言葉で。


「お前それ、さっきまで殺し合いしてた魔物にいうことか?? 頭おかしいんじゃないのか??」


「あぁ……正直俺でも、自分のことがおかしいんじゃないかと思ってる。ちなみに、本気も本気だ」


 本気。こいつと少し話してみても別段、悪いやつには思えない。話は通じるし、魔物としての自分の立ち位置もわかっている。なにより、自分の考え持っているから。


「……右腕ってどういうことだ?」


 今度、スライムは即答せずに詳しく聞いてきた。

 よし。つかみはいいな。


「右腕といってもそれは比喩だ。明確に言うと、俺の知識になれ。俺は、迷宮内の魔物にめっぽう詳しくないからな。お前はずっと迷宮の中にいたからある程度の知識はあるだろ?」


 知識の穴をどう埋めるのか考えてみたのだが、長年冒険者として迷宮に入り浸っているような人たちには追いつくことができない。 

 

 ならばと考えたのが、この精神世界というのをうまく活用した方法。第三者に聞くっていうものだ。


「よし。それで我慢してやる」


 我慢してやるってことは、承諾したっていうことだよな? なんでそんな言い方するんだよ。


 そうか、このスライム。

 どこまでも傲慢な態度を貫くつもりだな。


「言い忘れてたけど、お前は俺がなにか聞くまで発言禁止。あと、俺の目から見えるものは共有してやるからありがたく思えよ」


「おい!! それを先にい……」


 その場から消えた。


  

  *



「――――!! っはぁ……はぁ……」


 喉が張り裂けるように痛い。目がズキズキと痛い。息をするのが苦しい。これがスライムが言っていた、息をしていなかったって言うことなのだろうか。


 視界の先には、涙でぐしゃぐしゃになったティラの顔。そして、その先にあるのは光を遮っているような白い布。


 どうやら精神世界から帰って来たみたいだ。だがここは迷宮の中ではない。ガタガタと地面が揺れている気がするので、馬車か何かだろうか?


「ロ、ロンベルトしゃん……」


 ティラの顔が視界に入ってきた。その目からは涙がボロボロと出ている。せっかくかわいい顔なのにもったいない。


 近くにいるということは、右手が何かに握られている感触はティラのものか。心配してくれていたのが伝わってくる。


「……え? おいみんな! ロンベルトの目が覚めたぞ!!」


 次に聞こえてきたのは慌てた様子のロットの声。

 そしてその声と同時に、地面が少し揺れる。やはりここは馬車で間違いないようだ。もしかしてみんなで迷宮からここまで運んでくれたのか? 


「お? 本当だ……おい! 元気か!?」


 ティラの反対側から顔を出してきたのは、ケモミミのザイラ。ザイラの声はそこまで慌ててはいなかった。  


 そして、俺の肩をぐわんぐわんと目一杯揺らして聞いてきた。こいつ俺がさっきまで死ぬかもしれなかったのによくこんなことできるな……。


「ロンベルトくんっ! だ、大丈夫ですか? 一体何があったんですか?」


 そんなことを思い苦笑していると、慌てた様子でザイラの手を止めてきたのはライラ。ロットなんか比にならないほど一番、慌てている。


 俺の返事を聞こうと、おどおどして落ち着きがない。


「はぁはぁ……まぁ、スライムといろいろあって勝ったぞ」


 勝った。まぁ、あれは勝ったって言えるだろう。

 もうあいつは人間に実害的な被害を起こすことはない。


 魔石には変わっていないのだけれど、あいつはもう俺の支配下……っていうとちょっと怖いけど支配下にある。だから勝った。もう、戦うことはない。


「勝ったらしいわよ!!」


「はっはっはっ!! さすが俺様だッ!!」


「え!? まじ!? 俺、石投げてただけなんだけど……よっしゃぁ〜!!」


「よ、よ、よ、よ、よ、よ、よ……」


 俺の言葉を聞いてみんな大いに喜んでいた。  

 一人だけ、ずっと同じ言葉を連呼しているのもいるけど顔が喜んでいるからみんなだ。

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闇の支配者〜無能だと言われ王族から追放された俺は、スキル【闇】を使いランクSSSの迷宮を次々と攻略していく!そして男の夢であるハーレムを築きながら“生きる伝説”を目指します!!〜 でずな @Dezuna

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