第39話 閉所での戦い

 ルスカが地下に降りるとそこは既に戦場になっていた。

 ギルド地下の設備を傷つけるわけにはいかない大柄な人間と気を遣う必要のない小柄なゴブリンとの戦いで、設備機械があるこの部屋は明確な閉所であり明確な有利不利が出ているように降りるための梯子の途中から見たルスカは感じた。

 梯子の途中で全体を俯瞰できる場所だからこその感想ではあるが、体調が万全ではないルスカ自身が今からその場に突入しようとしていることに少し二の足を踏む。

「今ならまだ戻れますよ」

 暗殺者の女性はルスカに向かって一切表情を崩さず真顔で問う。

「……いや、行きます!」

 少し躊躇いはあったもののルスカは急いで梯子を降りると足に柔らかいものを感じる。

 何かと確認しようと下に視線を移動させると既に呼吸をしていない男が寝かされていて。

「踏むなとは言えねぇけどよ!出来る限り避けてくれたらありがたい!」

 今戦っている傭兵の言葉から既にゴブリンによって殺された人間が居ることを察したルスカは再び二の足を踏むも、声をかけてくれた傭兵のそばに近づき状況を確認する。

「どうすればいい?」

「機械を壊しちゃいけねぇから武器をまともに振れない!下手に手助けしようと思わないでくれ!」

「武器が振れない……」

 傭兵の言葉通り地下の部屋にはルスカが今まで見たことのないような鉄の装置や見た目では分からないものの熱を持った複数の管が血管のように伸びていてショートソードのような通常の屋内で振るうことを考えられたような武器であっても戦闘は難しいということをルスカは感覚で認識する。

 ルスカの格闘術はそれらの武器よりはまだマシではあるものの、イネから教えられた技術としては相手の攻撃を受け流したり躱したりといったものが多くまともに横への移動スペースを確保できないこの空間では実力はうまく発揮することは出来ない。

 しかしそんな中にあっても的確に相手を仕留める者もいる。

「確かにこの街で裏仕事でもやっていなければこういう場所での動きは難しいでしょう」

 暗殺者の女性ははしごにつかまった状態で投げナイフや大きめの針を投げてゴブリンの数を減らし、ゴブリンに押され気味だった通路で防御していた傭兵と入れ替わるようにして素早くゴブリンの手首等を狙い筋を斬って無力化することで押し返す。

「すげぇな……ってテメェ!」

「あらあなたは。あの時はどうも」

「お前のせいで半月野宿になったの忘れてねぇぞ!」

「裏社会の連中から金を借りて返さない方が悪いでしょう、命があるだけマシと思ってください」

 そのようなやり取りが聞こえてきたがルスカにはその内容に思考を巡らせる余裕はなく、隣の通路で仲間がやられたことで動揺するゴブリン、防御に徹していた傭兵の気もそがれていたことでその隙を狙って攻撃してくるゴブリンの2匹が居たのをしっかり確認していたルスカは考えるよりも早く身体が動いていた。

 節々や筋組織はまだ軋むような痛みをルスカは感じるが、村で基礎訓練と同時にやっていたロイとの組手での動き、武術という技術が無意識で繰り出していた。

「グギャ!」

 ルスカが無意識に突き出した拳はゴブリンの鼻の下、人間であれば人中に当たる場所に当たっていて攻撃をしてきていたゴブリンは勢いよく後方に倒れて身体を細かく震わせた。

 反撃をそこまで予想していなかったのかゴブリン達は2つの通路で仲間がやられたことで動揺を見せて何匹かが扉から部屋の外へと逃げだしたその時、部屋の外で何か巨大な板のようなものが通り地下全体に響く程の大きな衝突音が聞こえてそこにいる全員が動揺する。

「今だ!」

 誰の声なのかはわからなかったが、部屋で戦っていた傭兵はその声に反応してゴブリンを押し返し始めた。

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武闘士ルスカ 水森錬 @Ren_Minamori

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