第28話 神島静香
『文芸部、全員集合。タイムカプセルを見つけた。部室に至急集まれ』
私はこのメールを無視して、嵐吹公園にある、大きな木まで来ていた。そうか、タイムカプセルがあったんだよな。
なんでそのことに早く気付かなかったんだろうか。もっと早く気付けていれば、もっと良い手があったかもしれないのに。
私はこの後起こるであろう結末を想像する。想像するだけで怖さを感じてしまう。タイムカプセルが見つかった以上、この先の展開は避けることはできない。
司が誰を選ぼうが私は構わない。人の感情はコントロールできるものではないからな。
だけど、私には解決しなければならない問題がある。それは自分自身を納得させるために。そして……
『ガサッ』 と、茂みから音が聞こえてくる。
「そこにいるのは分かってるぞ」
「……」
そう声を掛けても茂みから出てこようとはしてこなかった。
そうだよな、メールで呼び出されているはずなのに、ここにいるのはおかしいからな。あのメールを受けて部室に行かないとしたら、一人しかいないはずだ。
「出てこないなら、そのまま話を聞いてもらおうか」
出てくる様子もないので、私は話を続ける。
「ここにいるってことは、そこにいるお前が、司の探しているXなのだろう?」
再び、茂みから『ガサッ』と音が鳴る。分かっていることだが、これで全く関係ない人がいるということではないと確信する。
「正体は分かっている。早く出てきたらどうだ……美晴」
私はXの名前を口にした。もう誤魔化しきれないと判断したのか、美晴は茂みから姿を現した。
「よく、Xが私だと分かりましたね。これでも十分騙せてたと思うんですが」
「私たちはな。でもな、文芸部にはもう一人頭が良いやつがいるんだ」
すると、美晴の頭にはある人物が浮かび上がったのだろう。美晴のソイツの名前を口にした。
「星川先輩ですか? 確かに星川先輩もだいぶ候補は絞り込んでいたみたいですけど、正体がわたしとまでは……」
やはり、祐一だと思ったか……、祐一ばかりに気を取られてしまったから、私がここにたどり着けてしまったのだから、美晴の唯一のミスだな。
「いいや、祐一じゃない」
「それじゃあ、誰なんですか? X探しのことを知ってる人で感が鋭い人はいないと思ったんですけど」
私は文芸部で一番優れている人物の名前を口にした。
「静姉さ」
美晴は一瞬、理解が追い付いていない様子だった。それもそうだろう。美晴も私と静姉がいとこ同士だなんて知らないのだからな。
「静姉? もしかして、静香先輩のことですか? 紗絵香先輩のお姉ちゃんだったんですか?」
「いいや、静姉は私のいとこさ。小さい頃から色々と相談に乗ってもらっていたんだ。今回のことも静姉に話したらすぐに正体に気づいたぞ」
「凄いですね、どこで気づいたんでしょうか?」
私は静姉との会話の内容を伝えることにした。それは司が事故を起こした日まで遡る。
――――――――――
「千里ちゃんのことを気にかけてあげてね」
静姉が発した言葉に私は理解が及ばなかった。何故千里を気にかけてあげる必要があるのか。
「その顔は理解が追い付いてないって顔だね」
「そりゃそうだろ。突然そんなことを言われても分からないって」
静姉は私が理解できていないのを見て楽しそうにしている。
「そうだね、じゃあ、Xの正体を最初に話した方が良かったかな」
「Xの正体って……静姉分かったの?」
「うん、簡単だったよ」
いったい私が話した情報だけでどう推理したというのだというのか。私たちはここ一週間、手掛かりを見つけるだけでも苦労したというのに。
「Xの正体は美晴ちゃんだよ」
静姉の口から告げられたのは予想もしていない人物だった。
「……美晴だって?」
そんなはずがない、だって美晴は……
「だって美晴は一緒にXを探してたって言いたいんでしょ?」
小さい頃から当たり前のように心を読んでくるので、今ではもう慣れてしまった。
「それが盲点だったんだよ」
確かに、X探しをすると言ったときに、名乗りださなければ、まさか身内にXがいるとは思わない。
「でも、静姉どこで分かったんだ? 私には全く分からないが」
「じゃあ、順を追って説明しようか」
「頼む」
静姉は私にも理解できるように初めからゆっくりと説明し始めてくれた。
「まず、司君がXの記憶を思い出した場所はどこだった?」
「小学校と、河川敷だな。あと意味ありげに見ていたポスターを含めたとしたら、図書館もだな」
先生に会ったことや、川に落ちたことで司は記憶を取り戻していったんだ。
「その時、美晴ちゃんはどうしてたんだっけ?」
「美晴はついてきてなかった」
確かに、美晴はなぜか司が記憶を取り戻したとき司の側にはいなかった。何かしら理由をつけて一緒に来ることはなかった。
「でしょ? 話を聞いてる限り、私には美晴ちゃんはわざと司君との思い出の場所へ行かなかったように見えちゃうんだよね」
「確かに言われてみればそうだな。でも、偶然ってことは?」
「それもあるかもしれないね」
確かに美晴には変な様子がここ最近見受けられた。だからといって、本当に美晴は司との思い出の場所だけを避けていたのだろうか。
「美晴ちゃんがことに初めて来たとき、紗絵香ちゃんはいなかったよね」
「ああ、確かその時いたのは、静姉と司だけだったはずだよな」
私と千里、祐一は家の用事などもあり、その日だけ部室に行っていなかった。
「うん、そのときね、司君が美晴ちゃんに聞いたんだ。ここに来る前どの仮入部に行ったかって」
「何か関係あるのか?」
「うん、大アリだよ。美晴ちゃんが行ったん部活っているのがね、水泳部、書道部、囲碁将棋部なんだって」
「それで?」
「何か気づかない?」
「何かに気づかないって…………あ、その部活、全部……司が小学生の時にやっていたものだ」
私が答えにたどり着くと、静姉はニコニコ笑っていた。この人は私が問題に正解にするたびに喜んでくれる。
「正解」
「それで、美晴がXだって気づいたのか」
「まあね、Xと司君は親しいはずだし、美晴ちゃんと司の距離の詰める時間は異様に早かったのを覚えてるからね」
そうか、美晴がXだったのか。じゃあ、美晴は何故司に正体を現さないのだろうか。事故に遭ったことは私が教えてやったから美晴も知っているはずだし、怒っているわけでもなさそうだが……
「Xが美晴ってのも分かった。でもなんで、千里を気にかけてくれ頼むんだ」
「それはね」
『ダンッ』と部室の扉の向こうから音が鳴る。誰か来ているのかと思い、扉を開けるが誰もいなかった。気のせいだろうか。
「ごめん、静姉話を続けて」
この後、静姉の話を聞き、そして司が事故を思い出し、行き先がXの住む街だと聞いたことで、私は何故美晴が司の前に現れなかったのか理解した。
――――――――――
「なるほど、意外な伏兵でした。まさか正体がバレてしまうとは」
「ああ、静姉は正真正銘の化け物だ。あの人に勝てる人はこの世にはいないかもしれないな」
あの千里でさえ、静姉にはかなわないのだ。いったい誰が、あの人に勝てるのだろうか。
「紗絵香先輩たちが私の正体に気づけたのは分かりました。でも、なんでそのことを司先輩に話さなかったんですか? そうすればもっと早くX探しが解決してたじゃないですか?」
「それはな……」
司が美晴と大事な約束をしていたにも関わらず、私は司に正体を教えようとは思わなかった。それは静姉が千里を気遣ってくれと言われたからだけじゃない。
千里の親友として、司の幼馴染として、美晴の本心を聞きたかったからだ。
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