第27話 過去からの贈り物

 メールを見た時、僕は最初首をかしげた。タイムカプセルなんていつ埋めていたのかと。


 でも、事故の間に埋められていたのなら、覚えていないのも無理はないか。そんなことを考えながら、部室についた僕は扉を開けた。


 部室にいたのは祐一ただ一人だけだった。


「他のみんなは?」

「まだ来てない」


 部員全員学校にいるはずだから、部室に来るまで時間はかからないはずなんだが、まだメールを見ていないのだろうか。


「みんな来るの待つ?」

「いや、その必要はないだろう。結構待ったつもりだが、ここに来ていないっていうのは、来たくない理由があったんだろうからな」


 それはどういう意味と聞こうと思ったが、祐一は手際よく、タイムカプセルの中身を取り出した。


「タイムカプセルなんて作ってたんだね」

「小学校の卒業式の時にな、俺たち四人だけのタイムカプセルを埋めたんだ」

「それでさっき、タイムカプセルという言葉に反応してたんだね」

「ああ、おかげでタイムカプセルを埋めていたことを思い出した。今まですっかり忘れてたぜ」

「でも、急にどうしてタイムカプセルを持ってきたの?」


 タイムカプセルの箱には『十年後に開ける』と書かれていて、まだ埋めてからは十年も経っていない。


「これを埋めたのは卒業式の日だと言ったな」

「うん」

「つまり、司がXのことを覚えている時のものだ」


 鼓動が早まるのが分かった。祐一がタイムカプセルをここへ持ってきた理由さえも。


「……ということは、もしかして」

「ああ、俺の予想ならこの中に手掛かりがあるかもしれない」


 祐一のおかげで真相にたどり着けるかもしれない。胸が高まる中、タイムカプセルと書かれた箱に手を伸ばすが、その手を祐一は掴んだ。


「待て、開ける前に一つ良いか?」

「なに?」


 いつになく真剣な顔をする祐一。ここまで来てやっぱ無しというのはやめてくれよ?


「もし、Xのことが書かれてたとして、お前はどういう決断をするつもりなんだ」


 祐一が聞きたいのは僕がXと付き合うのか、そんなところだろう。


 Xと約束をしていたと知ってから、僕はずっと悩んだ。悩んで悩んで、やっと一つの答えが出た。


「それはもう決めているんだ」

「そうか、なら司の判断に任せる」


 祐一はそれ以上は何も聞いてこなかった。あくまでもこの問題は僕自身にあると分かってくれているからこそ、しつこく聞いてくることはしない。


「じゃあ、開けるぞ」


 僕が頷くと、祐一はタイムカプセルを開いた。


 中を開けてみれば、傷んだおもちゃなどが入っている。昔の思い出として、残したものなんだろう。


 僕の目を一番に奪ったのは四つの小さなカプセルだった。それぞれに、司、祐一、紗絵香、千里と名前のシールが貼られていた。


「これは?」


 僕は自分の名前の入った小さなカプセルを取り出し、祐一に見せる。


「これは、十年後の自分に宛てた手紙だ」

「十年後の自分に?」


 カプセルの中を開けてみれば一枚の紙が折りたたまれて入っていた。


 僕はその手紙に目を通した。


『十年後の僕へ

 元気にやっていますか? 僕は今とても楽しいです。祐一や千里、紗絵香と遊んでいて、毎日がとても楽しいです。

 この手紙を読んでいる僕はもう二十二歳だから、そろそろなんの仕事に就くか決まっているころですか? 就職活動は大変だったと思いますが、働く先が決まっていればなによりです。

 祐一たちと今でも交流はあるでしょうか? ずっと大事な幼馴染なので今でも交流があれば嬉しいです。

 あと、もう一つ僕は心配なことがあります。ちゃんと、僕は高校になって会えたのでしょうか。ちゃんとデートに誘うことが出来ましたか?

 ヘタレですから、それが一番心配です。初恋の……

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