第24話 初めての出会い
土部は最後に爆弾を投下して帰っていった。アイツ、僕が美晴をデートに誘いに来たと勘違いしていたんだな……。
まあ、美晴に会いに来たのは間違いないから否定はできないのだけれども……
「日向先輩、美晴をデートに誘いに来たんですかぁ?」
土部の爆弾発言を聞いて、にやにやしている一年。
「だから、土部に看板を私に来たってだけだって。というか今見てただろ」
「ほんとうですか?」
これ以上何を言ってもこの子には無意味だろう。完全に美晴に会いに来たことが
目的だと分かっている。
どうすればいいんだろうか、この雰囲気。美晴は美晴で指で髪をくるくる巻いて恥ずかしがっているし……
「美晴、せっかくだし先輩にお店の中案内してあげれば?」
「へっ⁉ なんで?」
「なんでって、まだ交代の時間じゃないからここから離れられないし、だったら交代まであと少しなんだし、先輩と縁日を楽しめばいいじゃない……」
「でも、先輩は看板を届けに来ただけって言ったし……」
はぁ~とため息をついてから夕香はこちらに顔を向けてきた。
「先輩、この後って予定ありますか?」
「とくにはないかな、ただ劇を三時頃に見に行くぐらいで」
「なら、美晴と回ればいいじゃないですか?」
「え?」
ほらほら行った行った、と追い立てられるように、僕と美晴は教室の中に放り込まれた。
「……どうします?」
「……せっかくだし、一緒に回ろうか」
ここまで来たら、美晴と回らない理由はないだろう。美晴の案内の元、僕は美晴のクラスの催し物である縁日を楽しむことにした。
教室であるため、場所が狭く、あまり多くの店は出せていないが、射的や、わなげ、焼きそば等と出来る限り、縁日にあるようなお店が作られていた。
「先輩この後はどうする予定なんですか?」
「神島先輩のところ行く以外には決まってないから、美晴ちゃんが行きたいところに任せるよ」
「そうですか、もう少ししたら交代の時間になるので、動きやすい服装に着替えてきますね。そしたらどこか出掛けましょうか」
「その格好で回るわけじゃないんだね」
「それはそうですよ。この格好で学校回るのは大変ですし、それに恥ずかしいですし……」
「でも……浴衣、美晴ちゃんにとてもよく似合ってるよ……」
前回私服を褒められなかったので、今回は頑張って褒めてみることにした。だけど、美晴の反応はキョトンとした顔をしたままだった。
「あ、ありがとうございます……」
「……」
妙に照れ臭くなってお互いに目を逸らす。
「じゃあ先輩、私着替えてきますので少し待ってください」
この空気感に堪えれなくなったようで美晴は足早にこの場から去っていった。
僕は美晴の後姿をただ眺めていた。
浴衣姿が見えなくなるのが惜しいというのもあるかもしれないが、何故だか目から離れなかった。
美晴の姿が扉によって完全に見えなくなったので、僕は焼きそばを二つ頼むことにした。一つは美晴の分だ。
美晴はこの自由時間はカメラ担当になる。どういった手順でクラスを回るか考えながら食べようと思い、注文した。
祭りで食べる焼きそばは他で食べる時と少し違う気がする。僕は祭りに行けば必ずと言ってもいいほど焼きそばを食べている。
毎年、夏にはこの学校の隣の嵐吹公園で祭りが開催されている。この祭りだけは毎年欠かさず行っている。たぶん記憶のない期間も行っているだろう。
頼んだ焼きそばを受け取り、飲食スペースと確保されたところで美晴を待つことにした。
本当は袋が欲しかったところだが、すべてなくなってしまったらしく、パックのまま持っている。
ただ、持っていると熱が伝わってくるので出来立てだろうと言うことが簡単に推測できる。
両手で焼きそばの入ったパックを持ったまま、椅子に座った。
おいしそうだな……
『ねえ、なんで焼きそば二つも持ってるの?』
「え?」
誰かに話しかけられた気がしたので辺りを見渡すが、誰も話しかけてきたそぶりはなかった。
なんだ今の?
『わたし? わたしはお母さんとはぐれちゃったんだ』
まただ、一体なんだこれは……、もしかしてXとの記憶?
僕は縁日でXと会ったことがあるのか?
『司君っていうんだね』
その言葉とともに僕の目に再び映像が浮かび上がってきた。
――――――――――
「みんな、どこへ行ったんだろうか」
小六の夏、僕はいつものメンバーで近所の祭りに来ていた。初めのうちは一緒に動いていたのだが、焼きそばを買っているうちに三人とも姿を消していた。
「とりあえず、高いところへ行ってみるか……」
人を探すのであれば高いところだと考え、この公園で一番大きい木がある場所へと向かった。
この木に名前があるのかは知らないが、近所に住む人が大きな木と言えばこの木を思いつくほどには大きい。
その場所に向かっている最中に『ビュッ』と強い風が吹いた。そしてその風に乗って流れてきたのか、一枚の布らしきものが僕の顔に飛んできた。
「なんだ、これ?」
広げてみれば女の子ものの一枚のハンカチだった。
「風で飛ばされてきたのか」
たった今、持ち主から飛ばされたのであれば、すぐに向かえば渡せるかもしれない。そう考えた僕は風が吹いてきた方向へと歩いて行った。
風が吹いてきた方角はちょうど司が向かっていた、大きな木のところだ。
目的の場所が見えてきて、大きな木の方を見れば小さな人影があるのが分かった。その子が持ち主だろうと思い、勇気を出して声を掛けてみた。
「ねえ、このハンカチ、キミの?」
そこにいたのは浴衣を着た女の子だった。背丈は僕と変わらず、同じくらいの年なのだろうか。
「……そう、わたしの。あなたが拾ってくれたの?」
「さっき風で飛んできたんだ」
女の子はハンカチを受け取ると大事そうに抱えた。
「このハンカチね、去年の誕生日の時にお母さんが買ってくれたものなの、だから拾ってくれてありがとう」
ハンカチが飛ばされたことに悲しかったのか、その女の子の目には泣いた跡があるのが分かった。
「キミはどうしてこんなところに一人でいるの?」
この場所の近くには屋台は何一つとして開かれていない。祭りの時にこの場所にいるのがフシギに感じてしまう。
「えっとね、家族で来たんだけどね、お母さんたちがどこにいるのか分からなくなっちゃって」
どうやら迷子のようだ。それで女の子が一人でこの場所に来たんだろう。目的は僕と同じく高い位置から探すために。
「ねえ、なんで焼きそば二つも持ってるの?」
「そっか……お腹すいてるの?」
迷子の女の子は司が持っていた焼きそばに目を奪われていた。
「え、いや……うん、少しすいてるかも……」
最初は意地を張ろうとしたらしかったが、すぐにお腹の音が鳴り、お腹がすいていたことを認めた。
「食べる?」
僕は持っていた一つの焼きそばを女の子に渡す。
「いいの?」
「うん、お腹すいてたらお母さん探すのも大変でしょ。これ食べてたら一緒に探そう」
「ありがとう」
女の子はお礼を言い、おいしそうに焼きそばを頬張る。
焼きそばを食べながら女の子の緊張を和らげるために話をした。
女の子は近所に住んでいることや、同じ小学校ではないこと、僕と同じ十一歳であることなど、話していく中でお互いのことを知っていった。
焼きそばを食べ終わって、それほど時間を経たずに、誰かが女の子を探す声が聞こえてきた。
「あの声、お母さんだ」
すぐ近くまで母親が探しに来ているらしく、女の子がお母さんを見つけると、大きく手を振った。
「ありがとうね。おかげで寂しい思いをしなくて済んだよ」
「ううん、こっちこそ、お話できて良かったよ」
そう言葉を交わした後女の子は母親の元へと駆け寄っていった。だが、すぐに歩みを止めて、こちらに振り返った。
「そういえば、まだ名前を教えてなかったね」
あんなにしゃべっていたにお関わらず、自分たちの名前を言っていなかった。
「そうだったね、僕は日向司だよ」
「私の名前は**。司君、またどこかで会おうね」
そう言い残して今度こそその女の子は司の前から去っていった。
―――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます