第22話 一日目の幕引き

 お化け屋敷を楽しんだところで僕たちのクラスの交代の時間がやってきた。


 カメラを紗絵香に渡し、僕は接客衣装に着替える。祐一も美晴にカメラを渡せたようで教室に戻ってきた。


「後半のみんなも頑張るぞ!」


 後半を担当する一人のクラスメイトの鼓舞とともに、クラスメイト達は各自の配置につく。


 ちょうどお昼時ということもあり、多くの客さんが教室へ訪れた。注文を受け、料理を受け取り、お客さんに渡す。この作業を何十回も繰り返したところで、お客の足も緩やかになってきた。


「だいぶ落ち着いてきたな」


 僕にそう声を掛けてきた祐一は少し疲れている様子だった。さすがに何十人もののお客さんを相手にするだけで、かなりの疲労感が溜まっている。


 この様子だと、料理をしていた千里はもっと疲れているのだろう。あらかじめ料理は作り置きしていたのだが、予想以上の人数にあっという間に作り置きは無くなってしまった。


 もっと多く作り置きすることもできたことにはできたのだが、お客さんに出すと言うことで長時間放置というのは衛生面的にも問題があるため、その案は却下されていた。


 その後もやってきたお客さんに丁寧に接客しつつ、文化祭一日目は残すところ三十分となった。


 さすがにこの時間になってくると、喫茶店に足を運ぶ人たちは極端に減ってきた。やってくるお客さんも料理を目的というよりは、一休みする場所として使われている雰囲気がある。


 僕たちもこれ以上客が来ないと判断し、背筋を伸ばしたり、軽い立ち話をし始めた。


「お客が来ているのに、休んでるんじゃないぞ、司、祐一」


 扉の方に背を向けていたため、後ろから突然話しかけられ驚いた。


「なんだ、紗絵香か、驚かせるなよ」

「まだ終了まで時間が残ってるんだから、気を抜くなよ。ほら、お客さんが来ているぞ」


 紗絵香の視線の先を見れば、美晴の姿がそこにあった。


「あれ、美晴ちゃん? どうしたの?」

「先輩たちのお店に遊びに来たのですけれど、まだやってますか?」

「うん、まだ大丈夫だよ。それじゃあ、席に案内するね」


 美晴を席に案内し、百円のケーキの注文を受けた。ケーキは常温で置いとくわけにもいかないので、調理室の冷蔵庫を借りて冷やしている。注文を受けたら、その都度冷蔵庫から取り出して、お客に提供していた。


 ケーキの注文が入ったと伝えると、ケーキを持った千里がやってきた。調理室から料理を運んでくる仕事がいるはずだが、何故か調理担当の千里がこちらに来た。


「なんで、千里が?」

「もう調理もやることないし、片付け終わっちゃったからね。それに美晴ちゃんが来てるなら、味の感想直接聞きたいじゃない」


 美晴から味の感想を聞くためにわざわざ教室へ戻ってきたらしい。


「どうぞ、美晴ちゃん」

「ありがとうございます。これ、千里先輩の手作りなんですか?」

「うん、そうだよ。ちょうどラスト一個だったから美晴ちゃんに食べてもらえて良かったよ」


 このケーキは朝早く来て千里が作ったものだ。文化祭が始まってからでは作れないため、五十人分用意していたはずだが、もうすべて売れきれたらしい。


「美味しいです。こんなに美味しいケーキ、どうやって作ったんですか?」

「なら、今度教えてあげるよ」


 美晴がおいしそうに食べているのを見て満足そうにしている千里。作り手にとってこんなに美味しそうな反応をしてくれるのは嬉しいことなんだろう。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」


 美晴からケーキの代金を受け取り、美晴が使った食器を片付ける。その横で千里は美晴に明日のことを聞いていた。


「美晴ちゃん、明日って午前中仕事だよね」

「はい、お店にいますよ」

「あたし、その時間は自由時間だから、美晴ちゃんのクラスに行くね」

「じゃあ、楽しみに待ってますね」


 千里を羨ましいと思ってしまう。午前中は宣伝である僕は、美晴と同じ時間に仕事に入ってしまっている。そのせいで美晴が仕事をしている時間に遊びに行くことはできない。


「司先輩もお疲れ様です。残り時間も頑張ってくださいね」


 ありがとうと返事をし、美晴は喫茶店から帰っていった。美晴が帰ったあとに誰かが来ることはなく、この日の仕事は問題なく終わることができた。

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