第21話 最後の思い出に
「最後のスタンプどこにあるんだろうね」
「解き方は間違ってないはずだから、あると思ったんだけどなぁ~」
五つ目のスタンプの場所である受付を見に行ったのだが、どこにもスタンプらしきものは置いてなかった。
そして、今僕たちは答えが間違っていないか、校舎の中をぶらぶらと回りながらスタンプ用紙を眺めていた。
「受付って他にもあったっけ?」
「え?」
僕がそんな風につぶやくと、千里の足が止まった。そして、スタンプ用紙をもう一度見てフフフと笑った。
「やられたね、受付は昇降口前のものを指してるんじゃなかったみたいだよ」
「もしかして、解けたの?」
「うん、危ない危ない。危うくゲームに負けちゃうところだったよ」
どうやら、千里には答えを導き出したらしい。
「それで、どこに最後のスタンプはあるの?」
「最初の受付だよ」
「受付って、昇降口にはなかったじゃない」
「そこじゃなく、この宝探しをやってる一年B組の受付だよ」
「なんでそこなの?」
「用紙を見てみて」
千里が指さしたのは『最初の場所で待つ』という文だった。
「この宝探しの最初の場所と言ったらB組の受付でしょ?」
「確かにそうだけど……」
「それに、受付にスタンプを置いてたじゃない? わざとらしくあたしたちに見せるように」
「考えすぎじゃない?」
偶然とも考えられるが、千里はそうとは思わないらしく、他に行く場所も思いつかない僕は千里についていくことにした。
宝探しをやっているクラスに着くと、千里は謎解きの用紙を受付スタッフに見せた。
「スタンプ四つしか押してませんけど、ギブアップということでよろしいのでしょうか?」
「ううん、最後のスタンプを貰いに来たんだよね」
「というと」
千里の言葉に首を傾げてはいるが、本当に分からないと言った様子ではないことが分かる。あの感じはとぼけている様子だ。
「最後のスタンプの場所は受付。そしてその受付はここ。それでスタンプはあたしたちに見せたそのスタンプだよね」
千里による探偵かのようなスタンプの場所の推理を聞いた受付スタッフは手をパチパチと叩いて「おめでとうございます」と言ってきた。
見事、千里の推理はあたりだったというわけだ。
「よく分かりましたね、クラスでこの案が出た時は誰も分からないと思ったんですけれど」
「まあね、いっぱい謎解きしたりしてるから、疑り深いのかも」
最後のスタンプを押してもらった僕たちは商品となるお菓子の詰め合わせを貰い、その場を去っていった。
「凄いね千里。おかげでこんなにお菓子もらえたよ」
「凄いでしょ、司もあたしみたいに謎解きやってればこれぐらいできるようになるよ」
千里はそういうが、さすがにそこまでは無理だろう。四つの謎解きもそうだが、普通解き方が分かってもあんなに早く解くことなんてできないだろう。改めて千里が天才であるか理解させられたよ。
「あたしはもう満足したし、今度は司の行きたい場所にいこっか」
「じゃあ、部活の催し物をしているところで」
そろそろ部活の方の催し物の撮影をしないといけない。僕はその中で興味の引かれた部活の場所へと行くことにした。
「どうです、一問解いていきませんか?」
訪れた場所は囲碁将棋部だ。催し物と言っても部室を開放して、囲碁や将棋を指していたり、詰め将棋をしたりしているぐらいだが。
「じゃあ、一問だけ」
せっかくここまで来たので僕は詰め将棋を解いてみることにした。将棋部の方から一枚のプリントを渡され、底には詰め将棋が描かれていた。
相手の駒が『2二王、2三金、3二銀、4四角でこちらの駒は2四金と4一龍で持ち駒が角と銀であった。
千里が紙をのぞき込んで悩みこんでいる横で、僕はスラスラと答えを書き、将棋部へ渡した。
「……正解だよ。ねえ君将棋部はいらない?」
勧誘を素早く断り、僕たちはその場から立ち去った。
「凄いね司、すぐにあんな問題解いちゃうなんて」
「一時期将棋にハマってたからね」
「そういえば、最初の頃は勝ててたけど、途中から一度も勝てなくなったなぁ」
小学生のころは僕は将棋を家で指していた。その理由は千里に何かしら勝てるものを探してたからだ。
小さい頃から千里には何をやっても勝てなかった。だけど、そんな時に見つけたのが将棋だった。スタート地点は一緒だったからこそ、それだけに費やしていた僕は勝つことができた。今は昔ほど指すことは無くなっているが時々祐一と遊び程度で指すことはある。
「そろそろお腹すいたし、何か食べにいこう」
飲食店を開いているクラスを調べ、昼食をとることにした。
*
昼食を済ませた後、二年D組との約束の時間まで近づいため、あたしたちはお化け屋敷へと足を運んだ。
「文芸部の方、お待ちしてました。いまちょうど点検が終わったところですので、ぜひ入ってください」
写真を撮ることは許可されたけど、カメラは落とさないように気を付けてほしいと言われた。カメラが壊れた時責任が取れないもんね。暗闇だと思うから司には注意しててもらおう。
お化け屋敷の中に入ると、手渡されたライトは前の方が少し照らせる程度の明るさしかなかった。
私は司の裾を掴んだ。ライトは司に渡しているため、どれぐらい歩く歩幅があるかさえ分からない。離れたら迷子になってしまうと思い、あたしは司の後ろにくっつくことにした。
目の前から人形が落ち着てきたり、横から驚かされたりとお化け屋敷ならではの怖さがあった。司も驚いた反応をしていたので、後ろから見てて面白かった。
無事出口から出たころにはクラスの交代の時間が迫ってきていた。
「司、今日は付き合ってくれてありがとうね」
「ううん、僕も楽しかったよ」
あたしはとても楽しかった。
昔みたいに二人で遊んでいるようで。
この時間がずっと続いてほしいと思った。
でも、それはあたしにはできないんだ。
今日でこうやって司に甘えられるのは最後……
「おかげで最後に良い思い出ができたよ、ありがとう司」
あたしは司に聞こえないような声でそうつぶやいた。
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