第20話 宝探し

 一年B組に着くと、こちらはそんなに混んでいなかったためすぐに入ることができた。


「いらっしゃいませ、二名様の挑戦でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「難易度はどれにしますか? 簡単から難しいまでありますが」

「激ムズで」


 選択肢からないものを選択していたが、用意はしているらしく、承りましたと言われる。


 受付スタッフからルールが説明される。

・制限時間は一時間

・学校に置かれたスタンプを五つすべて集める。

・スタンプの置かれている場所のヒントは渡された紙に記載されている。


「各地にこのようなスタンプが散らばっているので、ぜひ集めて来てください」


 受付スタッフは机の上に置いてあったスタンプを僕たちに見せた。


「では、今の時刻を記入しましたので、一時間以内に戻ってきてください。すべてのスタンプを集められた方には商品もありますので、一生懸命頑張ってください」


「じゃあ、行くよ司!」

「そんなに焦んなくてもいいって」


 その声も千里には届いていないらしく、歩みを速めていった。しばらく千里の背中を追いかけたが、足が止まるのを見て、僕は千里に切り出した。


「千里、一回問題見せて」

「ごめん、見せるの忘れてた」


 千里は宝探しに夢中になりすぎたせいか、僕に問題を見せずに一人で動いていた。千里から紙を受け取り、ヒントを確認する。


~~~~~~


私の宝を探してくれるとはうれしいかぎりだ。 ①□

だが、そう簡単に宝は見つけられんぞ。    ②□

私は最初の場所で待つ。           ③□

では、けん闘を祈る。            ④□

                      ⑤□


①「はひきさち➡」

②「15・1414・71・1121・199・2021」 

ヒント「あき=1・119」

③「一日に二二回重なる場所で待つ」 

④「q・e・e・h・t・y」 ヒント「さそり=x・c・l」


~~~~~


 スタンプは五つと言われたのだが、ヒントは四つしか書いていなかった。スタンプを押す場所は一つ目から四つ目のスタンプは最初に書かれていた文章のそれぞれの行の下に枠があり、五つ目のスタンプを押す場所は四つ目の隣にあった。


「それで、千里はどこに向かってるの?」


 問題を見てから千里はある場所に向かってずっと歩いている。適当に歩いてスタンプをみつけるつもりなのだろうか。いや、千里に限ってそれはないはず、純粋に楽しむはずだ。


 店側もそれを考慮してるだろうし、難易度によってスタンプも変わっているだろうから答えが分からないとスタンプを見つけても押せないだろう。


「とりあえず、一つ目の被服室に向かってる」

「え、問題もう解けたの?」

「簡単だったよ」


 千里は問題をそんなに長く見ていなかったが、一瞬で答えをひらめいたのだろう。つくづく、千里のばけものじみた頭の良さに驚いてしまう。


「どうして被服室なの?」

「下矢印があるでしょ。①の文字を一個ずらして読んでごらん」

「……ほんとだ、ひふくしつってなる」


 解き方を聞けば簡単に答えが分かるが、なんでそんなに早く解き方が分かるんだろうか。


「この問題は結構見る問題なんだよね」


 それですぐに分かったと言うことか。さすがに残りの三つまではすぐに解けないだろう。


「ちなみに私は④までは全部わかってるよ」

「え?」

「大丈夫安心して、司が解けるまで答えは言わないから」


 やっぱり千里は化け物だ。僕はそう思わずにはいられなかった。


 被服室に着くと、答えの通りスタンプが教室前に設置されていた。スタンプを決められた場所に押すと『13』の数字が紙に写った。


「スタンプっていうからキャラクターとかだと思ったけど、数字なんだね」

「もしかしたら五つ目のヒントなのかも」


 なるほど、四つのスタンプを集めることで五つ目のスタンプの場所が浮かび上がるということか。


「それじゃあ、残り三つの問題も解いちゃおう」

「でも、僕全く見当がついてないけど」


 問題を見てもどうやって解けばいいのか全く分からない。


「じゃあ、少しヒントを出すね、②の問題のヒントはアルファベットだよ」


 アルファベットがヒントなのか。アルファベットで問題にできるとしたら順番ぐらいだろうか。1番目にあるのはA、つまり『あ』ということか。じゃあ、119はどうだ。アルファベットは26文字しかない。つまり、1と19か、11と9のどちらかに分かるのだろう。


 ただ、1はAであるのだから二つのアルファベットを構成していると考えるに、11と9で分けるのが正解か。すると、K、Ⅰ、つまり『き』か。


「ヒントの意味が分かったよ」

「じゃあ、答えも分かった?」


 僕はアルファベットを指で数えていく。一文字ずつ揃えていくことで一つの答えが浮かび上がった。


「答えはおんがくしつ、か」

「正解」


 千里は正解した僕を褒めるように手をパチパチと叩いた。


「さっそく音楽室に向かおっか。歩きながら③の問題を解こ」


 ③の問題は二つの問題と違い、なぞなぞっぽい雰囲気が感じ取れる。


「③は少し難しいね、ヒントを出すね。一日って何時間だ」

「二十四時間だけど、それが何か?」

「う~ん、これだけじゃ分からないか。じゃあね、一日に何回も重ってるものって何かない?」


 重なってるものか、時間に関係するものであれば思いつくのは一つしかない。


「時計の長針と短針のこと?」

「そうそう」

「でも、時計の針って二十四回重なるんじゃないの? 二十四時間なんだし」

「えっとね、十一時って短針と長針何分で重なるか分かる」


 僕は頭の中で時計の針を動かしてみる。


「あれ、重ならない」

「そう、だから午前も午後も十一回ずつ重なるから合わせて二十二回」

「じゃあ答えは時計ってことか」

「この学校で時計と言えば……」

「昇降口にある時計台のことか」


 この学校には時計台が昇降口に設置されている。開校二十周年とかで卒業生から贈呈されたとか。


「③まで解けたし、早くスタンプ押しに行こう」


 音楽室では『13』、時計台では『10』のスタンプを回収した。


「じゃあ、あと④の問題だけど……」


 『qeehty』何かのスペルだろうか? いやそう考えるのは早計だ。ヒントのさそりはスコーピオンだからあの英語はそのままの単語の意味じゃないはず。


「たぶんだけど、これは司じゃ解けないかな」

「そんなに難しいの?」

「解くのは簡単なんだけど、見ながらじゃないと無理だと思う。ついてきて」


 何かを見れば簡単に解ける者なんだろう、僕は手を引かれてパソコン室前に連れてこられた。


 パソコン室に来たと言うことはこの単語が意味するのはそういうことなんだろう。


「キーボードか」

「そう、この問題キーボードが頭に入ってないと解けないんだよ」

「え、千里はもしかして頭に入ってるの?」

「うん、この問題も良くあるからね、全部はさすがに覚えてないけど、分かってるのだけで組み合わせてみたら答えにたどり着けたよ」


 パソコンなんて授業ぐらいでしか使わないのに、ましてやキーボードの平仮名の配置なんて普通覚えないだろ……


「ほら、早く入ろ」


 パソコン室も文化祭中はゲーム部によって開かれている。


 僕はキーボードを見て一文字ずつ答えを調べていく。そして答えが分かった僕たちはその場に向かった。


「よし、これで四つのスタンプが集まったね」


 四つ目の場所となる体育館には『4』の数字のスタンプが置かれていた。


「でも、ここからだよ本番は。あと一つのスタンプ見つけないといけないからね」


 数字を眺めてみるが、それらの数字に共通するものはあるのだろうか。①と②は同じ番号ではあるが、二つとも同じものを表しているのか、全く見当がつかない。


 千里もしばらくの間考え込んでいたが、何かを思いついたのか、何か数え始めてこちらを向いてニヤッと笑った。


「その顔をするってことは答えが分かったのか」

「うん、でも司も解いてみてよ。まだ時間もあるし、焦らなくていいからさ」


 千里にそう言われ、僕はもう一度スタンプの用紙を見ることにした。千里は問題が解けた時、何かを数えているように見えた。この用紙の中で数えられるとしたら、スタンプの上にある謎の文章だろう。


 四つのスタンプを見つけるのに、この文章は必要ないはず。それに文字数もバラバラで最初の文字の高さもきっちり揃えられている。極めつけはわざとらしく、一文ずつスタンプの上にあるということ。


 ならば、その数字が示すものというのは一文の何番目かを表しているのだろう。ちょうどその数字が来るところの『うれしい』や『けん闘』との文字が他は漢字であるのにそこは平仮名で書かれている。


 句点も含めて番号が示された文字を導き出すと『うけつけ』という文字が浮かび上がった。


「最後のスタンプは受付か」

「どう? 謎解き楽しめた?」

「もちろん」


 一人では絶対に解けなかっただろうが、千里にヒントを出してもらったりして謎を解けていったので面白いと思った。


「じゃあ、最後のスタンプを貰いに行こうか」


 僕たちは校門前の受付へスタンプを探しに向かった。

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