第19話 文化祭開幕

 文化祭が幕を開けた。開校三十周年と宣伝した効果もあってか、例年よりも多くのお客さんがここ、嵐吹高校にやってきた。


「うわ~、結構お客さん多いね」

「どれだけのお客さんがここに来てくれるかな」

「一人でも多くの人に来てもらえるよう頑張らなきゃ」


 窓からお客さんが校門へとやってくる光景を見てクラスメイト達が思い思いにしゃべっている。昨日の準備により、いたって普通の教室は喫茶店の雰囲気を醸し出している。


 あとはお客さんを迎えるだけである。文化祭実行委員の合図の元、クラスメイト達は自分たちの役割の場へ移動した。


 午前に仕事の入っていない僕はクラスメイト達に労いの言葉をかけ、教室から出て行った。


「さて、どのクラスから回ろうか」


 文化祭のパンフレットを開き、どのクラスがどの場所で店を構えているかを確認する。この時間は自由時間であるが、僕には一つ課せられた仕事がある。文芸部で分担したカメラ撮影をしなければならない。


 もう一人この時間の担当である祐一は一足先に教室から出て行った。祐一曰く、三年の劇を見に行きたいらしい。小説を書いている身からして、学ぶことは多くあると考えたのだろう。


 そうなると、僕は二年生のクラスと部活動の催し物を撮影する方が良いだろう。僕は、この場所から一番近い、二年D組のお化け屋敷に向かうことにする。


「良かった、まだ動いてなかった」


 後ろからトンと背中を叩かれ、後ろを振り向けば、そこには千里の姿があった。


「どうした? 何か用事でもあったの?」

「いやね、せっかくだし、一緒に文化祭回りたいなって思ったんだ」

「僕は別に構わないけど、カメラ撮影をメインとした回り方になっちゃうけど、それでも千里は良いの?」

「うん、大丈夫だよ。あたしは司とまわりたいだけだから」


 千里がそういうのであればと、僕はこの時間中に撮影した居場所を伝え、文化祭を一緒に回ることにした。


 千里からこういう風に誘ってくるのは珍しいことではない。去年の文化祭の時だって一緒に回ったぐらいだからな。


 撮影をする必要はあるが、一回の当番に二、三店舗ぐらいが目安であるので、僕が決めたクラスを回りつつ、残った時間は千里の行きたい場所に行くとしよう。


「二年Aクラスは焼きそば売ってま~す」

「一年Bクラスでは宝探しをやってます」


 看板を持った生徒が自分たちのクラスの店を紹介して回っている。店だけでなく、こういった宣伝しているところも写真を撮った方が良いと思い、許可を得て写真を撮らしてもらった。


 文芸部が写真を撮ることは全校生徒に伝達されていて、一応『撮影担当』と書かれたワッペンをつけてはいるが、写真に写りたくない生徒もいるので、生徒を写真に写すときは許可を取ってから撮影することにしている。


「どう、上手く撮れてる?」

「うん、ばっちり」


 そんな他愛もない話をしながら、僕たちは最初の目的地であるお化け屋敷に着いた。


「さすが、お化け屋敷。人気があるだけあって、たくさんの人が並んでるね」


 並んでいる列を見れば、当初予定していたと思われる枠の外まで多くの人で溢れていた。


「どうする、このまま並ぶ?」


 これだけの人数が並んでいるとかなりの時間を消費してしまうことになる。時間はあるとはいえ、ここだけに時間を取られてしまうのはもったいない。


「人数も多いし、とりあえず他の所へ行こうか」


 諦めてその場を去ろうとした僕たちに後ろから声が掛けられた。


「待って、文芸部の子だよね?」


 声を掛けてきたのは、受付をしていた一人であった。


「もしかして、写真を撮りに来た?」

「その予定だったんだけどね、さすがにこの人数だと……」


 撮影のためだと言えば、順番を入れ替えてもらえるかもしれないが、それは他のお客さんから不満も出ることが容易に想像できるのでこの手は使いたくない。


「でしたら、十一時半頃にもう一度来てももらってもいいですか?」

「いいけど、その時間なら入れるってこと?」

「はい、その時間は私たちの交代の時間なので、点検も兼ねて一時閉店するんです。その時に文芸部の方にも入っていただければと」


 その提案ならば、点検という形で入れるのだから、他の人からの不満も出ないだろう。


「じゃあ、それでもいいかな」

「はい、お待ちしてます」


 今の時間は九時半。他の場所で二時間費やした後、ここに戻ってくれば良いだろう。


「並ばなくては入れるのは良いけど、結構時間がギリギリみたいだね」


 千里の指摘通り、僕たちのクラスの交代は十二時前ということになっている。お化け屋敷がどれほどの時間を費やすかは分からないが、まあ間に合うだろう。


「それじゃあ、次の場所行こうか。千里どこか行きたいところある?」


 僕が行こうとしていたもう一つのクラスは飲食店であるので、まだお昼を食べるのには早すぎる。十一時ぐらいにそのクラスに行けばいいので、残りの時間は千里の行きたいところに行くとしよう。


「私としては美晴ちゃんのクラスに行きたいところだけど、行くなら美晴ちゃんが接客してる時がいいからなぁ~」


 美晴もこの時間はクラスの仕事中であるが、宣伝担当らしく、この時間は教室にいないと言っていた。


 僕としても、一年G組に行くのであれば美晴が仕事をしている時に行きたいものだ。普段見ることのできない姿を見たいという点で千里と同意見だ。


 ただ、僕と美晴は明日の仕事の時間が一緒であるため、その願いは叶わないわけだが、あとで千里にでもどんな様子だったのか聞くことにしよう。


「なら、さっき宣伝してたここに行かない?」


 千里はパンフレットを広げて一年B組を差した。


「宝探しか」

「ダメ?」

「いいよ、じゃあそこに行こう」


 千里は宝探しという名前に興味津々であった。さっきも、宝探しという言葉を聞いたときにもソワソワしているのが横から伝わってきていた。


 昔から千里は謎解きといった頭を使う遊びがとても好きで、もしかしたら今回文化祭で一番楽しみにしてたのもこの謎解きかもしれない。


 千里が行きたいというならば、行かない理由はない。僕たちは宝探しをやっている一年B組へと向かった。

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