第17話 あとは一人で

 検査の結果、問題なしと判断された日の翌日、僕は文化祭準備でにぎわう教室にやってきた。


「大丈夫なのか? 倒れたって聞いたけど?」

「もう大丈夫なの? 無理しちゃだめだよ」


 教室に入ればクラスメイト達が心配した様子で駆け寄ってきてくれた。。僕は一人一人にありがとうと言って祐一の方へと歩いて行った。


「元気そうで良かった」

「ありがとう祐一、いろいろとやってもらって」

「気にすんな、それよりも雲隠には連絡したのか?」


 紗絵香が帰った後、すぐに美晴に連絡を取ることにした。


――――――――――


 病院の中でも携帯を使用できる場所へ移動し、司は一本の電話を掛けた。


「先輩、もう大丈夫なんですか?」

「ごめんね、心配かけちゃって、でももう大丈夫」


 電話の向こうから鼻をすする音が聞こえてくる。


「本当ですよ、無茶しないでくださいって言ったのに」

「そうだったね、約束破っちゃったよ」

「何、のんきそうに言ってるんですか。こっちは本気で心配してたんですからね」

「ごめんごめん、もう元気になったから安心して」

「はぁ……、まあ先輩ですもんね。これ以上言ったところでこれからも無茶するでしょうし……」


 短い付き合いだとはいえ、美晴は司のことをよく分かっている。これぐらいの無茶はこれからもするだろう。ただ、取り乱されるのは嫌なので、美晴の前では一生無理している姿を見せないようにしよう。


「とにかく、今日は安静にして元気な顔を見せてくださいね」


 「明日会いに行くよ」と返事をして、電話を終えた。


「次は千里にもかけないとな」


 もう一人心配しているだろう人物に電話を掛けた。


 美晴よりも長い時間叱られた……


―――――


「心配させないでって怒られた」

「だろうな、雲隠のやつ司が倒れた時、相当取り乱していたからな」


 悪いことをしたのは確かだ、あとで会った時にはもう一度謝っておこう。


「文化祭の準備はどうな感じ?」


 昨日は様子見のために学校へ行くことは禁止されていたために準備がどこまで進んでいるのかは自分の目で確認する必要があった。


「ほとんど終わっているぞ。後は、明日の前日準備で全部終わる予定だ」

「あまり、手伝えなかったな……」

「まあ、入院したんだからしょうがないだろ。その分、明日と当日頑張ればいいさ」

「そうだね、迷惑かけた分、頑張らなきゃ」


 放課後に入ると、文化祭実行委員から今日は特にやることがないから今日は解散していいとのお達しが来た。


 お言葉に甘えるかのように多くのクラスメイト達が帰路へとついた。僕たちも解散を告げられたので、部室に向かうことにした。


「文化祭ももうすぐだね」

「千里はどこを回るのかもう決めているのか?」

「もちろん、全部回るつもりだよ」


 美晴が来るのを待ちながら千里と紗絵香は談笑をしていた。文化祭まで残り二日切っているため、文化祭を楽しみにしている千里からすればワクワクが止まらないらしい。


「カメラ当番もあることも忘れるなよ」

「忘れてないよ、私の技術でいい写真撮って見せるんだから」


 エアカメラでシャッターを切るポーズをする千里。一人だけ気合の入れようが違う。


 その時、誰かの携帯に『ピロン』とメッセージが入る。


「あっ、美晴ちゃんからだ。『申し訳ありません、今日は文化祭準備に手間取ってしまって部活に行けそうにありません』だって」


 千里の元に美晴からメッセージが届いたらしく、文面そのままを読み上げた。


「雲隠が来れないと分かったのなら、これ以上待つ必要はないだろう」

「そうだね、もう始めちゃおう」


 今日は文化祭前日準備の前日、つまり、僕が定めたX探しの期間の最終日。


「今日までみんな付き合ってくれてありがとうね」

「それで、司はXのことを思い出したのか?」

「ううん、結局思い出せなかったよ」


 手掛かりは少しずつ手に入ったけれども、Xが誰かまでは分かることはなかった。


「本当に、今日で終わらせて良かったのか?」

「そうだよ、私たちまだ手伝っても良いんだよ」


 祐一と千里がまだ協力してくれると言ってくれたが、僕は横に首を振った。


「ううん、最初に決めたことだからね、今日までありがとう」

「司が良いのなら俺はもう何も言わない」

「私も司が決めたなら、これ以上言うことはないよ」


 紗絵香は何も言わずただ、黙っていた。僕との約束を律儀に守ってくれているらしい。この期間が終わっても、僕は一人でX探しを続けるということは。


「後で、美晴ちゃんにも伝えておかないとね」

「美晴には後で私から伝えておいてやろう」


 紗絵香に美晴への連絡を任せ、残りの二人の顔を見た。まだ、『本当に良いの?』と言わんばかりの顔をしていた。


「ってことで、この話は今日でおしまい」


 そこで僕は手を『パンッ』と叩いた。


「今からはもう文化祭に気持ちを入れ替えよう」


 表面上ではXのことを吹っ切れた様子をアピールしなければならない。もし、僕にまだ未練があると思われてしまうと、祐一たちは優しいからX探しを続けてしまうだろう。


 だから、僕は文化祭を心から楽しんでいる雰囲気を出そう。そうすれば、二人も僕が本当に諦めたんだと思ってくれるはずだ。


「そうだな、せっかくの行事だ、楽しまなきゃ損だよな」

「私は文化祭全力で楽しむよ」


 やっと、二人も文化祭の方に気持ちをシフトしてくれた。


 これで、いいんだ。これ以上誰かを巻き込んじゃいけない。


 ここからは僕一人で戦わなければならないんだ。

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