第14話 事故
「美晴ちゃん、こっち」
ゲームセンターに来た僕は後からやってきた美晴に自分の居場所を分かるように手を振る。
「すみません、支度に時間がかかってしまいました」
「ううん、僕たちも今来たところだから大丈夫だよ」
美晴の私服を見るのは初めてだった。同じ部員ではあるものの、夏休みに会うとしても高校だけであったし、そうなれば服装は制服になる。
夏休み中に遊びに誘っても良かったのだが、どういう風に誘えばいいのか分からず夏休みが終わってしまった。
こういう時は私服を褒めた方が良いと小説とかで読んだりしたが、結構勇気のいることなんだな。読者という立場ではヘタレだなコイツと思っていたが、僕自身もヘタレだったらしい。
そのまま美晴の私服について何も言えないまま、ゲームセンター中へと入っていった。
「結構騒がしいな」
祐一がそうつぶやくがそれは僕も同意見だった。あまり、ゲームセンターというのに僕たちは興味がなかったため、ここに来たのは初めてだったりする。騒がしいところよりも静かな場所の方で僕たちは好んで遊んでいたからだ。
「意外と広いんですね、ゲームセンターって」
美晴もどうやら来たことはないらしい。それなのに、よくこの場所を提案したもんだな。ひょっとすると美晴が行きたいと思っていたのかもしれない。
「せっかくだし、回ってみるか」
ゲームセンターの中を回ると、色んなゲームが置かれていた。リズムに合わせて太鼓を叩いたりするものや、ゾンビに向かって銃を向けるなどといったものがあった。
「あれなんか凄いですね」
美晴が指を差したのは、車のハンドルとシートのある機械だった。人気があるのか、そのゲーム機の周りには何組かの客がいた。
どんなゲームなのかを見てみると、プレイヤーがハンドルを握って運転をし、目的地までのタイムを競うものであった。
『おお‼』
歓声が上がった方を見れば、ニューレコードと書かれ、新記録を出したことが画面によって映し出されていた。
へ~、面白そうだなと感心しまう。スピードとかも自分で調整できるため、タイムを縮めたい人はギリギリまで攻めたり、逆にスリップするのが怖い人はそこまでスピードが出せていなかったりしている。
上手い人の台に視線が集中していると、どこからか『バンッ』という音が響いた。
「司、見るんじゃねぇ」
そんな祐一の大きな声が聞こえたが、遅かった。その音の出所は、上手い人から左に二台目のところだった。その人の映像には、運転していた車がバスに激突していた。
『バスにぶつかっちまった』
『スピード出し過ぎなんだよ』
どういうわけか、車がバスにぶつかった映像が目から離れない。そして手が震えだした。段々とひどい耳鳴りもし始めて、そしてついには頭痛が襲ってきた。
「司、早くここから出よう」
祐一が何か言っているようだが、僕には何を言っているか聞き取れない。少しずつ呼吸も苦しくなってくる。何故だろうか、あの映像がどうしても目から離れない。目
を背けたはずなのに、僕の頭の中から消えない。
足に力が入らなくなり、膝からその場に崩れる。
「頭が痛いよ、なんだよこれ」
周りにいた人たちが僕の方に駆け寄ってくる。僕は震えが止まらない。そして、僕は気を失った。
――――――――――
ポッケから僕は一枚の紙を取り出す。今から僕は会いに行くんだ。
僕はバスに乗っていた。バスに乗って一人で出かけると言うのは初めてのことだった。
このバスには他にも多くの乗客がいた。僕の前に座る家族は、これから遊園地に行くとウキウキしていた。
後ろの方からは、孫に会いに行くと嬉しそうにしているおじいちゃんたち。
それぞれの人たちがバスによって目的の場所へと向かっていく。僕の目的の場所まであと少し、というところで、
『ドンッ』という音ともに自分の体が吹き飛ばされるような感覚がした。
少しの間だろうか、僕は気を失っていた。
「痛たた……、なんだったんだ今の衝撃」
右手で頭を触る。すると、ベトッとした変な感触がした。恐る恐る右手を見てみれば、右手は赤色で染まっていた。
「うわぁぁぁぁ」
周りを見れば、ガラスは割れていて、あたりに飛び散っていた。前の方から「痛いよ」という声も聞こえてくる。足を押さえている人や、僕と同じく、頭を押さえている人もいる。
「どうして、こんなことになったんだよ」
悲痛な惨状に僕はそれしか言えずに、その場から動くことが出来なかった。
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