第13話 文芸部の秀才

 クラスでの文化祭準備を終えた僕たちはまた部室に集まった。千里は料理の方がまだ上手くいかないらしく、今日も居残りでやっている。


「今日はゲームセンターに行くんだっけか?」

「そうだな、司が決めたタイムリミットまで残り今日入れて3日しかないからな」


 僕が定めたタイムリミットは今週の木曜日。金曜日は文化祭前日準備だ。できることなら気がかりなく、文化祭を迎えたいものだ。


「そういえば、カメラの件はどうなってんだ?」


 文化祭で文芸部の担当になっているカメラ当番について気になった紗絵香がそんなことを祐一に聞いた。


「ああ、無事生徒会の連中とも話がついて正式に仕事の進行の仕方が決まった」


 祐一はバッグから一枚の紙を取り出す。


「これを見てくれ」


 出された紙には、写真撮影の期間は文化祭前日準備を含めた3日間と後夜祭。そして、担当表も書かれていた。


 文化祭一日目 

前半……司・祐一

後半……紗絵香・美晴


 文化祭二日目

前半……千里・祐一

後半……美晴・紗絵香 

後夜祭……司・千里


「千里にはすでに了承を得ているが、他は大丈夫か?」


 担当表を見れば一人二回ずつの担当になっている。クラスの仕事と被らないように調整されているらしい。


「私は大丈夫です」


 美晴に続き、僕や紗絵香も頷いた。


「前日準備の方も撮影期間として頼まれてはいるから、その日は手の空いているやつがやるということで頼むわ」


 調理担当ではない僕たちは、今は比較的に文化祭準備には余裕はあるが、前日となるとどうなるか分からない。逆に料理担当の方が暇になっているかもしれない。


「そういえば、枚数とか制限あるのか?」

「いや、好きに撮ってもらって構わない。あとで俺の方で選別するから、良いと思った写真はガンガン撮ってほしい」

「私たちの間でどこを撮影したという連絡しあった方が良いですよね?」

「そうだな、あとで一クラスだけ撮れてなかったとかいうのがあったらまずいからな。どのクラスを回ったかはしっかり報告することにしよう。他に何かあるか?」


 それ以上は誰も発言をすることはなかった。それほど祐一は上手に話してくれたおかげで疑問が出るようなことはなかった。


「じゃあ、文化祭を心置きなく楽しめるように、司のX探しを終わらせるぞ」


 祐一の声に合わせ、僕たちは帰り支度をする。さすがに、ゲームセンターに制服のまま行くのは少し憚れる。一度私服に着替えてからゲームセンターに集まる予定だ。千里には悪いが今日もお留守番だ。


 昇降口に向かい、靴を履いていると、後ろで紗絵香が誰かと電話している姿が見えた。電話が終わったのか、こちらに寄ってきた紗絵香は申し訳なさそうに手を合わせていた。


「すまない、このあと予定が入ってしまった」

「ううん、全然いいよ。優先度はX探しの方が低いんだからそっちを優先して」

「悪いな、じゃあ三人で行ってきてくれ」


 そう言って紗絵香は階段を昇って行った。


     *


 私が司たちについて行かなかったのはある人物から電話がかかってきたからだ。その人が来るまでの間、私は部室で待っていた。


 電話を受けてから20分後、ようやく部室の扉がガラガラと開かれ、その人は現れた。


「吾輩の住処に帰還なり」

「遅かったですね」

「いや、ごめんね。文化祭準備に手間取っちゃって」


 私を電話で呼び出したのは、神島先輩だった。


「先輩が部活に来るなんて久しぶりですね」

「ちょっと興味深い話が耳に入ったから聞いておきたくてね。あと、紗絵香ちゃん、今は二人しかいないからいつも通りでいいよ」


 先輩にそう言われ、私は気を緩めることにした。正直固っ苦しくてやめたいと思っていた所だったので、あちらから切り出してくれたのは助かった。


「そうだな、静姉が聞きたいことって何なんだ?」


 目の前にいる先輩、神島静香は私の親戚で、小さいときから私にとってお姉さんみたいな存在だった。


 姉弟のいない私にとって、静姉と遊ぶのがとても好きだった。なにせ、私が本に興味を持ったのも静姉の影響だ。


 司たちは私と静姉が親戚であるとは知らない。隠しているわけではないが、話すほどでもないと思って内緒にしている。


「今、司君の初恋の人を探してるんだって?」

「どこでそれを?」

「ついさっきね、部室の前を通った時に、そんな話が聞こえたんだ」

「その時に顔を出せばいいものを」

「だって、盗み聞きしてるみたいで嫌じゃん」


 話を黙って聞いちゃっている時点でもう盗み聞きなんだが、あえて触れないでおく。


「それで、その話は本当なの?」


 勝手に話すべきかは悩んだが、静姉は私に比べられないぐらい頭が良い。もしかしたら、私が気づかないことでも静姉なら何か分かるかもしれない。


 私はラブレターの発見から、昨日の図書館までの話を静姉に話した。話を聞き終えた、静姉はうんうんと頷いて、「なるほど」という言葉を口にした。


「何かわかったの?」

「うん」

「静姉分かったことがあるなら教えて」

「いいけど、その前に一つ約束してほしいんだ」

「約束?」


「うん、紗絵香ちゃんにお願いがあるんだ。千里ちゃんのことを気にかけてあげてね」

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