第11話 新たな選択肢

「つかれた~」


 部室に着いた僕は畳の上に突っ伏していた。なんで高校生って人の恋愛話が好きなんだろうか。まあ、僕も好きな方ではあるので、文句は言えないのだが……


「災難だったな」

「よく言うよ、助けてくれなかったのに」

「いや、つい面白かったからな」

「ったく」


 あの場で助け船を出そうと思えば出せていたのに、面白がって祐一は黙ったままだった。


「でさ、お前に好きな人は結局い……」

「あ、先輩たちお疲れ様です」


 僕の疲労感を癒すかのようないつものかわいらしい声が聞こえてくる。


「美晴ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様です、司先輩なんだかやつれているような気がしますけど何かあったんですか?」

「ちょっと、クラスの男子に絡まれてな、いろいろと話を聞かれていたんだよ」

「へぇ~、どんな話をしていたんですか?」

「いやな、今司の好」

「なんでもないよ」


 興味深そうに聞いてくる美晴の質問に答えようとした祐一の言葉を僕は急いで遮った。


「……そうですか」


 僕は美晴に聞こえないような声で祐一に文句を言った。


「なんで、話そうとしてるんだよ?」

「いや、雲隠も興味あるかなって」

「勘弁してよ」


 ただでさえ、ラブレターの件があると言うのに……。美晴は僕が遮ったことに少し不満そうな顔をしている。悪いが、こればっかりは聞かせられない話なのだ。


 プチピンチを迎えていた僕だったが、少し遅れてやってきた紗絵香によって部室内の空気が変わっていった。


「千里先輩は、今日は休みですか?」

「文化祭準備に手間取っているらしくてな、今日はこっちには来れないそうだ」


 喫茶店をやる以上料理がメインとなるからな。四苦八苦しているのだろう。文化祭まで残り五日だから、クラスとしても手を抜けない時期だ。


 そして、忘れてはならないX探しも僕が定めたボーダーも残り四日に迫っていた。得られた情報もあったが、それでもXの正体にたどり着くまでには至っていない。


「しょうがない、千里抜きで話を進めるか」


 僕はXと遊んだ場所が河川敷であったこと、そしてその日、他にもどこかへ出掛けていた可能性があることを伝えた。


 僕から情報を聞いた祐一が頭を悩ませる。


「それだけの情報だけじゃ、司たちがどこに行ったかなんてのは分からないな。手当たり次第当たりたいところだが、時間が残されていないからな……」

「うん、だから回れてもあと三つの場所ぐらいだと思う」

「そうだ、ここからは俺たちの記憶が頼りだ。小六だった頃の司が行きそうな場所を選ぶしかない」

「そうなると、私には一つしか浮かび上がらない。他に司が行きそうな場所はあそこぐらいだからな」

「奇遇だな、俺も一つしか思い浮かばない」


 二人にはもうすでに結論が出ているみたいだ。二人してその場所を口に出そうとしたとき、美晴が口を挟んだ。


「ゲームセンターとかでしょうか?」

「……ゲームセンター?」


 美晴が出した場所に首をかしげる紗絵香と祐一。美晴とは違う場所を思い浮かべていたのだろう。


「ええ、小学生が行きそうだなと思ったんですけど……」

「確かにゲーセンも考えられなくはないが……」

「俺たちはやっぱり図書館だと思う」


 この町の図書館は河川敷からも近い場所に位置している。確かに河川敷から行くのなら距離的にも考えられる。


「小学生が図書館なんて行きますかね?」

「いいや、いるだろ。現に俺たちはよく行っていたからな」


 本好きの美晴からは考えられない発言にツッコミたくなる。いや、小学生でも行くでしょと。僕たちなんか低学年の時から利用しているぐらいだ。


「ただ、千里は興味なさそうだったけどな」


 僕たちが図書館へ行くと千里はいつも暇そうにしていた。さすがに本に興味のないちさとを図書館に連れて行くのはまずいと思って、図書館に四人で行くことはなく、一人で行くことが多くなった。


「司先輩も図書館だと思うのですか?」

「ん? 僕?」


 いつにもなく、食い下がってくる美晴に驚いてしまう。美晴には悪いが、僕は思ったことをそのまま言うことにした。


「う~ん、僕もその二択なら、図書館だと思う」

「……」


 美晴は何かを言いたそうにしていたが、口を開こうとはしなかった。否定をしたいわけではないが、ゲームセンターに僕は興味を持った記憶がないから、図書館としか考えられないんだよな。


「でも、図書館とは限らないんだ、ならゲーセンも確認してみるのも悪くないんじゃないか?」


 美晴の意見を汲み取り、祐一が提案をする。


「祐一たちが良いなら、僕は構わないけど、手伝ってもらってる側だしね」

「美晴ちゃんも良いかな。今日は図書館、明日ゲーセンに行くってことで」

「はい……それで大丈夫です」

「なら決まりだ。千里には悪いが、時間がない。今日はこのまま四人で行くことにしよう」


 僕たち四人は荷物をまとめて、昇降口の方に向かった。


 上履きから外履きに履き替えたところで、美晴が申し訳なさそうな顔をしてこちらにやってきた。


「先輩すみません。急にクラスの方から呼ばれちゃったので、一緒についていくことは……」

「大丈夫だよ、クラスの方優先してあげて」

「はい、ありがとうございます。明日はちゃんとついていきますので」


 駆け足でいなくなる美晴を僕は見送った。


「あれ、美晴は?」


 美晴の姿が見えなくなったことに気づいた紗絵香が美晴の居場所を僕に尋ねてきた。


「なんか、文化祭準備に呼ばれたから一緒に行けなくなったって」

「そうか……」

「どうかした?」

「いや、今日の美晴の様子どこか変だなって思って」

「疲れてるだけじゃない? この前も山登りに付き合わせちゃったし」

「なら良いんだけどな」


 紗絵香はまだ美晴のことが引っかかる様子だった。いったい短い時間で美晴の何に気づいたのだろうか。

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