第7話 裏山へ
X探しを始めて二日目の放課後、再び部室に集まった僕たちは新たに見つけた手がかりを紗絵香と美晴に伝えた。
「なるほどな、今度の選択は山と川の二択か」
谷口先生との出会いにより、僕は新たに手がかりを見つけることに成功した。小学校、中学校に続いて、また二択だ。
「次はどうするかだが、こればっかりは俺にも心当たりはねえからな。司がどっちに行ったかまでは分からないな」
探すとなれば、僕たちには同じ場所が浮かび上がる。山であれば、小学校の近くにある裏山だ。その山にも名前はあるらしいが、学校の裏にあるからという理由でみんなからは裏山と呼ばれている。
川であれば、河川敷のことだ。日曜日には家族でピクニックをする人たちが多くいる。他にも釣りをしている人がいるぐらい人気スポットである。
「その二択なら、あたしは河川敷かな。あそこなら遊ぶのも楽しそうだし」
「俺もそうだと思う。あそこならいろんな遊びができるからな」
千里と祐一は河川敷だと考えたらしく、河川敷に二票が入る。
「私は山だと思います。運動会のある秋でしたら、紅葉がきれいですからね。散歩するにも良い場所だと思います」
美晴は二人とは逆の裏山に票を入れる。どちらも人気がある場所であるゆえに、意見が割れてしまうのはしょうがないことだ。
「私はどっちも調べればいいと思うぞ。両方調べれば、何かしら新しい手がかりを見つけられると思うからな」
僕と同じく、一つに絞れなかった紗絵香は両方を調べるという案を出してきた。確かにその方向性で僕も良いと思える。偶然、二択の選択が浮かび上がっただけで、調べるのにどちらか一つに絞る必要はないのだから。
「今回は全員で行ってみる?」
昨日来れなかった紗絵香と美晴を入れた五人で行くことを提案する千里。
「いや、悪いが今回は四人に任せたいと思う。カメラの件をそろそろ計画立てとかないといけないからな」
申し訳なさそうに、祐一は僕たちに謝ってきた。頭を下げないでほしい。本来なら全員でやった方が良い仕事を僕のために祐一は頑張ってくれているのだから。
「ごめん、祐一に仕事押し付けちゃって」
「いいさ、このX探しは司のことだから、当人がいないと意味がないからな。ただ、X探しが終わった後はしっかりと働いてもらうからな」
「それはもちろん」
祐一が後夜祭の花火の件で打ち合わせをするために生徒会室に向かったため、残った四人で話し合いを続ける。
「私としては、裏山と河川敷はそれぞれ今日と明日に分けても良いと思う。さすがに今から二か所回るとなるとハードだからな」
位置的な関係で言えば、裏山も河川敷もここから近場にあるため、一日で回ることも可能なのだが、しっかりと調べるとなると時間は足りなくなるだろう。
それに秋に向かい始めているので、日も落ちるのも少しずつ早くなってきている。安全性も考えれば二か所を同時に回るのは避けた方が良い。
「そうだね、じゃあ紗絵香の案を採用するとして今からどっちに向かうかだけど……」
その時、コンコンと部室にノックが響いた。
「失礼します。海風さんいますか?」
「ん? クラスの方で何か問題でもあった?」
千里を呼びに来たのは、クラスメイトであり、今回の文化祭実行委員の子だ。切羽詰まった顔で部室に尋ねてくるもんだから心配になってしまう。
「喫茶店で使う食材の注文をしてみようとしたところ、なかなか予算内に収まらないようでして……、それで海風さんのお手を借りようと思ったのですが、今忙しいですよね……」
僕たちのクラスは喫茶店をすることになっている。夏休み中に準備はほとんど終わっているため、準備自体大変なものは残ってはいないのだが、どうやら食材調達に手間取っているらしい。
「ううん、大丈夫。すぐ教室に戻るから待ってて」
千里が駆けつけくれると分かると実行委員の子の顔が明るくなるのが分かった。相当追い込まれていたのだろう。僕たちに軽く会釈をした後、教室へと戻っていった。
「そういうわけで、あたし文化祭の方手伝いに行って来なくちゃいけなくなったから、あとは任せても良いかな」
「ああ、そっちの方は頼んだぞ」
紗絵香の言葉に千里は「任せて」と胸をドンと叩いて教室の方へと向かっていった。
「ということは、今日は私たちで裏山に登ることになりそうですね」
千里がいなくなったことで、河川敷は明日に回し、今日は裏山へ行くことに決まった。
*
高校から歩いて十五分程度の場所にある裏山に到着した。この裏山を今日は調べるわけだが、何も隅から隅まで調べる必要はない。
昔、四人で遊んでいた場所や、子供でも通れそうな道を探しながら山道を登っていくのがベストだと判断したからだ。それ以外の場所は立ち入り禁止になっていたりと、遊べるような場所ではないからだ。
「何か思い出せそうにないか?」
紗絵香にそう言われるが、今のところそんな気配は一切ない。あれは急に来るものだから、予期できるわけではないのだが。
「ううん、今のところは何も」
「そうか……」
暑い中、山を登っているせいか、しゃべる気力がだんだんと失われていく。もう九月だというのに依然として気温が高いままである。いつになったら涼しくなるのだろうか。せっかく衣替えの準備を早めにしたというのに、全然長袖の出番がやってくる気配がなさそうだ。
いつも元気であるはずの紗絵香でさえ、少し辛そうにしているほど、今日は暑かった。
僕は後ろからついてきている美晴の様子が気になったので、振り返ってみる。足に限界が来ているのか、膝を押さえて息を切らしていた。
「少し、休憩しようか」
ちょうど近くに屋根付きのベンチがあったので、僕たちはそこで休むことにした。
「すみません、足を引っ張ってしまって」
「ううん、そんなことはないよ。それに、付き合わせてしまっているんだから、謝るなら僕の方だよ」
申し訳なさそうに頭を下げようとする美晴を僕は必死に止める。かなり気を遣わせてしまっているらしい。僕は財布を取り出し、近くの自販機に飲み水を買いにいった。
「はい、どうぞ」
僕はジュースの入ったペットボトルを二人に渡した。
「お、気が利くな。サンキュー」
「あ……ありがとうございます」
付き合ってもらっているのだから、これぐらいするのは当たり前だろう。みんな見返りもなしに手伝ってくれているのだ。本当に良い友人たちを持ったと思う。
「それにしても、小さい頃は普通に裏山で遊べていたのに、今じゃ登るだけで一苦労とは、年を取ったな」
どこかのおばちゃんみたいなセリフを吐く紗絵香。まだ高校生だろ、とツッコミをしたくなるが、僕にもそんな気力すらない。
「先輩たちは昔、この場所で遊んでいたんですか?」
「ああ、四人でな。鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、秘密基地も作ったりしたっけ」
子供にとってこの裏山は未知の場所とも呼べるようなものであったために、知らないことや、広い山に興奮したのを覚えている。
「へ~、楽しそうですね……」
少ししょんびりと美晴がしていたような気がしたので、僕はすぐに励まそうと声を掛けた。
「ここの桜もきれいなんだよ。来年のお花見は文芸部で来ようよ」
「……お花見ですか……楽しみにしておきますね」
お花見と聞いて目をパァーっと輝かせた表情に僕はつい目を逸らしてしまった。
「司先輩どうかしました?」
急に目線を逸らした僕に疑問を感じたのか、不思議そうに美晴が首を傾げた。
「なんでもないよ」
「そうですか、何か思い出してくれたのかと思いましたが、そういうわけではないんですね」
「うん」
今のところ何も思い出してはいない。それよりも、今の間で変な空気が漂ってしまった。
『パンッ』
と漂った空気を消すように突然紗絵香が手を叩いた。
「ほらほら、早くしないと日が暮れてしまうぞ。そろそろ動くとしよう」
「そうですね、十分休めましたし、行きましょうか」
紗絵香に促され、僕たちは歩みを進め始めた。
「司でもあんな顔をしたりするんだな」
「……あんな顔って?」
「いや、なんでもない」
顔に出した覚えはないが、紗絵香が言うからには顔に出ていたのだろう。僕は頬をポリポリと掻いた。
結局、僕たちは何も手掛かりを見つけられず、家へと帰ることとなった。
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