第2章 捜索開始
Xの独白
「あなたの思い出は?」
そんな風に誰かに尋ねられたのなら、わたしは五年前の出来事をすぐに答えるだろう。それほど、その日々はわたしにとって強く思い出に残っているものだった。
自分でも驚いたが五年もの間、未だに初恋を引きずっているらしい。その男の子を好きだと自覚したのが五年前、二人で遊んでいる時だった。
どんな時でも、その男の子はわたしに優しくしてくれた。この子はわたしのことを好きなんじゃないかって勘違いしちゃうぐらいに。
だけど、それは勘違いじゃなかったんだ……
ある日、わたしはその男の子から『好き』と言われた。
最初は戸惑った。突然好きと言われて混乱しない方がおかしいと思う。だから、わたしはすぐには自分の気持ちを伝えることができなかった。
その男の子のことを嫌いだったわけじゃない。むしろ、ずっと好きだった。わたしにとって初恋の人だったからだ。そのことに気づいたのが、好きだと言われたからなんて少し恥ずかしく思える。
ずっと、男の子に対して抱いている感情が何であるのかよく分からなかったのだから。
そして、数日経ったある日、今度はわたしの方から手紙を渡した。その中に書いてあるのは、わたしも男の子のことが好きだったということ。
口で伝えるのは恥ずかしくて手紙という形で返事をすることにした。結局、手紙にしたけど、渡したら恥ずかしくなっちゃってその場から逃げちゃったんだけどね。
でも、次の日には会うことになるから、あまり意味はなかったのかもしれない。
わたしたちは両思いである。それだけでわたしは幸せだった。好きな男の子から好きだと言われる以上に嬉しいことはない。
けど、両思いになってからどうすれば良いのか当時のわたしたちにはよく分からなかった。その後も、時々遊びに行っては楽しんで帰る。そんな日々を繰り返していた。
この出来事が高校生のことであれば、デートをしたりとかできたんだろうけど、その頃は、小学生であるがゆえにお金もないから遠くに出かけたりとかはできない。
彼氏彼女ではない、また少し違った関係なのかもしれないのだから、恋人がいたことがあるかと聞かれたらいなかったと言うのが正しいのかもしれない。
でもね、楽しかった日々はそう長く続かなかったんだ。男の子のとの仲を無理やり引き裂くような出来事が私に舞い込んできた。とても辛かった、男の子の前で泣き出してしまうほどに。
だけど、その男の子は私を慰めるためにこう言ってくれた。
『高校生になったら、デートしよ』
わたしが最後に聞いた言葉はこれだった。高校生になったら正式に付き合おう。そんな風にも私は感じ取れた。
でも、その言葉を男の子が言ったのは事故が起きる前の出来事。そして、男の子は交通事故によって、わたしとの出来事をすべて忘れてしまっていた。
まるっきり、その期間の出来事だけ忘れてしまうなんて、神様を恨んだよ。わたしの好きな人を取り上げないでって。だけど、数日経てば命があっただけ良かったのだと受け入れた。
あれから、4年経ったが、未だにその男の子である司はその出来事を思い出してはいない。
そうして、高校生になっても約束を果たせず、わたしの初恋は終わってしまった
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