第4話 X探し
「へ~、こんな手紙を司は貰っていたんだな」
僕と祐一は観念して昨日見つけた手紙のことを2人に正直に話すことにした。美晴は我知らん顔で本を読んでいる。君もさっきまでこっち側だったよね。
そんな僕の心の焦りを知らずに、楽しそうに手紙を見て笑っているのは
「笑い事じゃないよ。司たちったら、私たちを仲間外れにしようとしてたんだよ」
その横でプンプン怒っているのは
紗絵香も頭がよく、学年三位であるため、この文芸部には学年トップ三が所属している。しかも誰一人として順位を変えることなく、ここまで来ているもんだからなお凄い。
僕はというと、学年五十位となんともいえない順位をキープしているため、幼馴染と比べられたときはたまったもんじゃない。
こいつらは少し次元が違うんだよ。同じ勉強時間でも覚える量が全然違うのだから絶対テストでは勝てない。何度違うもので勝負を挑んだことか……
「それで、見当はついているのか?」
「全然。記憶がないときのものだからね、何も手掛かりがないよ」
僕は首を横に振った。もし見当がついているのであれば、誰にも相談することはなく解決しようとしていたよ。それが無理だったから祐一に相談を持ち掛けたんだ。まさか全員に知られることになるとは思わなかったけど。
「まあ、そうだよな」
「紗絵香は手伝ってくれるのか?」
「ああ、面白そうだしな。付き合ってやってもいいぞ」
予想通り、紗絵香はノリノリで協力をすると申し出てくれた。だが、その一方で千里の方は難色を示していた。
「私は反対。司分かってる? この手紙の差出人を探すことって、記憶を取り戻すってことだよ。それってあの事故を思い出すことになるって分かってて言ってるの?」
事故を経験してから何年も経っているのに僕が記憶を取り戻そうとしなかったのは、どうも事故のことを思い出そうとしたとき、発狂したことが原因だったらしい。それで、両親も僕の記憶を取り戻そうとすることは一切しなかった。
なので、僕はどんな事故に巻き込まれて、どんな被害が出たのかさえ知らないのだ。周りの人たちが徹底してその事故について僕に関わらそうとしなかったから。
千里が心配しているのは、この手紙の差出人を探せば、その事故のことも思い出してしまうかもしれないことだろう。記憶を取り戻すことは事故付近の記憶を取り戻すことになる。都合よく、事故のことは思い出さないで、女の子のことだけ思い出しましたなんてことはまずないだろうからな。
「うん、千里が言いたいことは分かるよ」
「なら……」
「でも、僕は決めたんだ、その子を探すって」
「そう……、司が決めたなら私はこれ以上何も言わない。だけど、無茶をするのはダメ、それだけは約束して」
「うん、約束するよ」
僕の考えを尊重してくれたようだったが、まだ納得できていないのか不満そうな顔をしていた。だけどごめん、千里。僕は無茶をしてでも記憶を取り戻さないといけない理由があるんだ。
手紙の差出人を全員で探すということになったので、僕たちは部室の真ん中の席に集まった。
祐一は部室においてあるホワイトボードを持ってきて、今分かっている状況を書き連ねていった。
・手紙の差出人は不明……今後はⅩとする
・司はⅩのことを覚えていない
・Ⅹから手紙を受けったのは小六から中一の夏の間
こうして書かれたものを見るだけでも情報が少ないことがよく分かる。これだけの情報だけで見つけられるものなんだろうか。
「やっぱり、司がいつXと会ったのかが問題だよな」
「先輩たちは司先輩がXって子と会っていたことに覚えはないんですか?」
美晴の言葉に三人そろって首を横に振る。三人の反応を見た後、美晴は自分の考えを話し出した。
「覚えてないのでしたら、司先輩がXと出会ったのは中学生の時なんじゃないでしょうか?」
「どうしてそう思うんだ?」
「千里先輩たちが覚えていないのなら、それは新しい環境になったばかりだからなんじゃないかなと思ったんです。中学一年生でしたら新しくできた友達とどこかへ出掛けることもあるでしょうし、そんな時にそのXと出会ったんじゃないでしょうか?」
確かにそれなら祐一たちがXを見かけていないのも説明がつく。同じ学校であったなら祐一たちと出会う前にXが引っ越したのかもしれない。
「凄いね、美晴ちゃんきっとそうだよ」
美晴の考えに僕は強く頷いた。新しい友達が出来て、そのメンバーで出かけた先でXに出会ったのかもしれない。
「……いや、待ってくれ」
何かを考えていた祐一が美晴の考えに待ったをかける。どうやら祐一には違う考えを持っているらしい。
「司は中学の時はずっと俺たちと一緒に遊んでいた。少なくとも事故が起きるまでの間は」
「そうなの?」
「ああ、そのことははっきり覚えてるんだ。中学に入ったばかりの時はテストやら体育祭やらで忙しかったからな。ずっと俺たちと一緒にいたはずだ」
「じゃあ、僕がXと会えるような時間はどこにもなかったってこと?」
祐一たちがずっと僕のそばにいたのなら、誰かしらXのことを知っているはず。でも、それがないということはXと会ったのは別の時期ということ。これでは、時期を絞ろうにも絞ることができない。
「いいや、司がXと会っていたと考えられる時期はある」
「そうなの?」
「ほら、覚えてないか? 司が急に俺たちと付き合いが悪くなった時期があったこと」
付き合いが悪くなった時期? そんなことがあったとは思いもよらなかった。僕はいつもこの三人と過ごしていた。それは記憶を失った期間もずっとそうだと思っていた。
「あった、あった」
「……そんな時期あったっけ?」
祐一の言葉で紗絵香は思い出した様子だ。その一方で千里は覚えがないようで、目線がどこかへ行ってしまっている。記憶力の良い千里でも覚えていないこともあるらしい。
「それっていつぐらい?」
「小学六年生の秋ぐらい」
つながった。僕がXと出会ったのはその時期で間違いないだろう。
「そうと決まったら、徹底的にその時期の司のことを調べるか」
やっと方向性が決まり、僕たちはX探しに本腰を入れようとしたとき、スピーカーから音声が流れた。
『え~、文芸部の日向司君、
「お前たち何かやらかしたのか?」
紗絵香にそう言われるが、思い当たるようなことは何もなかった。
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