第2話 咳をしても二人(後編)

 時刻は19時を回った。朝からあんまり食べ物を食べてなかったので流石にお腹が空いてきた。さっきから台所では、茉美が高校の家庭科の授業で作った可愛い犬が描かれたエプロンを着て何か作っている。


「茉美〜、おなかすいた〜」


「もう少しでできるからもう少し待ってて!」


「あとどれぐらいでできる?」


 少し笑いながら茉美は「うーん、一年後ぐらいかな」と言った。


「うーん、その時には餓死してるかな」


「じゃあ、仏壇にお粥飾っておくね。今日作ったやつ。その時には腐っちゃうかな」


「いや、今食べさせてよ!」


「ははは、冗談よ。もう、少しで特製のお粥できるから机片付けててね」


「分かった。特製って何入ってるの?」


 こっちを向いてキメ顔をしながら「ふっふっふ、それは食べてからのお楽しみです!きっと美味しいよ!」と普段よりも少し大きい声で茉美は喋った。


「ははは、それは、食べるのが楽しみだな」


お粥を作ったということは、彼女が俺の体を気にして、なるべく胃に負担がかからない物を食べさせたいという気持ちで作ってくれたのだろう。それを考えると俺の中の小さな俺が「この幸せ者が!」て肘で脇腹を突ついてきた。そんなことを想像しながらせっせとお粥が完成する前に机の上に散らかった紙やリモコンを片付けた。


「お待たせー、完成したよ!」


「おー、美味しそうだね!」


「じゃーん!これが茉美特製のピリ辛坦々お粥です!お代わりは、まだまだあるからいっぱいお食べよ!」


 エプロン姿のまま茉美は、俺の右前にお姉さん座りで座った。胸の辺りの犬が描かれている部分が茉美の胸の大きさで少し歪んでいる。そのせいで犬の顔が悲しそうに見えるが本人は、至って気にしてない様子でニコニコしている。


 俺は、スプーンを手に取り「いただきます」と言った。


 口にお粥を入れた。「うまい!」と舌から脳に味が伝わった瞬間に口から言葉が出てしまった。


「美味しいね!これ!」


「やったー!こんな味好きかなって思って作ったよ!」


「ピリって辛いのも美味しいね!この後からくる胡麻の風味も最高だし、言うことなしだよ!この鳥肉も柔らかくて美味しいね」


「あー、その鳥肉ね、実はサラダチキンなんだ!割いて入れるだけだから簡単にできるんだよ!胡麻は、胡麻ドレッシングで代用して、ラー油は、食べるラー油使ったら思っているよりも簡単に作れるんだよ!」と笑顔で説明している彼女を見ると絶対に残さないという決意が芽生えてきた。


「すごーい!結構いっぱい作ったのに全部食べたね!そんなにお腹すいてたの?」


 腹を抱えながら「いや、茉美の作る料理が美味いから、つい、全部食べてしまった」と胃から溢れそうなものを抑えながら言った。


「ふーん、そう言うこと言うんだ〜。仕方ない!嬉しかったからまた作るよ!」


「ふ、茉美はちょろいなー」


「ちょろくない!春くんのことが好きなだけだもん‥」


「俺も大好きだよ!」


「もう!そう言うこと言うの禁止!」


「なんで?」


「だって恥ずかしくなるから‥」


 その堪らなく可愛かった顔が見れただけでも良いと思った、風邪を引いた週末でした。




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咳をしても二人 黒バス @sirokuro2252

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