咳をしても二人
黒バス
第1話 咳をしても二人(前編)
風邪を引いて二日が経った。現在の体温は36.8°C。体温計をしまった。
ベットの上で何もすることがないので常に天井を眺めるだけの時間が二時間過ぎた。流石に年中怠け者で頑張らないことを第一の信条に掲げている俺でさえ、寝るのに飽きた。
ブルーライトが体には、良くないと一個下の彼女の茉美(まみ)に没収された。あー、「無限暇潰し装置」が没収される。
「ちゃんと寝てる?」とエプロンをつけた茉美が部屋に入ってきた。
「寝てますよー」
「寝てないじゃない。ちゃんと寝てないとダメでしょ」
「いや、昨日一日中寝てたから、もう眠くないんだよ」
「それでも寝なさい。病み上がりなんだから気をつけないとダメでしょ」
そう言って茉美は俺の身体に布団を優しく掛けてくれた。
俺の彼女の茉美は、面倒見が良く、少し口うるさいが優しくて可愛い彼女だ。学生の時代に陸上していたせいで細身の割に少し太ももがムチッとしている。スキニーを履くと程よく肉ずいた太ももが主張されて太ももフェチの自分的には最高だ。
「全く、寒中水泳大会なんて馬鹿げたものに出るから、風邪なんてひくのよ。ほんと馬鹿ね」そう言いながら茉美は俺の布団の隣で洗濯物を畳み始めた。
「なんか、彼女というよりもお母さんて感じだよな」
「はぁ?何言ってんの!」
「だって茉美って、ご飯作れるし、面倒見良いし、家事何でもできるからさ、お母さんて感じだよな。きっと、将来いいお母さんになるよ」
「何よ、いきなり照れるじゃない!褒めても何も出ないわよ」と少し顔を赤くして洗濯物を収納ボックスに片付けにいった。
「風邪になると寂しくなるというよね」
「どうしたの?急に、辛気臭いな」
「だって、よく言うじゃん。咳をしても一人さ、これって結構昔の俳句なんだけど、少しわかるんだよな。風邪の時って人恋しくなるじゃん」
「そういものかな?あんまり風邪ひかないからわからないや。てかそれ俳句なの?なんか悲しい歌ね」
「一応俳句らしいよ。尾崎放哉て人が作った自由律俳句ってやつ」
「つまり、独り身は風邪を引くと辛いってことね。よかったね!春(はる)くんに私がいて!」
「そう言うこと自分で言っちゃうんだね」
「言ってもいいでしょ、現に春くんが風邪を引いたら家に来て付きっきりで看病してあげてるじゃない。こんな女の子なかなかいないよー」と少し頭を撫でて欲しそうに頭を近づけてきた。
「分かった、分かった、いつものな」と言い、俺は茉美の頭に手を伸ばして、子犬が投げたボールを取ってきて、褒めて欲しそうに尻尾を振って待っている時の目をしている彼女の頭をなでなでした。
頭を撫でると「むふふ」と喜ぶ顔の彼女が嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめている。いつもやっていることだけどまだ慣れないらしい。
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