Phase.74 ディッピー・ダウグ少佐の手記2




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 正午。張り巡らされた鉄条網によって、これまでの騎兵隊の戦術が役に立たなくなったことをようやく悟ったのか、無駄な流血の末に、敵はシリアスヴォーゲル川の向こう側に撤退した。

 周囲の丘は赤く染まり、すでに腐臭が漂い始めていた。一時停戦のための使者が来たので、これを受け入れ、兵士と馬の死体を片付けさせた。


   ― ― ―


 十五時。どうやら、敵はインシデンタンバ丘に砲兵陣地を設けたようだった。三門の野戦砲によって囮の防御塹壕とダファーズ・ドリフトの周辺が狙われたが、私の知る限り、砲撃で負傷した者は一人だけだった。何発かが砦にも命中し、兵舎と司令部の窓ガラスを破壊したが、被害はそれだけだった。砲撃によって崩された塹壕も、すぐに土嚢を積み直して修復された。

 砲撃は日没まで一定の間隔で続いたが、敵は明らかに我々の陣地と戦力の範囲を完全に把握しきれず、多くの砲弾を無駄にしているようだった。


  ― ― ―


 十七時。射程圏外の南北に敵が駆けていくのに気づいた。おそらく夜間に至近距離に迫って攻撃を仕掛けるために、ダファーズ・ドリフト以外の地点から渡河する部隊だと推測された。この情報を共有し、見張りを強化するように指示を出した。


  ― ― ―


 十九時。戦闘はなく、静かな夕暮れだった。周囲の静けさを破るのは、遠くの牛の鳴き声と、塹壕で配られる糧食を食べている兵士たちの陽気なざわめきだけだ。これが嵐の前の静けさであることはわかっていたが、心地よい夕暮れ時だった。

 ずっとこのまま時が止まってくれればいいとも思ったが、そういうわけにもいかない。

 砦の指令室を出て、防御塹壕を守るアイズ軍曹と、機銃陣地の死角となる丘の北西を守るカネトリ氏に挨拶をした。

 マキシム銃とガトリング銃は敵に見つからないように隠蔽されたままだ。これらの出番は、敵に防御塹壕を奪われた時を待たなければならない。


 ……だが、切り札があるというのは、じつに頼もしい限りだ。


 私は砦の周囲の塹壕を見回りながら、フォート・グラント周辺の風景についた奇妙な名称について考えた。リグレット・テーブル山にインシデンタンバ丘、ウォッシュアウト丘、シリアスヴォーゲル川、そしてダファーズ・ドリフト……一体、どういう意味なのだろう?


   ― ― ―


 夜中一時頃。ダファーズ・ドリフト付近で数回の銃撃戦があったが、散発的なものでどちらもとくに行動を起こすことはなかった。しかし、この一時間後に大規模な攻撃が仕掛けられる前哨戦だったとは、その時の私は知るよしもない。


   ― ― ―


 二時頃。静かな夜は突如として終わりを告げた。見張りの叫び声で、私の眠気は吹き飛んだ。次の瞬間、全方位から沸き起こる南軍の雄叫びレベル・イェールが一斉突撃の始まりを告げた。耳を塞ぎたくなるほどの叫び声の後、各地から敵とも味方とも判別がつかない銃声が鳴った。

 しかし、次の瞬間、敵はカネトリ氏が事前に仕掛けていた罠に引っかかり、至近距離からの一斉射撃という鉄の壁にぶつかった。

 各地で即席の地雷が爆発し、灰色の制服の男たちが吹き飛ばされる姿が火の粉とともに見えた。味方の照明弾が上がり、丘の全周に張り巡らされた鉄条網に苦戦する敵兵を照らし出す。

 突然の奇襲に、最初は呆気に取られていた味方も、すぐに態勢を立て直した。砦に配備されていた新式のボルトアクション・ライフルが足りず、義勇兵に貸し与えられたのは旧式のスプリングフィールド銃だけだったが、この距離では性能の差など関係ない。指揮官の合図で撃ち鳴らされ、トラップ・ドアが一斉に薬莢を弾き上げた。

 敵は南と西、そして東から防御塹壕に集中して迫ってきた。味方は奮戦したが、あまりの数にすぐに塹壕を手放すことに決めた。ピンカートン探偵社の面々が殿をつとめ、防御塹壕を守っていた男たちは次々と連絡壕を伝って丘の中腹に撤退していった。

 そして、防御塹壕が完全に敵の手に落ちた時、待ってましたと言わんばかりの、激しい連続射撃が機銃陣地から行われた。上から狙われ、敵はひとたまりもなかった。連絡壕を通って、丘に駆け上がろうとする者たちも、態勢を立て直した男たちによって撃退された。ここを凌ぎ切れば……しかし、その時、砦ではある異変が起きていたのである……】



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