Phase.72 オペレーション・ダファーズ・ドリフト(愚者の渡し作戦)その5「防衛陣地の構築完了」




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 ダウグ特任大尉の指揮の下、丘の上にあるグラント砦を囲むように射撃塹壕が掘られた。

 これは五人の兵士を収容できる長さの、湾曲した短い塹壕から作られ、掘削した土の一部は塹壕の後ろに一メートルほどの高さに積み上げられた。ほとんどの場合、この胸壁には地面の高さから射撃するための溝が設けられており、兵士は塹壕内から丘の下に向かって射撃を行えるようになっていた。両側の胸壁の高さも兵士の頭を守るのには充分だった。

 これらの射撃塹壕の建設が順調に進んだので、すぐに連絡壕の建設が開始された。連絡壕は狭く深く、一つの塹壕から次の塹壕へとつながり、南北に砦の内部につながる門があった。

 東西南北に、兵士たちが立ちながら射撃しても見られないような見張り小屋が立てられた。ここには予備の弾薬が詰め込まれ、内部には銃弾が貫通しないように土嚢が積まれ、側面には外からはまったく見えない銃眼が空けられた。各小屋には一度に三人が射撃できるスペースがある。下の塹壕にいるよりも有利な位置で狙えるため、狙撃手には最高の場所だった。

 砦の周囲の工事が進んでいるのと同時、シグルドの指揮の下、ダファーズ・ドリフトを狙うことができる南西の丘の中腹部に、マキシム銃とガトリング銃による機銃陣地が設けられた。この下には正面で敵の攻撃を引きつけるための囮の防御塹壕があり、丘の傾斜に沿って、砦に続く連絡壕が掘られていた。

 大砲で攻撃されることを見越して、防御塹壕の断面が一直線にならないように気をつけられた。深さは三メートルほどで、その前には二十センチほどの胸壁があったが、この胸壁はそれぞれで体格に合わせて塹壕の下側をくり抜き、身長に合わせるようにしていた。そして自由に移動できるように、塹壕の上部はできるだけ狭く作られた。


――これらの陣地構築で、一番奮闘したのはカネトリだった。


 カネトリはまるで集中せざるを得ない・・・・・・・・・といったように陣地構築に打ち込んだ。塹壕構築には素人同然である〈トム・ソーヤー〉の面々にてきぱきと指示を与え、鉄条網を丘の周囲に張り巡らせた。当然、有刺鉄線は砦の備蓄では到底足りなかったため、町や付近の牧場からかき集められ、砦の周囲だけでなく、川岸などの進入路もすべて潰させた。

 これにより、少なくとも騎兵が丘を駆け上って攻めてくることは不可能になった。

また、それだけにとどまらず、各鉄条網の間には、余っていた十二ポンド・ナポレオン砲の砲弾を活用した電気着火式の即席地雷や、手榴弾や落とし穴などの罠が仕掛けられた(この間、全力で作業を進める武器商人の背後に、リジルの謎の圧力があったことは言うまでもない)。

 砦の中庭には怪我人を収容するための野戦テントが建てられ、そのすぐ側に退避壕が掘られ、最終的に立てこもることになるレンガ造りの兵舎にもバリケードが敷かれた。

 南軍が襲撃に向かっていることは、すでに付近の駐屯地にも電報で伝えられていたが、一番近くの停車駅であるダッジ・シティからも距離があるため、増援部隊の到着は早くとも三日後になる見通しだった。そのため、最低でも一週間は籠城して戦い続けられるように、町からも必要な弾薬、食料、飲料水などが続々と運び込まれた。

 それぞれの指揮もあってすべての作業が効率的かつ急ピッチで進められ、日没には完了し、グラント砦はこれまで誰も見たことのないような強固な要塞と化したのだった。


「ああ、思い出しました。もう一つ、必要なものがありました」

「なんだ?」


 泥まみれの身体をタオルで拭いながら、この数時間でかなりたくましい顔つきになった獣人将校は言った。


「作戦名です。僕はこの作戦を、〈愚者の渡し作戦オペレーション・ダファーズ・ドリフト〉と命名します」




――つづく

ちなみに、〈愚者の渡しダファーズ・ドリフト〉というのは、第二次ボーア戦争に従軍した英国陸軍のアーネスト・ダンロップ・スウィントン大尉による戦術論の古典的な教科書、『愚者の渡しの防御(The Defence of Duffer's Drift)』からの引用です。

近状ノートに周辺の地形図を作成しましたので、それを事前に見ていると想像しやすいと思います。

次回、フォート・グラント防衛戦……君は生き延びることができるか?



コツコツと続けております、『UNDERSHAFT Ⅱ -ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ディキシーランド-』も最終幕に突入!

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