Phase.71 オペレーション・ダファーズ・ドリフト(愚者の渡し作戦)その4「致命的な尻尾」




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 ウォッシュアウト丘陵の要塞化はつつがなく進んだ。どうやら、砦の司令官だったカービー・ヨーク大佐は以前から居留地に住むエルフ一族と友好関係を結んでいたようで、彼らの協力を得るのに苦労はなかった。

 それよりも幸運だったことは、野蛮な南軍から土地を守るために、数十人のエルフ戦士団が味方に加わってくれたことだった。

 土嚢を担ぎあげ、次々と塹壕構築に加わっていく金髪碧眼のすらりとした美形の男たちに、リジルは興味津々だった。


「あれが……エルフ……っ! 耳が尖ってる!」

「おい、あまりじろじろ見るな。失礼だろ」

「あの、あなたがカネトリさんですか?」

「ん、ああ」


 呼び止められ、二人が振り向くと、ダウグ特任大尉は軍靴を鳴らして敬礼した。


「義勇兵に協力、ありがとうございます! アイズ軍曹から英国の武器商人だと聞きました。失礼ですが、以前はなにを?」


 その問いでカネトリは大尉がなにを言わんとしているかわかった。〈銃後のお茶会フロック・ティーパーティー〉には軍人崩れが多い。そのことをシグルドは知っていたのだ。


「英国陸軍で士官をしていた。なんだ、指揮官が足りないのか?」

「はい。恐れながら……部隊の指揮に加わっていただけると助かります」

「わかった。手伝おう」

「ありがとうございます! あの、丘の周囲に有刺鉄線を張り巡らせようと思うのですが……」

「なるほど、鉄条網か。了解した。そっちは俺が指揮しよう」

「よろしくお願いいたします!」


 カネトリはぶんぶんと振られる特任大尉の尻尾に反射的に手を伸ばし、


「えっ?」

「えっ、あ、いや……」

「…………」


 背中に突き刺さるリジルの冷たい視線もあって、さすがに自制した。

 カネトリから差し出された手をじっと見つめて、ダウグ特任大尉は顔を輝かせて、その手をぎゅっと握り返す。


「す、すみません、握手に慣れていないもので……」

「あ、いや……うん、力強い手だな」

「そう言っていただけると嬉しいです!」


 ぶんぶんと振られる手を解放して、大尉は「ワンッ!」と力強く言った。


「おっと、失礼。では、よろしくお願いします!」

「あ、ああ。頑張れよ……」

「はい! カネトリさんも!」


 大尉は踵を返し、塹壕掘りの指揮に戻った。


「今、尻尾……」

「気のせいだ」

「男なのに……」

「絶対に気のせいだ。勘違いするな」

「…………」

「…………。……さ、さあーって、鉄条網を張り巡らせるかな~っ!」


 リジルのじっとした視線を躱し、カネトリはわざとらしく伸びをして人員集めに向かった。



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